ダンジョンに挑戦 4
緑色のモンスターはのっしのっしとこちらへ迫ってくる。歩いているが、動きは結構速い。
「よし。とにかく囲むぞ」
「一体だけなら余裕だろ」
「一斉に技で攻撃するからな。いくぞ」
シラーとビッホが左右に回り、ラッシとガッツォが槍を向けて待つ。
私もラッシの隣に来て盾を構える。このまま上手く倒せればいいけど。
モンスターは回り込む2人を気にせず、ラッシへと向かった。あと一歩で接触するという距離で、四人が一斉に武器を振る。
「パワースラッシュ!」
「パワーランス!」
私は様子見して、成り行きを見守った。四人の技は全て、モンスターに当たった。
けれど、致命打にはならなかった。四人の武器は全て、モンスターの体で止められた。
「なっ」
四人が驚く中、モンスターがラッシに殴りかかる。
「パワースラッシュ!」
ここで私も一撃入れた。首の位置に、完璧に当たる。
けれど、緑色の体にいくらかくいこむと、スパスパと細かいものを斬る手応えを感じながら、剣は途中で止まった。
そこでわかった。これは、木だ。
緑色の正体は、葉っぱだ。細かい枝が真ん中からいくつも伸びていて、その先に小さな葉っぱがびっしり出来ているのだ。
無数の枝を斬りつけた武器は、そこで勢いを削がれて止まってしまった。きっと本体の幹は、無事だ。
モンスターがラッシを殴りまくる。ラッシはたまらずに倒れた。そこに更にモンスターが迫る。
きっとここがギリギリだ。私はモンスターから離れながら頼んだ。
「モエル、攻撃!」
「にゃあ!」
(火魔法!)
モエルが大きな火を放った。
モンスターはよく燃えた。全身燃え上がる。皆下がった。ラッシもなんとか離れる。
けどモンスターは一度うずくまると、途端に走り出してラッシに近づいた。
「ひ、ひい!」
ラッシはまだ立ち上がれていない。このままでは火だるまとなったモンスターがラッシを襲ってしまう。そうなれば火傷だけでは済まないだろう。下手をすれば大怪我だ。
そこまで思うと、自然と体が動いた。
「ハードガード!」
技も使って、盾を前にしてたいあたりする。横から来た私とまともにぶつかったモンスターは、少しよろけたが、今度はターゲットを私に変えて襲いかかってきた。
防御の仕方も、ジュージから教わっている。私は絶えず動きながら、モンスターの組み付きを阻止し続けた。盾で押し留め、剣で相手の手先を斬る。なんとかこちらへのダメージは抑えられていた。
相手の体は、燃えているからか切りやすくなっていた。でも火の勢いと接近する勢いが強くて、こちらに余裕はない。早く燃え尽きて倒れてくれればいいのだけど。
「にゃー!」
(ニリハ、助ける、火魔法!)
ここでモエルが更に、火魔法を叩き込んだ。その衝撃で、モンスターが立ち止まる。
やった。倒した。
そう思ったのがいけなかった。またモンスターが急に動き出して、私にとびついた。
「きゃ!」
私は悲鳴をあげて、とびのく。
盾を持っていたのが幸いした。モンスターの手は盾に阻まれ、剣で斬られて短くなっていた方の片手が、私の足首に少し触れた。
とっさに足をひっこませて、離れる。幸い大したケガにはなっていない。
ここでモンスターは、完全に動きを止めた。
モンスターを燃やす火が自然に消えるまで、皆倒したモンスターを見つめていた。
「にゃあ?」
(ニリハ、なんともない?)
「ええ。私は大丈夫よ。ありがとう」
私はいくらか余裕を取り戻し、モエルの頭をなでる。
「モエルこそ、よくやってくれたわ。またあなたに助けられたわね」
「にゃあ!」
(俺が敵を倒した。けれど敵、しぶとかった!)
「そうね」
この敵とは、もう二度と会いたくないかもしれない。そう思わせるくらい手強かった。
五人から技を受けてもびくともしない頑丈な体。相当厄介だ。モエルがいなかったら私達は、全滅していたかもしれない。
「ラッシ。傷は大丈夫か?」
ガッツォがそう訊いた。
「あ、ああ。いや、かなり痛い。これはポーションだな」
ラッシの顔は血まみれだった。重症ではないようだが、見ていて痛々しい。自分でポーションを顔にかけて、一息ついた。
「でも、なんとかなって良かったな!」
シラーがそう言うが、皆うつむきがちにしていた。
ここが良い頃合いだろう。私は声を大きめにして言った。
「いいえ。今のは危なかったわ。モエルがいなければ死んでいた。ここが私達の限界よ」
「なんで、そんなことねえよ。まだ全員無事じゃねえか。このモンスターはたまたま強かっただけだ。次用心すればいいんだって!」
「シラー。こいつはきっと、ダンジョンからあふれてきたやつだぞ。つまり、ダンジョンにはこいつがいくらでもいる」
ビッホが悔しそうに言った。
「俺達じゃ、死にに行くようなもんだ」
「だ、だとしても、ここで帰ったらなんにもならねえじゃねえか!」
シラーが皆を見る。
「俺達はここで稼ぐ。あともうちょっとくらい頑張れるって。ポーションも5つも使った。5つもだ。これで帰ったら儲けはどうなる。せめてもう少し進もうぜ!」
ここで沈黙が生まれる。皆動こうとしないということは、迷っているということか。
皆まだ、諦めきれないんだ。ダンジョンにはお宝があるって信じてるから、無茶でもやろうと思ってしまうんだ。
でもそんな自殺行為、私にはもう付き合えない。
帰るなら今だ。皆そう思ってもいるから、黙ったままでいる。ならあとは、帰る理由をあげるだけだ。
「モエル。魔法はあと、何回使える?」
「にゃあ」
(全力で使ったから、あと、1回、か2回? さっきの強いのは、もう無理)
「そう。皆。モエルはもう火魔法を使い切ったわ。だから私は用心してここで帰る」
私は皆を見て言った。すると皆顔を見合わせ合う。
「そうか。二リハがいなくなるのか。モエルも、もう」
「じゃあ、俺達も」
「ま、待てよ。まだ俺達元気だろ。ダンジョンにすらたどり着いてないぞ?」
シラーがそう言うが、やはりこれ以上は付き合いきれない。暗くなる前にさっさと帰ろう。
「じゃあね、皆」
「ま、待て。俺達も帰る。もうポーションもほとんどないし、手に負えないモンスターとも出会った。ここらで一旦帰るべきだ。な?」
ビッホがそう言うと、ラッシとガッツォはしぶしぶうなずいた。
「まあ、そうだな」
「どうやら俺達にはまだ、ダンジョンは早すぎたようだ」
「な、なんでだよ。ここで諦めるのかよ、お前ら!」
「諦めてない。ただ、今はその時じゃないってだけだ!」
ビッホがシラーに怒鳴った。
「誰がこの知らないモンスターを倒したと思ってる。俺達じゃないんだぞ。そこをもっと考えろ!」
「ぐっ」
シラーがやっと黙る。彼も帰る気になってくれたらいいけど。
「だが、二リハ。帰り道も1人じゃ危険だろう。俺達はこのモンスターの燃えた後が冷めたら、それを持って帰る。それまで一緒にいよう。そして帰ろう」
「ええ、わかったわ。私もそれでいい」
私も、モエルと2人だけで無事に帰れるとは思いきれない。またサンドスネークに会うかもしれないし、このモンスターと再会したら絶望的だろう。やはり仲間は欲しい。
ここは最後まで、協力関係を築こう。
「熱い。まだ持てないな」
ビッホがモンスターの燃えた後を触って言う。
それから私達は、静かに時が経つのを待った。




