ダンジョンに挑戦 1
採取依頼をいくつか選んで、受付に持っていこうとすると、目の前に体の大きな冒険者が現れた。
「おい、お前。そいつ、カジーニャだな」
「は、はい」
「モンスターが町の中にいるのか」
男はモエルを見ている。モ、モエルを守らないと。
「この子は、私の仲間です」
「そうか」
男はそう言って、近づいてくる。
「にゃあ?」
(こいつ、敵?)
「大丈夫、平気よ、モエル」
冒険者は他にもいっぱいいる。ここで迂闊な真似はできないはずだ。
少し睨みつけていると、男は言った。
「なあ、そいつ、触ってもいいか?」
「へ?」
「そのカジーニャだ。頭をなでたい」
途端に力が抜けた。なんだ、ただの猫好きか。
「カジーニャ、どうする、触ってもいいって?」
「にゃー」
(嫌。触るな)
「ダメですって」
「そうか。ちょっとでもダメか?」
「たぶん、ダメです」
男は見るからに落ち込んだ。そこまでしょんぼりされると愛嬌があるように見える。
「そうか。お前は、カジーニャの言っていることがわかるんだな」
「はい。なんとなく。考えが伝わるんです」
「おい、ダンラク、何してんだ!」
そこで女性もやって来て、カジーニャを見た。
「ああ、スーフィン。今、カジーニャを触らせてもらおうとしてたんだ。ダメだったが」
「はあ?」
彼女、スーフィンもモエルを見て、言った。
「なあ、そいつ、触らせてもらっていいか?」
「にゃあ」
(ダメっ)
「ダメだそうです」
「そうかあ」
スーフィンも残念そうだ。
「悪い、邪魔したな」
「じゃあな」
ダンラクとスーフィンが肩を落としながら去っていく。
ちょっと悪いことしたかな。いやでも、モエルは嫌がってたし。
ひとまず、今のことは忘れて、受付に並ぼう。
「はい。依頼を受理しました。納品は素材センターでやってね」
「はい」
素早く薬草を納品し、今日の依頼を見る。
そうしていると、横から声をかけられた。
「やあ、二リハ。おはよう!」
「あ、おはよう、シラー」
誰かと思えばシラーだった。彼も冒険者だから、会いもするか。
「にゃあ!」
(敵!)
「違うの、モエル。彼は同じ冒険者よ。敵じゃない」
「お、そいつは。猫か?」
「ええ。カジーニャのモエルよ」
「カジーニャ。聞いたことがある。へえ、こいつがカジーニャかあ」
シラーは珍しそうにモエルを見た。
「にゃー!」
(何見てんだ!)
「モエル、落ち着いて。良い子にして」
「おはよう。君が二リハか」
シラーの隣に、もう1人男の冒険者がいた。シラーより背が高いが、武器はシラーと同じロングソードのようだ。
「ええ、そうよ」
「俺はビッホ。シラーとパーティを組んでる。あと、後ろの2人も」
そっちを見ると、槍を持った2人がこっちを見ている。
「ああ、そうだ。なあ二リハ。俺達これから、新ダンジョンに入ろうとしてるんだ。良かったら一緒に行かないか?」
「ダンジョン?」
ジュージもダンジョンに行くって言ってたけど、シラーって、私と同じくらいの強さよね?
危なくないのかしら?
「でも、森は今危険らしいわ」
「ああ。新ダンジョンからモンスターが溢れてるんだってさ。だから今森にはダンジョンのモンスターがいる。けど、そいつらを倒せばダンジョンでもやってけるってことだろ。ダンジョンで宝を見つけられれば依頼以上の金が手に入る。俺達はそれを狙ってるんだ」
「シラー達は、強いの?」
「依頼は今のところ順調さ。二リハも、1ランクのモンスター程度なら楽に倒せるだろ。それをあてにして話してるんだ」
「カジーニャもついてるみたいだしな」
シラーとビッホにそう言われる。
どうやら、私を予備戦力として期待しているらしい。けど私はまだ、肝心なことを聞いていない。
「それで、あなた達は今、何ランクなの?」
「ああ。俺達赤の刃は今2ランクだ」
少なっ。
これは、身が危ない。ついていったら高ランクのモンスターにやられてしまうだろう。
2ランクのサンドスネークは私1人では倒せなかった。彼らではサンドスネークに楽勝できるかも怪しいし、それより強いモンスターはまず倒せないに違いない。
だから私は、断った。
「いいえ、私は遠慮するわ。森には近づかないでおく」
「え、なんで。行こうぜ。1ランクのモンスターの素材は優先的にあげるからさ」
シラーが笑顔でそう言う。ダメだ、彼らはわかってない。強いモンスターと戦うということを。なんとかなると思っていると、足元をすくわれ、命を失いかねない。昨日の私がそうだった。
「シラー、悪いことは言わない。あなた達もやめておきなさい。ダンジョンはまだ早い。ジュージって言う、6ランクの冒険者が挑むような場所よ。2ランクじゃ不安すぎる」
「そんな気にする必要ねえよ。5人もいたら結構良いところまでいけるって。そのカジーニャもいたらプラス1匹だ」
「にゃあっ」
(お前、近い。もっと離れろ)
「二リハ。そう怖気づくことはないんじゃないか。俺達はもう技も使える。技で集中攻撃すれば、どんなやつもイチコロだ。万が一なんて起こらない」
シラーとビッホは、そう言って楽天的なことを言う。
そう言われるとだんだん、彼らのことが不安になってきた。
たぶんこのままだと、彼らは全滅する。
もし、私が彼らについていってあげたら、全滅だけは回避できるかもしれない。
そう思った私は、仕方なく言った。
「私が危ないと思ったら、いつでもひいていい?」
「ああ、もちろん!」
「そんな心配ないぜ。俺達が守ってやるよ」
シラーとビッホは、二人して笑顔でうなずいた。
私もうなずいて、言った。
「なら、私もついていくわ。シラー、ビッホ。よろしく」
「ああ、よろしく二リハ!」
私は、彼らと握手した。
無事に帰れたら、いいのだけど。でも、何事もなくということは、絶対ないわよね。
彼らはこれから、モンスター達がはびこるダンジョンに行こうというのだから。




