旅の仲間 2
「シャー!」
蛇は痛がり、カジーニャから離れた。やった、攻撃が効いた。これならいける。
「シャー!」
蛇はまた私をおそった。でも、その動きは遅かった。なんとか盾で防ぐ。
きっと蛇もかなり弱っているんだ。盾に弾かれた蛇は、隙を見せた。
私はこのチャンスを見逃さず、切り込む。
「パワースラッシュ!」
覚えたばかりの技をまた使う。これで蛇の頭を割り、蛇はしばらくのたうちまわった後、動かなくなった。
倒した。そう思った途端、すぐにカジーニャに近づく。
「カジーニャ!」
触ってみると、カジーニャはまだ息があった。
ここでカジーニャも倒してしまえば、本当は楽なんだろう。
カジーニャはモンスターだ。人をおそいもする。いや、もう人を襲った後かもしれない。助けるなんて、間違っているかもしれない。
でもそれ以上に、このカジーニャは私を助けてくれた。
カジーニャがいなければ、私はここでやられていただろう。
それなのに、この子を見捨てるの?
できない。そんなこと、したくない。
このカジーニャには、生きていてほしい。
「生きて」
私は心の底から、そう思った。
「待って。今、ポーションをあげるから」
急いでカジーニャを抱きかかえて、戦う時におろした背負い袋のもとまで走り、袋の一番下からポーションを取り出した。
そして、使い方を迷った後、カジーニャの頭を上げて、口から飲ませた。
「お願い、飲んで」
ポーションの半分以上が口からこぼれた。けれどそれでもカジーニャは、飲んでくれた。
「にゃ、にゃあ」
ちょっと、カジーニャの顔が安らかになったかもしれない。でも、まだ完治してはいない。体中ボロボロだ。
「まさか、ポーションが安物だった?」
ありえる。私は適当な道具屋で買った。安物をぼったくりの値段で買ってしまったかもしれない。
「町に行ったら、きっと大丈夫だよ。行こう」
私はそう言って、カジーニャを抱いて走った。
途中で遭遇したスライムは、避けてなんとか逃げ切った。
ブラッドバタフライだけはしつこく追いかけてきたが、剣を抜いて羽だけ斬ったら、そのまま放置。とどめを刺している余裕はない。
すぐに息は上がって、歩き出したけど、それでも急ぎ足。腕の中で動かないカジーニャが、とにかく心配だった。
やがて、町の門までたどり着く。
「おい、お前、そいつはなんだ」
門番に、カジーニャを見咎められた。
「この子は、私を助けてくれたんです。身をていして。だから、私も、この子を救ってあげないと」
「だがそいつはモンスターだろう。つれていくのは勝手だが、町で問題が出たら真っ先にそいつと君が疑われるぞ。それでもいいんだな?」
「はい!」
「そ、そうか。じゃあ、通れ」
私はなんとか通してもらった。そして、背中越しに声をかけられる。
「ああ、モンスターを診てもらうなら、冒険者ギルドがいいんじゃないか?」
「わかりました、ありがとうございます!」
私はひとまず、冒険者ギルドに行った。
冒険者ギルドには、そこそこ人がいた。じれながらも、受付の列に並ぶ。
そして順番がきたので、ジュナイに言った。
「あ、あの、この子が、ケガをしていて。どうしたらいいでしょう!」
「え、それってカジーニャじゃない。ケガって、ひとまず、人を呼んであげるわ」
「ありがとうございます!」
ジュナイが、回復使いの格好をしたおじさんを呼んでくれた。私はギルド奥の診療室につれてきてもらい、おじさんにカジーニャを診てもらう。
「ふーむ」
「あの、どうでしょうか。もう、助からないんでしょうか?」
「いや、この子はもう回復に向かっている。傷がすでにふさがっているね。先に何かしたかい?」
「はい。ポーションを飲ませてあげました」
「それが良かったね。きっと良いポーションを使ったに違いない。結構高かっただろ?」
「は、はい」
どうやら、あのポーションは値段通りの効果があったらしい。
良かった。
「まだ動けないようではあるが、それも今日ぐらいまでだよ。2、3日もすれば元気になってるんじゃないかな。モンスターだし」
「そうですか。ありがとうございます」
私は胸をなでおろす。
「良かった」
「いや、まだよくはないね」
「え、どうしてですか?」
「このカジーニャがモンスターだからだよ。元気になったら、暴れまわるだろ。ここは町中だから特にだ。そうなったら倒すしかなくなる。だから私もこの子に回復魔法をかけてあげられないのだしね」
「じゃ、じゃあ、どうすればいいんでしょうか」
「選択肢は、2つだ。諦めるか、テイムモンスターにするか」
「テイム、モンスター」
「テイムモンスターにすれば、このカジーニャは君のものになる。誰も文句は言わないさ。で、どうする?」
そんなの、もう決まっている。私の答えは1つだ。
「私はこの子を、テイムモンスターにします」
「では、魔法使いギルドを頼ってみるといい。そこできっと、テイムを教えてもらえるはずだ」
「はい。わかりました。ありがとうございます!」
「私は何もしてないよ。魔法使いギルドの場所は知ってるね?」
「いいえ!」
私はおじさんから魔法使いギルドの場所を教えてもらい、急いで向かった。
魔法使いギルドは入り口から狭く、こじんまりしていた。いや、普通の家に比べたらここも十分広いけど、他のギルド程じゃない。
「あの、すいません。テイムの仕方を教えてください」
私は受付にそう言った。
「ん? ああ、テイム? それ、カジーニャだね。へえ、なかなか良いじゃん」
「あ、あの、テイムを早く教えてほしいんですが」
「待って、魔法の伝授なら、今教師を探すから」
受付がそう言って分厚いリストを開く。
「ええっと。あった。フエバリスさん、かあ。今いるかなあ。ちょっとまってて」
受付はそう言うと、奥に引っ込んだ。
少し待つと、2人になって戻ってくる。
「いいって。こっちの子に案内してもらって」
「こちらへどうぞ」
「あ、はい」
私は新しく来た子についていき、ギルドの奥へ向かった。
つれてこられた部屋は、2階の個室だった。
「こちらにフエバリス師がおられます。中へ」
「はい」
入ると、1人のとんがり帽子をかぶった女性が本のページをめくっていた。
その部屋は本やいろいろな物がいっぱいあって、歩くスペースが少ししかない。
「あ、きたね。こっちきて」
「はい」
私は彼女の机に近づいた。私の方にも椅子がある。
「その椅子使って」
「はい」
「で、あなたさあ。テイムを覚えたいの? それとも使いたいの?」
「え?」
「覚えたいのなら、修行は一日2百シクルでつきあってあげる。安いけどね。まあ、低級魔法だし。魔法使いの専門じゃないけど」
「覚えなくても、使えるんですか?」
「使えるよ。私は付与魔法も使えるからね。マジックアイテムを作ってあげるよ」
フエバリスがそう、あっけらかんと言った。
「一回限りの使い捨てで、アイテム形状は札。1個、ええーっと、2000シクルでどうだい?」
「買います!」
もちろん即答である。
するとフエバリスは、ニコリと笑った。
「じゃあ、今から作ってあげるね」
「お願いします、フエバリスさん!」
「ああ、お代は物が完成したらでいいから、用意しといて」
「はい。ここにあるので大丈夫です」
「そんなに持ってるの?」
そしてフエバリスさんは、さらさらっとマジックアイテムを作ってしまった。
私はそれを、2000シクルで買った。
「マジックアイテムの使い方は簡単。魔力を流すか、コマンドワードを言うだけ」
「魔力を流すってどうやるんですか?」
「魔法使いならなんとなくわかるよ。君は、テイムって言えば、簡単に札に魔力が流れるから」
「テイム」
私が呪文を言うと、札が光りだした。
札から光がとびだして、魔法陣となって私とカジーニャを囲う。
「これが、魔法」
きれいだ。
でも何より、これでカジーニャを、ちゃんと救える。
「良かったね、カジーニャ。これでもう、大丈夫」
そう言った時のことだった。
「にゃあっ」
突然空中に浮いていた魔法陣が、壊れるように消えた。
「え?」
「テイム失敗だね」
「そんな」
「まあ、そんなものだ。どんなモンスターもテイムできたら、今頃モンスターテイマーばかりになっているさ」
フエバリスさんにそう言われる。
「そんな、お願い。カジーニャ。私を受け入れて」
このままではカジーニャは、元気になる前に町の外においてくるしかない。
私はこの子を、倒せない。そして、傷ついたままのカジーニャが、他のモンスターに襲われる可能性は0じゃない。
私がカジーニャを捨てたその日の夜に、スライムに溶かされてしまうかもしれないのだ。
そんなの、嫌。ダメだよ。
「あなたに、ちゃんと生きていてほしい。どうか私のそばで、生きて」
そう言って、カジーニャの頭をやさしくなでた。
「にゃあ」
すると、一度消えた魔法陣が、復活した。
「お?」
フエバリスさんが目をみはったところで、魔法陣が私とカジーニャの中に吸い込まれる。
「にゃあ」
(気持ち、良い)
「え?」
今、何か、聞こえた?
「おめでとう。どうやら、なんとかテイムできたみたいだね」
「そう、ですか」
そう保証されると、一気に体から力が抜けた。椅子に座り込む。
「君。えっと、名前は?」
「二リハです」
「二リハ。そのカジーニャに、名前をつけてあげな。折角の仲間なんだ。大事にしてやれ」
名前、名前かあ。
じゃあ、火魔法を使えるから。
「モエル。あなたの名前は、モエルでいい?」
「にゃあー」
(いいよ)
「また、声が聞こえた」
「ああ。テイムモンスターとは意思疎通ができるんだ。じゃないと連携できないからね。まあ、やったことないからよく知らないけど」
へえ、そうなんだ。
「よろしく、モエル」
「にゃー」
(体、痛い)
「そ、そうだ。後は、ケガを治してあげないと」
「ああ、じゃあそれも私がやろうか?」
「ええ、お願いします」
「治療料金は百シクルにまけといてあげるよ」
「はい」
私はフエバリスさんに、モエルを完全に治してもらった。
こうして私に、仲間ができた。




