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プロローグ 2

 シイドが飛び去った後、冷静さを取り戻した門番に話しかける。

「あの、町に入りたいんですけど、いいですよね?」

「あ、ああ。それはもちろん。けど、今のドラゴンはなんだ、君たちは一体?」

「それはですね」

 私達は門番にこれまでの経緯を話した。ドラゴンに助けられたこと。そのついでに今まで行く機会が無かった町につれていってもらったこと。

 門番はうなずくと、言った。

「なるほど。そういうこともあるんだな。たしかに見た限り君たちはどこにでもいそうな娘さんだ。村が気に入らないから出てきたって話も、まあ珍しくはない」

「私は、それほどじゃないけど」

「私は来たかったの!」

 ジュアラが私を見た。

「ニリハ、ひょっとして、ここまでついてきたこと、後悔してる?」

「ううん、それはないわ」

 シイドの名前も、聞けたわけだし。

「ということで、すみませんがどこかごやっかいになれる所はありませんか?」

「それだったら、君だったら、俺の家に泊まってもいいよ?」

「いいえ、遠慮しておきます」

 正直、ごめんである。

「そうか。じゃあ、借り長屋だな」

「借り長屋?」

「借金して泊まる住居だ。家具はないが、飯は出るぞ。朝晩2回だっけな。食っただけその分も借金になる」

 しゃ、借金。嫌な言葉だ。

「返せなかったらどうなるんですか?」

「奴隷になる。でもその前に働き口を見つければ更に泊まれる。返すあてがなければ一ヶ月、あてがあれば3ヶ月泊まれる」

 良い物件といえば、良い物件な気がする。

「泊まれば泊まる程借金が増えてくんですよね?」

「そうなんじゃないか。詳しくは知らない」

「そこ以外には無いんですか?」

「知らないね。ちなみに、ここの通行料もその長屋のツケに足せる。通行料は1人百シクルだよ。どうする?」

 私とジュアラは顔を見合わせて、覚悟を決めた。

 どっちみち、今私達はお金を持っていない。選択肢は他にないのだ。


 話しかけた門番に案内してもらって、借り長屋にやって来た。

 木造の狭い長屋だ。かなりボロい。けど、村ではこのくらいの家が普通だった。

 まあ、ここに来るまでの途中で見た立派なレンガ作りの家とは、大違いだけど。

「家主さん、入居者が来たよ。空き部屋あるか?」

 長屋の近くにあるそれなりに大きな木の家を訊ねると、ひげをたくわえたおじさんが面倒そうに現れた。

「空きか、そりゃあるぞ。で、新入りはどいつだ」

「ニリハです」

「ジュアラです」

「ふーん、家出か?」

 図星をさされると、ドキリとする。

「そのようなものです」

「そうか。好きな部屋を選べ。長屋は2軒あるが、両端は全部埋まってる。後はどこも空いてるよ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「それと、この子達の分の通行料、立て替えてくれ。合わせて2百シクルだ」

「はあ? よそ者かよ。ったく」

 門番は家主からお金をもらうと、すぐに帰っていった。

「それじゃあお前ら、腹空いてるか。今ならスープがあるぞ。飯代は一回8シクルなんだが、特別に2シクルにまけてやるよ」

「それでは、いただきます」

「ありがとうございます、家主さん!」

「俺はゼズだ。それじゃあ今用意する。あー、中に入れ」

 ゼズさんについていって家の中に入ると、中はいろいろと物が多くてごちゃごちゃしていて、かなり狭く感じた。入ってすぐ横にあるキッチンスペースには、鍋が置かれている。

 ゼズさんはその鍋から中身をお椀によそって、それを私達にくれた。

「それ、まだ残りはある。おかわりしたきゃしていいぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

 スープを飲んで、顔をしかめる。もう陽の光があまりないから、スープがなんなのかよくわからなかったが、口の中にいれたらよくわかった。

 クズみたいな野菜の切れ端がわずかに入った、ぬるいお湯だ。いや、若干塩気はあるかもしれない。ちょっと気になるくらいの、ほんの少しだけ。

「ニリハ、これ」

 ジュアラが気まずげに言った。私は無言でうなずく。このスープは、控えめに言って最低だ。

「ひゃひゃひゃ。どうだ、まずいだろう。だが、これがここの飯だ。固くて小さい黒パンはもうねえぞ。もっと良いものを食いたかったら、必死に働いて金を稼ぐことだ。それができなきゃ、そのまま奴隷だ」

 ゼズさんがそう、愉快そうに笑った。

「ジュアラ、頑張ろう」

「う、うんっ」

 私達は頑張ってスープを飲み干して、お椀をゼズさんに返した。


「部屋ですが、一部屋だけ貸してください。2人で泊まります」

 私がゼズさんにそう打診した。

「それはいいね、さすがニリハ!」

「ふん、まあいいぞ。宿代すらケチって野宿するよりは賢い。外で寝てたら、兵団に見つかったらつれさられて、身寄りがなければそのまま奴隷だ。お前らも気をつけな」

 どうやら、2人で住むのはオーケーらしい。

「ある人から、ここは治安が良いと聞きましたが」

「良いぞ、治安。兵団がしっかり巡回してるからな。夫婦同士の痴話喧嘩も場合によっては侮辱行為、暴力行為として罪に問える。お前らも何かあったら、金や体を売って兵士に解決してもらえ」

「は、はい。ご助言、ありがとうございます」

 かろうじてそう言うが、これはきっと、ただ治安が良いのではない。兵団という組織がこの町を支配しているのだ。

 でも、扱いは最低だけど、こうして身寄りも金もない私達を一時的に保護してくれる場所もある。確かに最低では、ないのかもしれない。食事は最低だけど。

「それじゃあ、私達はゼズさんの家の近くの部屋に泊まります」

「え、ニリハ。そこで良いの?」

「ええ。ですので、もし私達に何かあった場合、助けてくださいね。ゼズさん」

「けっ。自分の面倒は自分で見やがれ。だが、抱かせてくれるんならちょっとは頼りになってやるぜ」

「その時はその時ということで」

 私はそっとジュアラの耳に唇を寄せた。

「ますます2人で泊まらないとね」

 じゃないと、何時危険な目に遭うかわかったものではない。

 ジュアラはこくこくとうなずいた。

 ここも、安全ではないのかもしれない。女2人だから、余計そう思う。でも、1人よりは心細くなかった。


 長屋の部屋は一室だけで、ゼズさんの家の半分以下程の広さだった。そして、なんにも物がない。ひどく殺風景のようだが、それでも狭い。

「本当にここに来て良かったのかな?」

 ジュアラがぽつりと呟いた。

「今更嘆いたってもう遅いわよ。それに、私達は1人じゃない。2人いる。くじけるにはまだ早いわ」

「そうだね」

 私達は床に座って、話をした。

「町に来たんだから、きっといろんなものがあるよね。服に、食べ物に、おもちゃだって。人形って、どんなのが売ってるのかな?」

「さあね。でもまずはお金稼ぎよ。どんなことでもいいから、働けるところを探さないと」

「私は折角だから、楽しいところで働きたい。折角町に、これたんだし」

 そうね。夢くらい、今なら見てもいいか。

 でも、遊ぶのも食べるのも、服を着るのも、お金がないとできない。だから私は、まずはお金だ。

「なら私は、それ以外のところをあたってみるわ。そうすれば効率もいいし。運が良ければ明日にはもう働き先が見つかってるかも」

「あ、それ良いね。私、頑張る!」

「美味しいスープも飲みたいしね」

「そうね。本当もう。家のスープよりまずいなんてびっくりしちゃった」

 2人でくすりと笑う。

 それから更に2人で町への期待を話し合って、眠くなったら互いに抱き合って寝た。

 布団がないから、お互いの体温が頼りだ。夜になったから、ちょっと寒くなってきた。

 でも、まだ冬じゃない。だから、まだ全然平気。

 奴隷になる前に、絶対お金を集めてみせる。


 ヒロインの名前を変更します。

 ゴタゴタしてすみません。

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