旅の準備 6
更にスライムを二体倒した。
コアを拾って、先を急ぐ。先といっても、ゴールがどこにあるかわからないけど。ワンドッグ、どこだ。
ひたすら町から離れるように歩く。すると、草原の真ん中にぽつりと、一体モンスターがいるのが見えた。
茶色い体に、あれは、ハサミ?
足がいっぱいある。八本くらい。虫、だろうか。大きさはスライムと同じくらい。
ワンドッグではないだろうから、どうするかだけど。
「あのモンスターから逃げても、試験が不合格にはなりませんよね?」
「ああ。だが倒してもいいぞ?」
「そうですか」
倒してもいいなら、倒しておくべきか。
私はショートソードを抜いて、まずは歩いて接近した。
するとモンスターもこちらに気づき、両手のハサミを大きく上げた。
あれは、攻撃準備?
そう思うと、モンスターはそのまま横向きになって、横走りでこちらへ向かってきた。私は盾を低く構えて、タイミングを合わせて剣で突く。
すると、剣は簡単に体の表面で弾かれた。
モンスターは衝撃を受けたはずだが、構わず私にハサミを向けた。
盾でしっかり防ぐ。幸い衝撃は軽かった。私はもう一度攻撃。
また体の表面で弾かれた。こいつ、手強い。というか、こちらの攻撃が効かない。
こういう時、どうすればいいの?
モンスターのハサミ攻撃は盾で簡単に防げるから、考える時間はあるけど、正解がわからない。
落ち着け。まずは冷静になるんだ。
剣の技を覚えてない以上、頭を使って勝つしかない。もしくは逃げるか。モンスターの移動速度はさっき見た。全力疾走でたぶん逃げられるけど、その後私の体力がもつかわからない。更にその先にもモンスターがいたら、下手すれば挟撃だ。そんなピンチは避けたい。
じゃあやっぱり倒したいんだけど。でも、剣は弾かれてしまう。
いや、このモンスターも全部が無敵というわけではないだろう。どこかしら弱点があるはずだ。
例えば、頭、首。
頭は、見当たらない。胴体と一体化してる。なので首もない。目はあるけど、小さくて狙いづらい。
じゃあ後は、関節?
ふと相手の足を見れば、どうぞ切ってとばかりに半分差し出されている。足は細くて脆そうだ。きっと弱点に違いない。
というか、弱点であってくれ。
「えいっ」
私は相手の足を斬った。
一撃目で足が一本もげかける。どうやら予想的中のようだ。私はそのまま慎重に、足を斬っていった。
モンスターの足を半分斬った。するとモンスターは足が半分になっても移動し続け、私にハサミで攻撃し続ける。
足は脆いが、弱点ではないのだろうか。頑張って足を全部切り落とす。
するとモンスターはひっくりかえって、ハサミをずっと暴れさせ続けた。
私は少し考えてから、2つのハサミも切断する。
これで、倒せたはずだ。
あれ、目がまだ動いてる?
「あの、デケイ。これもう倒せましたよね?」
「いや、まだ倒せてないな。弱点はその体の中だ。だから生きてる。数日もすればまたハサミも足も再生して、復活だ。まあ、そこまでやったらもう動けないから、これでもういいんじゃないか?」
「いえ、倒しきれてないなら、なんか嫌です。不気味で。でも、こいつの体って堅いですよ。どうやって中まで攻撃するんですか?」
「そいつは自分で考えろ」
私は少し考えてからナイフを取って、ハサミを斬った切断面から刃を入れた。
何度か試してみると、少しずつ体が割れていき、やがてナイフがさしこめるようになる。
「ふう」
ここまでやれば、流石に倒せただろう。
「チャガニを倒しきったか。やるな」
「これ、チャガニって言うんですね」
「ああ。美味いぞ。足もハサミも。腹の中は、俺にはちょっといまいちだけどな。一応珍味だ」
「チャガニはどの部分が売れるんですか?」
「今言っただろ、全部だ。ただ、どの部位も食材以外として売れたりもする。強いて言うなら、高く売れる部位はハサミだ。こいつは本来初心者殺しなんだがな。小さい上にハサミが鋭いんだ。こいつをなめた剣士は剣を弾かれた後足から切り刻まれる。まあ二リハは盾を持っていたから余裕だったがな」
「そうですか」
私は少し考えて、チャガニを持ち帰るのを諦めた。どのみち今私は、これを入れられるような袋等を持っていない。もったいないが、置いていこう。
私はすぐに移動を再開した。
それから少しした後、二匹の犬を見つけた。
黒と茶色の毛に、後ろ足の二倍くらい太い前足。口も少し大きい。
そんな、中型犬サイズの犬二匹が、鼻と鼻をこすりつけ合いながら、尻尾を激しく振っていた。
あれ、交尾中というか、たぶんカップル的な感じよね?
「デケイ、あれがワンドッグですか?」
「ああ、そうだ。二匹一緒なのは珍しいな。だが、それも運だ」
デケイがうなずく。
仕方ない。やるか。逃げたら失格だし。
私はショートソードと盾を構えて二匹に近づいた。
ワンドッグ達は私に気づくといちゃつくのをやめ、一緒に睨んでくる。
かと思うと、二匹同時に襲いかかってきた。
「ワンワン!」
「ワンワン!」
牙をむいておそいかかってくる光景はなかなか恐怖をかきたてられるが、私は気を引き締め、全身に力をこめ、迎撃する体勢をとる。
戦う時の心構えは、稽古でジュージとシラーに心ゆくまで学ばされた。
怖いと思う暇があったら、攻撃しろ。または防御しろ。
例え相手が真剣を持っていようが、私よりはるかに強かろうが、戦わなければ、痛い思いをするだけだ。
だから私は、恐怖する心を押し殺す。いや、恐怖する心ごと相手を切り裂き、貫く。
試しに横へ走ってみたが、ワンドッグ達の方が足が速かった。二匹はぴたりとよりそって、同時に、私にとびかかる。
「ハードガード!」
私は技を使いながら、一匹の攻撃を防ぎ、もう一匹は剣でカウンターを決めた。
試みはうまくいき、ワンドッグの一匹は盾に弾かれて、もう一匹は大きく開いた口で私の剣をのみこんで、自分が突撃してきた勢いで剣が喉に刺さり、そのまま貫通した。
「ワウ、ガフ!」
けれどワンドッグは喉を剣で刺し貫かれても、まだ動いた。前足で私の体をひっかく。
幸い、私の体は防具で守られ、傷は負わなかった。むしろワンドッグが暴れたことで剣が動き、喉の傷が広がっていく。
「ワオーン!」
その間に無事な一匹が、また私にとびかかってきた。
「ハードガード!」
今度は盾で殴り、ワンドッグを弾き返す。技も使った分、ある程度衝撃をうけているはずだ。今のうちに、手負いのやつを片付けなければいけない。
剣を引き抜き、すぐに斬りつける。冷静に首を狙った。首は少しだけ切れたが、傷は浅かった。
やはりただ自力で斬っただけでは、ダメージが低いか。
「ワン!」
その間にまたもう一匹がとびかかってきた。今度は足を狙われた。
私は少し考えてから、盾で攻撃を防ぎながら、手負いの方から距離をとった。もう瀕死の状態なら、このまま一対一に持ち込めるはずだ。とどめは後で刺せばいい。
元気なワンドッグはどうにか私の盾を越えようとしてきた。盾を越えて伸びる前足を、剣で叩く。斬るというより叩く。今は余裕がない。
冷静に。冷静に。そう頭の中で呟いて、次は反撃するのだと、自分に言い聞かせる。
ワンドッグがまたもや突撃してくる。馬鹿の一つ覚えだ。そして、カウンターは最初の時にできたのだから、今回もできるはずだ。そう信じ、剣を突き刺す。
腕を鎧越しに強く引っ掻かれるのを引き換えに、ワンドッグの片目を刺し貫くことに成功した。
ひるむワンドッグ。今がチャンス。一気に攻め立てる。
私はジュージの剣さばきを必死に真似た。
ショートソードがワンドッグの耳をそぎ、鼻を割り、喉を裂く。
「ワン!」
やられたワンドッグは反撃とばかりに、また突撃してきた。
私はすぐにカウンターを決め、盾で防ぎながら敵の喉を貫く。
それから何度か斬ると、やがてワンドッグは力尽き、倒れた。
もう一匹の方を見てみると、そちらは自然と事切れていた。
「はあ、はあ」
気がつくと、息があがっていた。
「ワンドッグを、倒したな」
デケイがそう言って近づく。
「ええ」
「ワンドッグの討伐証明部位は、尻尾だ。2本持って帰ろう。もうじき夕暮れだ。すぐに帰ろう」
「はい」
私は言われた通り、ワンドッグの尻尾を2つ手に入れた。
「ワンドッグは牙や足、毛皮なんかも売れる。まあ、今回は持って帰れないだろうが、余裕があったらはぎとれ」
「はい」
「しかし、二リハ。強いな。戦闘はこれが初めてだろう?」
「ええ。師匠が、優秀でした」
「そうか。誰だ、そりゃ」
「ジュージです」
「あいつか。まあ、悪くないな。そうか、それで剣と盾か」
「はい」
「今回はそれで運が良かったな。1人で複数のモンスターを倒すことは、かなり難しい。一言言ってくれれば、俺が一匹引き受けてやったんだがな」
「そういうことは、早く言ってください」
「なにもかもフォローしてたら試験の意味がないだろう。提案も、立派な評価ポイントだ。チャガニも、逃げて良かったんだ。素材も持ち帰れなかったからな。だが冒険者は何より、できると思ったことをやり、その上で戦果を上げる方が誉れ高い。この世界は実力主義だからな。そう考えれば、今日の試験は満点だったぞ」
「ありがとうございます」
「では、早く帰ろう。モンスターの死体を放っておくと、近くにいる新たな敵も引き寄せる」
「はい」
私とデケイは急ぎ足で町へ戻り、ワンドッグの尻尾を素材センターに渡すことで、試験終了となった。
「おめでとう、二リハ。これで君を正式に、冒険者として認める」
最後にデケイに拍手されて、少しうれしかった。




