ママタッコー 3
カルミヤに戻ってすぐに、素材センターに寄った。
「タッコーをたくさんと、それにママタッコーを持ち帰りました。ああ、そういえば、ママタッコーはジェネラルディッカー子爵に渡さないとって言われてましたけど」
「ん、ああ。噂の二リハか。そうだ、ママタッコーを納品依頼として届けに来たというのなら、ここでは受け付けないぞ。あんな大きくて重たいもの、簡単には運べないからな。自分で子爵様のお屋敷に届けてくれ」
「はい。わかりました。それじゃあ、シャスデリのタッコーもこちらで運びますか?」
「タッコーくらいならこっちで運んでやる。納品依頼はギルドでもちゃんと品を確認するからな。ああ、そういう意味で言うんなら、子爵様のところに行く時ギルドの職員を証人につけてくれないか? 頼むぞ」
「あ、はい。わかりました」
タッコーは無事、全て素材センターでおろした。一体だけシャスデリへの納品分なので、その分だけ引かれて、後は時価報酬にする。
でも、もう夜になるからママタッコーをおろすのは明日でいいかな?
一応、ギルドに顔を出しておこう。
「あの、ママタッコーを倒してきたんですけど」
「まあ、もうママタッコーを持ってこられたのですか。素晴らしいです二リハさん!」
「はあ」
「それでは、実物をあらためてから報酬をお支払いしますね!」
「え、ええ。それで、品を運ぶのは自分でやれと言われて、その時にギルドの職員についていてほしいって、言われたんですけど。素材センターで」
「ああ、左様ですか。確かにその通りですね。わかりました。明日また当ギルドへお越しください。その時一緒に子爵様のもとへ行きましょう」
「はい」
「では、いつ頃お越しいただけますか?」
「そうですね。早い方が良いですよね?」
「いいえ、足の早い物でもございませんし、用事を済ませてからでも構いませんよ?」
「そうですか」
となると、やっぱり、まずは銭湯、行きたいかな。
「それじゃあ、お昼を少し過ぎたあたりにまた来ます。それでよろしいでしょうか?」
「はい。かしこまりました。それではお待ちしております」
よし。明日の予定もほぼ決まりね。
私達はすぐに宿に戻って、ベッドの中で眠った。
翌日。素振りして、朝ご飯をのんびり食べて、皆の毛づくろいして、ゆっくり銭湯に入って、お昼ご飯も食べた後、ギルドに行く。
「あ、可愛いモンスター達に若い女性。あなたが二リハさんですね!」
突然そう言われて、私とそのギルド職員の方は扉のすぐちかくで見つめ合った。
「はい。そうですけど。ええと?」
「はい、申し遅れました。私は冒険者ギルド職員のジリー。今回は二リハさんの納品依頼にご同行することとなりました。よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく。それじゃあ、早速行きましょうか」
「はい。ギルドの脇に馬車をご用意いたしております。そちらにお乗りください!」
「えっ」
なんで馬車?
私はちょっと面食らった。
ガタゴトガタゴト馬車が揺れる。
この窓から見る町並みは、なんだか新鮮だ。
それと同時に、乗っているとだんだん気持ちが暗くなっていく。
自然と、村を出た時のことを思い出すのだ。
結果的にはシイドと出会えたから良かったけど、それでも私にとっての馬車は、苦い思い出だ。
護衛の時はなんともなかったけど、自分が乗るとどうも落ち着かない。
ひとまず、何かしていたいので右手でモエルを、左手でシャインを撫で続ける。
テムは足元にいる。ミドリは馬車の中が退屈で、外へと飛びだってしまった。まあ、無理もないか。
「あの、二リハさん。もしよろしければ、お話してもよろしいですか?」
「ええ、いいわよ」
正直、暇だし。
「良かった。それでは良ければ、今までの依頼のことなんか教えてください!」
「ええ、いいわよ」
私は思い出したものから順番に、依頼の思い出を語った。
私の話を、ジリーは顔を輝かせながら、時には笑顔になり、時にはハラハラしながら聞いていた。
なんだか、子供みたいね。やっぱり受付嬢って、冒険者の話が好きなのかしら。
しばらく話していると、なんかとてつもなく大きな屋敷に到着した。
屋敷も大きいが庭も広い。当たり一面緑がいっぱいで、見えるところに花畑なんかもあった。
まるで夢のような場所だ。こんなところに住んでいるなんて、流石は子爵。様。
馬車が止まって降りると、眼の前には三人の男女が立っていた。
老紳士と、身なりの良い青年と、メイドさんだ。老紳士とメイドが、私に向かって頭を下げた。
「お待ちしておりました、二リハ様。私、当屋敷の執事を務めております、ジュラッセンです。どうぞよろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そう返すと、なぜか青年がずずいと私へと近づいた。
「まさか噂の冒険者がこんな可憐な淑女だったとは。実に美しい。あなたの前では美の女神ですら裸足で逃げ出していくことでしょう」
「は?」
「巨大なモンスターをも倒してしまう強き乙女よ。どうかこの俺と、結婚していただけませんか?」
「は?」
は? って二回も言ってしまった。
その直後、執事のジュラッセンがどこからともなくハリセンを取り出して、それで青年を叩いた。
「ジェネラルセイガー様。御冗談はおやめくださいませ」
「俺は本気だジュラッセン!」
「なお悪うございます」
「あのお。ジェネラルセイガーって、子爵様とお名前が似ているのですが」
「ああ。俺は父上の息子だ。長男だ。跡継ぎだ」
そう言ってジェネラルセイガーは前髪をかきあげた。
何この人。
でも、失礼なことはできないわよね。
「にゃあ?」
(なんだこいつ、燃やすか?)
「キュー」
(なんか変な臭いしますよ。チョーキツイです)
「ピー」
(ただいまー)
「ギャウ」
(こいつなんかくれねえかな)
「皆、今お仕事中だから、お行儀よくしててね」
「あ、あの。私は冒険者ギルドから派遣されましたジリーです。今回はママタッコーの実物の確認をするために同行しました」
「そうですか。それはご苦労様です」
「可愛らしい乙女。君も美しい。どうかこの俺と結婚を」
言葉の途中で、メイドさんがハリセンでジェネラルセイガーをしばいた。
「げぼらっ」
「失礼、ぼっちゃま」
そうは言うが、二人共悪気は無さそうだ。
「二リハ様、それにジリー。坊ちゃまが大変失礼いたしました。では早速ご依頼の品、ママタッコーの全身をお見せしてもらえませんか?」
「あ、はい。ここでいいですか?」
「ええ、かまいません」
「では。テム、馬車の横にママタッコーを出して」
「ギャウ」
(わかったぜ)
テムがママタッコーを出す。
すると流石に、皆驚いた。
「これが、噂の」
「なんとご立派な」
「これを、二リハさんが倒したんですね」
「ふむ。素晴らしいお手並みですな」
ジェネラルセイガー、メイドさん、ジリー、ジュラッセンがそう言って、私はうなずく。
「はい。では、これで依頼達成ということでよろしいでしょうか?」
「はい。ですが、よろしければまだしばらくお付き合いしてください。ひとまず、このママタッコーはしまっておいてくださいませんか?」
「はい。わかりました」
確かに、ここでママタッコーを置いておいても仕方ない。ちゃんとした場所にまで運ばせてもらおう。
「では、ひとまずお屋敷の中へお越しください。お茶でもごちそういたします」
「あ、はい。ありがとうございます」
依頼を達成したら終わりではないのか。まあ、いいだろう。失礼のないように気をつけながら従おう。
「あ、あの。私の役目はもう終わったのですが、馬車には二リハさんも乗って帰るはずなので、一緒についていってよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。ジリーもどうぞ屋敷でおくつろぎください」
「はい」
「あ、あの。私はママタッコーを納品すればそれでいいんですけど」
「まあ、そう言わず。中で父上と会ってくれ。父、ジェネラルディッカー子爵はそれが望みだ」
「はあ」
それが望み?
ひょっとして、この依頼、まだ何かある?




