旅の準備 3
その後も、攻守を何度も交代して、ひたすら稽古を続けた。
「そら、休んでるならこっちから攻撃するぞ」
「ひいー!」
気がつけばくたくた。もう一歩も動けなくなっていた。
「よし。そろそろ良い時間だな。じゃあ、これくらいにしておくか」
「ううう。体が痛い」
「それが普通だ。いきなり実戦じゃなくて良かったじゃないか」
「それはそうですけど、でも少しは休憩をはさみましょうよ」
「俺は休憩する必要なかったからな。さあ、それじゃあ今回の稽古分、200シクル出せ」
「いえ、出すのは50シクルですよ?」
「何?」
「依頼書を取ってくれたじゃないですか。料金は50シクルです」
「ちっ。ケチな女だ」
「それで、次の稽古はまた明日ということで」
「もうやらねえよ。もっとマシな料金にするんだな」
「つ、次は200シクル出します。それで付き合ってください!」
思わずそう言うと、ジュージは少し止まって、やがて私に言った。
「500シクル出せ。俺を雇うならそれくらいいる」
「に、250シクルまでなら出せます」
「他をあたんな」
か、帰られてしまった。
ひとまず、休もう。
「ふうー」
井戸まで歩いて、水を飲む。
「ごく、ごく。ふう、生き返る」
そして、今日の出来事を振り返る。
「ジュージは厳しかったけど、防具も買えたし、良かったかも」
少なくとも、私だけなら盾を買うことはなかった。でも、盾を買ったのはきっと正解だ。身を守る戦い方を優先しないと、きっと旅で身がもたない。
盾を使った戦い方も、ジュージの動きを見てある程度つかんだと思う。できるだけ思い出して、ものにしよう。
「でも、それよりも今は、休憩」
私は井戸のそばでへたりこむのをなんとか避けて、借り長屋に戻って寝転んだ。
もう、今日は動けない。
しばらく休んだら、いくらか動けるようになったので、少し木剣を振ってみた。
何度か振っていると、自然とジュージをどう攻撃しようか考え始める。
「相手は盾を持っているから、自然と狙いが絞られる。頭か、足。防がれたら、狙いを変える」
何度か素振りをした後、今度は頭を盾で守りながら攻撃、足を守りながら攻撃を練習する。それを数回繰り返した後、休憩することにした。
「ふう。やっぱり、相手がいた方が身になる、気がする。でも、稽古にはお金かかるし」
なんとかならないかなあ。とも思うが、相手にも都合がある。そこはどうしようもない。
「ひとまず、明日もまた稽古を頼もう」
そう結論づけると、気がつけば上手く剣が持ち上がらないことに気付いた。ただの疲労だが、よく見れば手にはマメができている。
「一日で強くなれるわけじゃないかあ」
ひとまず、体でも拭こう。汗まみれだし。防具も脱がないと。
「冒険者って大変なのね」
今日の夕飯は、ゼズさんの黒パンにした。パン屋まで歩く元気がなかったからだ。
翌朝。昨日と同じように稽古の依頼を出した。
その後は借り長屋でひたすら素振り。冒険者を待つまでの間やっていようと思ったが、待ち望んだ冒険者は誰一人としてこなかった。
少し残念だったが、今日は手が痛いから、まあこれで良かったか。とも思った。
次の日。冒険者ギルドに行って、私が貼った依頼書があることを確認する。
その後も素振りをするが、1人での訓練も流石に飽きてきた。だれか来てくれないだろうか。
結局この日も稽古の相手は訪れず、焦る気持ちを振り払うように素振りをした。
次の日は雨だった。
借り長屋の中で木剣を振るう。たまには両手で振るのも良いかと思ったけど、やはり選んだスタイルに合わせて右手だけで振る。そろそろ右腕の筋肉だけ多めについてたりしないだろうか。
その時、借り長屋に人が入ってきた。
「依頼を受けてきたんだが、ここで間違いないか?」
やって来たのは少年だった。防具もちゃんと身につけていて、腰にはロングソードがさしてある。
「稽古の依頼ですか?」
「ああ、そうだ」
「私が依頼主のニリハです。よろしく」
「あ、ああ。よろしく。俺はシラーだ」
「では早速稽古をつけてください」
「ああ。ここでか?」
「ここでは狭いでしょう。外で」
「外って、雨だぞ?」
「でも、来てくれたんですよね。さあ、早くやりましょう」
折角来てくれたのだ。できるだけ稽古をつけてもらおう。
私は手早く防具を身に着けた。
「あー、じゃあ、適当に攻めるぞ。なるべく防具だけを狙うようにする」
「はい。私もそうします」
「それじゃあ、始める」
シラーは剣を抜いて、私におそいかかる。
剣を向けられると、自然と足がすくむ。加えてこちらは木剣だ。不利感は否めない。
でも、怯えていては話にならない。ここは私も、前に出るべきだ。
「やあ!」
シラーは私の胴を横斬りした。盾とは反対側だ。私はそれを、なんとか盾で防ぐ。
すると、大きく盾を弾かれた。隙を大きくさらした私は、今度はシラーが肩に剣を振り下ろしてくるのを見る。
私はとっさに横へとんだ。
そのまま倒れるが、直撃は避ける。シラーはそんな私を見て、剣を構え直した。
「続けて」
私は今、追撃されなかった。なめられているのだ。年頃もそう変わらない相手に。
「じゃあ、いくぞ」
私は相手の攻撃に合わせて、木剣を振った。同時に、盾で防御する。
私の考えは上手く決まった。盾は先程のように弾かれるが、シラーが鎧を木剣で押されて、ひるむ。
「でえい!」
それで怒ったのか、シラーはまた斬りかかってきた。今度は避ける。
上手くいった。けどシラーの攻撃は止まらない。
避けるだけじゃ、駄目だ。相手を止める手段がなければ、チャンスは生まれない。
なんとか盾で防御したが、また盾が浮いた。このままでは次の攻撃でやられてしまう。
私はなんとか反撃した。
木剣は届いたが、それ以上の力強さでシラーが剣を当ててきた。
「うう!」
「寸止めはしようと思ったけど、大丈夫か?」
「ええ。無事よ。どうやら防具が頑丈みたい」
ジュージが紹介してくれた防具屋のおじさんが腕が良かったのか。どっちにしろ、まだやれる。
「また同じ調子でかかってきて」
「言ったな。後悔するなよ」
私はその後もひたすら、シラーと勝負した。
シラーとの戦いで、私はしっかり盾で防御するという技術を身につけた。
半端な防御では、相手の攻撃を止めきれない。それは隙につながり、致命傷を受ける。それが身にしみてわかった。
相手の全力の攻撃を、しっかりと防ぎ切る。あるいは角度をつけてぶつけて、衝撃をそらす、しのぐ。
しっかりと盾の使い方を学ぶ。おかげで次第に、シラーの攻撃を全て防げるようになった。
そしてやがて、シラーの攻撃を完全に見きった時、体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。
私はその力を、ためらわずに使う。頭の中に浮かんだ言葉を叫んだ。
「ハードガード!」
次の瞬間盾が光って、シラーの剣を大きく弾いた。
「何!」
「今!」
私はとっさに、木剣を突き出し、シラーの胸を突く。
「うっ」
更に隙を見せたシラーの腕や肩を木剣で叩く。
「く、この!」
シラーはまた攻撃をしようとしたが、私は自分の未知の力をまた使う。
「ハードガード!」
「く!」
その後も私は、シラーを滅多打ちにした。
結局ハードガードは5回しか使えなかったが、その後もシラーの攻撃を完全に防ぎきり、稀に反撃までできるようになった。
手応えを感じた私は、稽古の終わりを告げる。
借り長屋の中でタオルを貸してから、50シクル渡す。
「ありがとう。あなたのおかげで強くなれた気がする」
「お、俺はもっと強くなる。このままじゃないからな!」
「ええ、頑張ってね」
「あ、ああ」
シラーはガシガシと顔をぬぐってから、タオルを返した。
「二リハの盾、あれは、盾使いの技だろ」
「技?」
「知らないのか。俺も一応剣士の技を使えるんだ。まあ、ただ剣の威力が上がるだけだから、お前には使わなかったけど」
そうか。シラーはまだ本気を出していないのか。これは慢心してはいられない。
「その技を、私は使えたのよね?」
「ああ。盾使いとしては十分だ。二リハは冒険者になりたいんだろ。なら、もうなれるぜ」
「え?」
「実力は十分だ。なんだったら、冒険者になったら俺がパーティを組んでやってもいいぜ」
シラーは顔を赤くしてそう言う。
「ありがとう。でもパーティはやめておくわ」
私がそう言うと、シラーは見るからに落ち込んだ。
「そうか」
その後もシラーと2人で、冒険者のことや身の上話といった話をして、ジュアラが帰ってきても雨が降り続いていたので、そこでシラーは濡れながら帰った。
「もう。二リハは私が頑張っている間に男をつれこんでたの?」
「そういうわけじゃないわ。彼に稽古をつけてもらってたの。おかげで成長できたわ」
「成長って、大人の的な?」
「こら」
私とジュアラは少しふざけあってから、ゼズさんの黒パンをもらって、寝た。
明日、冒険者の試験を受けてみようと思う。




