ソテー
素材センターに行くと、ママイッカーとチチタッコーの一部は受け取れたが、セリ代の受取は冒険者ギルドでもらってくれと言われた。
せっかくなのでそのお金も回収もする。冒険者ギルドに寄ると、そこでシャスデリに出会った。
「よお、二リハ。ちょうど来たか」
「あれ、シャスデリ。どうしたの?」
「ちょっとギルドに依頼をな。タッコーの丸ごとを納品する依頼を貼ってたんだ」
「へえ。タッコーは普通には買えないの?」
「ああ。イッカーは手に入るんだが、タッコーは数が少ないみたいでな。数が少なくて、客が多いと、セリになって手が出せなくなるんだ」
「へえ。普通のタッコーでもセリになるのね」
「まあな。それに、新参者の俺はまた条件が厳しくてな。どうしても大御所や貴族に多くおろされるらしくて、更に小さい店も多くあって競争相手が多い。だから、自分で取り寄せるのが一番良いんだ。セリになったら更に高くなる場合もあるみたいだしな」
「そうなのね。それじゃあ、今度シャスデリの依頼を見つけたら受けておくわ。今日のところはお休みだけど」
「ああ。どうか頼む。二リハは実力者だからな。というか、今持ってないか?」
「無いわ。町に来たら全部売るわよ。ごめんなさいね」
「そうだよな。はあ、1からやるのも大変だぜ」
「シャスデリは今のところ、順調なの?」
「ああ。ここからそう遠くない店に、雇ってもらってな。料理の研究の方も、まあまあ上手くいってる。というか、イッカーとタッコーの保存方法がまた一癖あってな。やっぱりプロに1から教えてもらわないと駄目みたいだ」
「へえ。あ、そうだシャスデリ。イッカーとタッコーの刺し身、というかわさびは食べた?」
「ああ。食ったぜ。あれはかなり美味いな。わさびもこの辺で採れるらしいが、あれもまた高級食材だ。一通り食材を揃えるだけでも大変だが、やっぱり刺し身もペースに持って行ってやりたい。距離がもっと近ければいいんだがなあ」
「遠いから、無理なんじゃない?」
「一応、考えはあるんだ。だがまあ、しばらくはここで修行だな。あいつには一番美味いものを食わせてやらないと」
「そう。それじゃあ、これからランギリっていうレストランに行くんだけど、わざわざ誘わなくても良さそうね」
「いや、行く。その店にはまだ行っていない。味を確かめないとな」
「そう。じゃあ、一緒に行きましょう。ちょっと待って。受付でセリの代金を取りに行ってくる」
「ああ。もしかして、あのでかいチチタッコーとママイッカーはお前が倒したのか?」
「ええ。そうだけど。もしかして、セリを見たの?」
「ああ。今回は商業ギルドじゃなく冒険者ギルドでセリをするって聞いたから、興味本位でな。そしたら、バカみたいにでかいタッコーとイッカーがあるじゃねえか。流石にたまげたぜ」
「あれ倒したの、私達なのよ。かなりギリギリだったけど」
「凄いぜ、二リハ。それに、値段もな。凄い大金が動いてたぞ。俺にも少し分けてほしいくらいだ」
「駄目よ。と言いたいところだけど、シャスデリならいいかな。奥さんも待たせてるし」
「おお。言ってみるもんだな。でも、やっぱり金はいいや。胸を張って、ペースに帰りたいからな」
「偉い。立派よ」
「この、ぬかしやがって。誰に言ってんだ」
「ふふふ」
「そうだ。今夜俺の飯を食いに来いよ。ミルモネって飲み屋だ。安くしとくぜ」
「ありがとう。でも、お金は結構あるから、普通に払うわ。それこそ、奥さんのためにね」
「言ってくれるぜ」
「じゃ、ちょっとまってて」
「おう」
「にゃあ」
(久しぶりだな、手下)
「キュー」
(またごはん作りに来たんですか?)
「ピー!」
(食べてあげるから、作りなさい!)
「ギャウ」
(そろそろ普通の肉が食いたいぜ)
「お前たちも相変わらず元気みたいだな」
幸い受付は空いていたので、すぐに受付嬢と話すことができた。
「セリに出していたママイッカーとチチタッコーの代金を受け取りに来ました」
「はい。少々お待ち下さい。それと、二リハさんにお伝えしたいことがあります」
「はい。なんでしょうか」
「二リハさんは、5ランクのスカルポイズンモンキーとチチタッコーを倒されましたね」
「はい」
「その功績を当ギルドは評価し、あなたを5ランクに認定します」
「え?」
これは驚きだ。
私がもう、5ランク?
このタイミングで?
「それ、本当なんですか?」
「はい。ギルドカードをお渡しください。更新します」
「あ、はい」
なんか、あっさり5ランクになってしまった。
これで私も5ランクか。
突然すぎて、あまり実感がないわね。
それに、まだママタッコーから逃げ帰ったということもある。
やっぱり嬉しくなるのは、まだ早いわね。
「では、セリの代金をお渡ししますね。合計で5万3千シクル程になりました」
「多っ」
元から、イッカーとタッコーは食材にできる部分が多い。つまり、無駄がない。
そして、冒険者は大きなイッカーやタッコーをそのまま持ってこれない。
それらの要素が合わさって、丸ごとママイッカーチチタッコーを持ってこれれば、それだけでかなり儲けられるらしい。
つまり、テム大手柄というわけだ。
「もう、お金の心配は無いわね」
いや、しかし、もっと良い装備に変更するべき?
ううん。今のままでも篭手とアクセサリー以外は良い装備だし、篭手も結構手に馴染んでる。アクセサリーも必要というわけではないし、まだいいわね。
ひとまず今は、ママタッコーへのリベンジと、シャスデリと一緒にごはんを食べに行くことだけ考えよう。
「シャスデリ、おまたせ」
「おお。じゃあ、行くか」
「うん」
私達はそのままランギリに向かった。
「いらっしゃいませ」
「先ほど言ったママイッカーとチチタッコーを届けに来ました。まずは、それを渡すので取り出せるところに案内してください」
「はい。まず店長をお呼びしますね」
店員がそう言って、強面店長をまたつれてきた。
「本当に来たな」
「はい。ここでお渡ししますか?」
「いや、厨房まで来い。ただし、お前一人でだ。獣は厨房に入れられん」
「あ、それだと困ります。食材はこのテムが持ってますので」
「ギャウ」
(あれ出すんだろ。ここでいいか?)
「テム、もうちょっと待っててね」
店長はテムを見下ろすと、ため息を吐いた。
「店の裏に回れ。そこに何か敷く」
「お願いします」
「俺も見ていいか?」
「こいつは誰だ?」
「料理人のシャスデリです。知り合いで、一緒にごはん食べに行こうって誘って。彼も来ていいですか?」
「好きにしろ」
「ありがとな!」
こうして無事、ランギリの店長にお詫びの品を渡すことができた。
「本当にチチタッコーとママイッカーの口だな。ママタッコーの口は、見事に2つに切れてるが」
ああ、それは私のファングソードが当たったからです。でも、それでもまだ大きいんだけどね。
「口が一番良いところなんですね」
「絶妙な肉質と他の部位にはない独特な味があるんだ。俺も使うのは久しぶりだ」
「へえ。ここが一番美味いのか。普通のタッコーやイッカーでもそうなのか?」
「それじゃあ飯を作ってやる。中に入れ」
「はい」
「無視かよ」
「無視じゃない。それくらい自分で覚えろ。料理人だろ」
「へ、わかってらあ」
そして私達は、ランギリでごはんを食べさせてもらった。
出てきたのは、やはりほんの少し。でもこれ、タッコーとイッカーを焼いたものだ。
しかもこれ、見覚えが?
あとこれ持ってきたの、店長だし。
「チチタッコーとママイッカーの口のソテーだ」
「やっぱりあれを使ってくれたんですね」
「せっかくだからな。お前も、自分が持って来たものの本当の味を知らないのは不満だろう」
「ありがとうございます」
「これは刺し身じゃないんだな」
「チチタッコーやママイッカーの刺し身はもっと時間を置いてからだ。新鮮なものは焼いて肉質を柔らかくする」
「なるほど。参考になったよ。ありがとう」
「にゃー!」
(これ美味い!)
「キュー!」
(シャスデリのより美味しいですー!)
「ピー!」
(本当だわ、シャスデリのより美味しい!)
「ギャウ!」
(これはめちゃくちゃイケるな!)
皆はもう食べている。しかも超好評だ。
「皆、もうちょっと静かにね。店長もいるし」
店長は険しい目でこちらを見てくるので、一応笑って誤魔化しておいた。
「おお、美味いな」
シャスデリも素直に絶賛している。よし、私も一口。
「これ凄い美味しい」
間違いなく、今まで食べた物の中で一番の味だ。




