旅の準備 2
大分歩いて、人通りが少ない通りに来る。見たところ、どうやらここは武器防具等の店が並ぶ通りらしい。
「こっちにあるんですか?」
「ああ。丁度そこだ。カリアッタ防具店。ここで買うぞ」
私はジュージの後から店に入る。
「おい、親父。防具をくれ」
ジュージがそう声を大にして言うと、奥から筋肉たくましいおじさんが現れた。
「なんだ、ジュージか。珍しいな。そっちの女は、誰だ?」
「今日はこの子の防具を買いに来たんだよ。二リハってんだ。な」
「こんにちは」
「はあ。あのなあ。うちは花屋じゃねえんだよ。店を間違えてるぞ」
「私、どうしても旅に出たいんです。そのために、強くならないといけないから、お願いします!」
そう言って頭を下げる。
「そら、この通りだ。幸い金はあるらしいから、適当に手頃なの選んでくれ」
「はあー。まったく、ジュージ。俺は女が好かんのを知ってるだろう」
「好かないんじゃなくて、ただ戦わせたくないだけだろ。けどどっちみち二リハは旅に出るぞ。その時少しでも助かるように、自慢の防具で守ってやったらどうだ」
「けっ。言いやがって。女、一応言っておくが、武器と防具を身に着けたって強くなれるわけじゃねえからな。結局てめえの命を救うのはてめえの実力だ。道具はただの道具、必ず身を守ってくれるわけじゃねえ。わかるか?」
「はい。でも、どのみち防具は必要ですし。お願いします。買わせてください」
「はあー。仕方ねえ」
おじさんは私を見ると、私の両肩を叩いて、更に腰に手を回して、言った。
「足が長いな」
「う、生まれつきです」
「適当な男つかまえて暮らした方がよっぽどいいぞ」
「は、初恋相手を、探しに行くんです」
「はあー」
防具屋のおじさんは何か言いたげな目を向けてから、奥へと歩き出した。
「ちょっと防具をそろえてやる」
目の前に運ばれた防具を見て、私は悩む。
右にあるのは、皮装備。軽そうではあるが、どこか心もとなさを感じる。
左にあるのは、鉄装備。頑丈そうだけど、重そうだし、なんというか、センスがない。
「あとは額当てか兜くらいかだが、とにかく、好きな方選べ」
「ジュージ、どっちの方が良いんですか?」
「そりゃあ自分次第だ。皮装備の方が動きやすくて、鉄装備は見た目通り頑丈だ。好きな方を選べ」
「じゃあ、皮装備をください」
「あいよ。じゃあとりあえず着てみるか」
「はい」
私は皮装備の防具を全身に装備した。身につけ方は、なんとか憶えた。と思う。
「なるほど。たしかに動きやすいです。あんまり重くない」
「そうか。それは良かった」
「でも、本当にぴったりですね。これ。まるで、測ったみたいに」
「ああ。実際さっき測ったからな。あんたの体触っただろ」
「え、あれで?」
「まあ、長年やってるとわかるんだよ。それで、お前さん、本当に買うのか?」
「はい」
もう決めたことだ。後戻りすることはない。
「それと二リハは、盾を使うか?」
「え?」
「盾。あったら便利だろう。ちなみに俺も盾を使う。まあ、槍とか使うんだったらいらないだろうけどな」
槍、槍かあ。
確かに、槍が使えればリーチを活かして戦うことができる。
けど、盾を持っているだけで安心感を持つこともできるだろう。
「ジュージは剣と盾を使うんですよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、私も剣と盾を使います」
「そうか」
「じゃあひとまず持ってくるか」
防具屋のおじさんは、すぐに盾を持ってきてくれた。
「ライトシールドとカイトシールドだ。更に皮の盾か鉄の盾か分かれるが、まずはどっちにする?」
「ジュージ、どっちがいいですか?」
「だから、好きな方選んだ方がいいぞ。これは自分を守るための選択だからな」
私はジュージが持っている盾を見た。
ジュージはライトシールドを持っていた。どうやらカイトシールドではないようだ。
では私も、それにしよう。
「では、皮のライトシールドをください」
「本当に買うんだな?」
「はい」
「まったく。あんたは使わなくてもいいから、長生きしろよ」
防具屋のおじさんはそう言って、皮のライトシールドを持ってきてくれた。
皮の盾といっても、鉄は使われているらしい。その上に貼っているようだ。ちょっと重い。
「次は武器屋だ。が、今は木剣しか買わないからな。近くでいい。ああ、斧や棍棒にするか?」
「いえ。剣でお願いします」
こうして更に木剣も手に入れた。ロングソードは両手用なので、片手サイズのショートソードの木剣だ。
「一応薬草も買っておくか?」
「? いいです」
防具を一式買うのに結構なお金を使ったため、下手な出費はできない。まだお金はあるけど。
「じゃあ、早速稽古を始めるか。場所は借り長屋だったな。行こう」
「借り長屋の場所、知ってるんですか?」
「前に一度な。仲間が泊まってた。すんげえボロいよな」
「はい」
「はははは」
ジュージが笑って、それから訊いてくる。
「なんであそこに泊まってるのに、そんなに金持ってるんだよ。ひょっとして犯罪か?」
「違います」
なんで皆そんなこと言うんだろうか。
借り長屋の前で、私とジュージが木剣を持って対峙する。
「さて、それじゃあ稽古といきますか。まずは好きなだけ攻撃してこい。俺を倒してみろ」
「いきます!」
「行動が早いな」
善は急げだ。私はがむしゃらに木剣を振るった。
ジュージは一歩も下がることなく、木剣で防ぐ。
「全然力が入ってないな。これじゃあモンスターは倒せねえぜ。人は、まあ、当たりどころが悪かったらやれるか」
「ふっ、ふん!」
指導された通り、木剣を振る腕に力をこめる。
「腕の力だけじゃダメだ。もっと腰を回せ、踏み込め。体全体使うんだ。あと俺の防具を狙うな。隙間を狙え。顔面だって今ならセーフだぞ」
「や、はあ!」
「動きが単調だ。余裕があればフェイントを入れろ。ああそれはフェイントじゃない。ただの隙って言うんだ」
とにかく全力で、ひたすら攻撃し続ける。
やがて私だけ汗をかいて、体中熱く、重くなってから、ジュージが言った。
「さて、それじゃあ今度は攻守交代だ。俺が攻撃するから、二リハは全力で守れ。やられたら死ぬと思えよ」
「ひ、卑怯者ー!」
「何言ってんだ。それ、いくぞ!」
ジュージが容赦なく木剣を振り始めた。速い。防げるかわからない!
最初の一撃は、盾が弾いてくれた。
あって良かった皮の盾。買って良かった。
と思ったのもつかの間、ビシバシ木剣で攻撃される。
痛い、痛い。
「念のため鎧の上だけ叩いてるが、実践でこんな手加減されると思うなよ。皆狙うのは顔や急所だ。せめて、ここで防御のクセだけでも身に着けろ」
「ちょ、ちょっと休憩」
「ダメだ。実戦は待ってはくれないぞ。疲れてても死ぬ気で動け。生きるために」
「お、鬼ー!」
私はその後も鬼に、容赦なく打たれ続けた。




