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旅の準備 1

「マスター、サーナ。今までありがとうございました」

「うん。また困った時は会いに来てね!」

「気をつけろよ」

 2人から温かい言葉をもらい、給料ももらって借り長屋に帰る。もうお金を手に入れたが、まだしばらくは借り長屋にお世話になるだろう。そこが一番安いから。

 でも、ごはんくらいは良いものを食べたい。黒パン1個とスープでは、身がもたないだろうから。

 後は暮らせば暮らす程、お金は出ていく一方だ。でもそれでも私はサーナ達と別れて、旅に出る支度をする。

 もう、決めたことだ。この先に何が待ってるかはわからないけど、私が幸せになれる可能性も、少しは幻視して良いはずだ。

 自分の人生、一度きりしかないはずだから。


「それじゃあ行こうか、ニリハ」

「うん」

 朝。私はジュアラと一緒に、パン屋でパンを買って食べてから冒険者ギルドへ行った。

 ジュアラは仕事だが、私は冒険者になるためだ。そして焼き立てのパンは驚く程美味しかった。

 これからシイドを探す旅に出れば、いずれお金は尽きるだろう。そうならないためにも、旅を続けながら稼げる仕事につきたい。となれば、冒険者の仕事が妥当だろう。

 それに自分で身を守れれば、その分安全になる。いずれにしても、旅をするなら冒険者になるのが一番なのだ。きっと。

「じゃあ、私こっちだから」

「うん。頑張ってね、ジュアラ」

 ジュアラはギルドの隣の建物へと入っていった。私はそのままギルドに入る。

 早朝のギルド内は混んでいた。前に来た通りだ。

 これは来る時間を間違えたか。そう思ったが、しかし早いにこしたことはないのも事実。むしろ冒険者になったら、彼らと依頼を取り合うのだ。私も負けてられない。

 決意を新たにして、受付の列に並ぶ。

 しばらくして自分の番になり、多少声を高くして言った。

「あの、私、冒険者になりたいんです!」

「冒険者登録ですね。では、審査があるのでまず、10シクルください」

「え、お金取るんですか?」

「そうですよ。それと、簡単な実力テストですね」

 実力、テスト。

「あ、あのお、その審査に向けての練習とか、どこかでできますか?」

「練習。訓練や稽古ということですね。それは依頼になりますよ?」

「いくら、かかりますか?」

「そうですねえ。稽古の依頼はまちまちですが。素人冒険者になりたい方向けとなると、稽古一回55シクルくらいでしょうか?」

 た、高いような、安いような。

「ですが、受ける方がいるかどうかも決まっていませんから。報酬を上げれば可能性は高くなりますが、稽古となると、一般的には知り合いにつけてもらうものですよ。誰かいないんですか?」

「すみません。田舎から来たばかりですので」

「そうですか。では依頼申請書を書いてください。書き終わったらまた列に並んでくださいね」

 そう言って一枚の紙とペンを渡された。

 私はすごすごとその場を動き、受付の隣にある酒場の席で必要事項を書いた。

 依頼内容。稽古の手ほどき。報酬、一回55シクル。で、いいよね。

 依頼者名、ニリハ。場所。場所?

 借り長屋の前とかで、いいかな?

「ひとまず書けた」

 よし、また並ぼう。

 私はまた、長い行列へと並び直した。


「あー、ごめんなさい、ニリハさん」

「はい、何がでしょう」

「かかるのが55シクルって言ったんですけど、報酬は50シクル程です。ギルドでは報酬の1割が手数料としてこちらに支払わなければならないんですよ」

「あ、そうなんですか」

「ひとまず、50シクルに直しておきますね。報酬はこちらで支払いますか。それとも自分で渡しますか?」

「じ、自分で渡します」

「では、依頼を受けた者に手渡してください。稽古依頼なので、何度も受ける場合はその度にこちらへ5シクル渡してください。まあ、面倒だったらいいですけどね」

「わ、渡さなくてもいいんですか?」

「基本は渡すことになってますが、管理が面倒ですから。冒険者は依頼成功の度にポイントが加算されて、そのポイントが一定数に達したら次のランクに上がれるんです」

「なるほど」

「でも、稽古なんて、大したポイントにはなりませんし、毎回ギルドに来るのも大変でしょう。さほど重要でない依頼は、ルールなんてゆるゆるでいいですから」

「わかりました。ありがとうございます」

「それでは、手数料の5シクルをお支払いください。はい、たしかに。では、これピンです。掲示板に自分で貼ってください。1ランク程度の依頼なので、入口側に貼れば見られますよ」

「わかりました」

 私は言われた通り、自分で掲示板に依頼書を貼った。

 その姿を、1人のおじさんが間近で見つめてくる。

 ちょっと気にしていると、おじさんはあろうことか私の依頼書を詳しく見た。

「ふーん。稽古の依頼ねえ。50シクルか。安いな」

「では、いくらなら良いのですか?」

 私は思わずそう訊く。するとおじさんは軽く依頼書を2回叩いて言った。

「例えば金持ちのボンボンが強くなりたいと言い出したとする。そしたらその稽古依頼は、一回百、いや五百シクルはするな。ただし、実力者に限るが。簡単な依頼とはいえ、こっちは実力者なんだ。実力にあった報酬が欲しくなるのは当然ってもんだ」

 なるほど。たしかにそうだ。皆お金が欲しいから依頼を受ける。安い依頼なんていらないだろう。

 でも、私にだって事情がある。できるだけ使うお金は切り詰めたい。だから50シクルにしたけど、でもそれでダメなら、百シクルくらい出せる。今なら。

「ならあなたなら、百シクル払えば依頼を受けていただけるのですか?」

「俺か?」

 おじさんは私をじろじろ見た。私は毅然とする。

「一応聞いておくが、お嬢ちゃんが強くなりたいんだよな?」

「はい。どうしても、すぐに、強くなりたいんです」

「ひよこが空を飛べないことくらい、わかってるよな。ネズミがドラゴンに勝てないことくらいも」

「わかっています。私も、そこまで高望みはしません。ただそれなりの冒険者として旅ができ、自分の身を守れるなら、それでいいんです」

 おじさんをまっすぐ見つめる。するとおじさんは大きく息を吐いた。

「若気の至りってやつかねえ。なんでまた旅なんかしたい。彼氏にふられたか? いや、それとも、逃げたいとか?」

「初恋の相手を探しに行きたいんです」

「ぷっ。あははは!」

 おじさんに笑われた。かなりムカつく。

「そうか。それじゃあやめとけ。この町でも十分恋くらいできるさ」

「でも、彼はこの町にいません。百シクルで足りないなら、2百シクル出します!」

 いや実際には出さないが、それくらいの気持ちはある。

 すると、おじさんはまた私を見た。

「ほう。そこまで言うなら、あんたの依頼を受けてやるよ。俺はジュージ。よろしく、ニリハちゃん」

「え、私の、名前」

「依頼書に書いてあった」

「あっ」

 こうして私は、ジュージと知り合った。


 言葉の通り、ジュージは依頼を受けてくれた。

 ホッと一安心した私は、ジュージに言う。

「では、ジュージ。私に冒険者の基本を教えてください」

「基本ねえ。本当にそれだけでいいんだな?」

「はい」

「じゃあ、まずは戦うことだ。ニリハちゃんは、武器は何使う」

「えーっと、剣?」

「なんで疑問形?」

「まだ、何も買ってないから。冒険者で一般的なのは、剣ですよね?」

「はあ。そこからか。これは本当に200シクルくらい欲しいもんだな。面倒すぎて」

「ごめんなさい」

「ニリハちゃん。武器買う金はあんのか?」

「あります。5万シクルくらい」

「多っ!」

「冗談です。でも、高い武器の方が良いんですよね?」

「それは違うな、ニリハちゃん。素人が良い武器持ってても、それに目をつけられて横取りされるのが現実だ。高い武器はベテランが持つべきで、素人には素人用の武器がある。ひとまず、武器を選ぼうじゃないか。それと防具な」

「はい」

「店は教えてやるよ。信じられる店主のとこのな。でも、まずは武器じゃなくて、木製の模造武器だ」

「それは、余計な手間じゃないんですか?」

「稽古だっつったろ。防具はともかく、武器は刃がなくていい。ああ、俺のも一緒に買えよ。木剣が1つな」

「はい」

 こうして私は、ジュージについて行って、まず、防具屋に立ち寄った。


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