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借金まみれの貧乏令嬢は麗しの侯爵子息の幼馴染に愛されていました 【短編】連載版もあります

強いヒロインです。

ざまあは薄目だと思います。

では、広い心でお読みください。

(*'ω'*)

「好きだ。リリア、ずっと好きだった。俺の恋人になって欲しい」



王立学園の中庭で一組の男女が手を取り合っている。

風が吹き、リリアと呼ばれた女子生徒の癖のある胡桃色の髪がふわっと(なび)いた。



「アレックス・・・。嬉しい・・・。私もずっと好きだったの」



髪と同じ胡桃色の瞳を潤ませて、背の高い男子生徒の胸元に飛び込む華奢な女生徒。



「ああ。リリア、俺も嬉しいよ・・」



男子生徒は女子生徒の髪を優しく撫で抱きしめた。



「アレックス・・・」



ゆっくりと顔を上げ、女生徒は潤んだ瞳で男子生徒を見つめた。男子生徒はそっと女子生徒の頬に手を添えた。


そして二人は目を閉じ、顔を寄せ合った・・・・。








はい、アウトー---!!!!!





もうこれで何回目よ。


キス迄持って行くやり方も毎度同じ。教科書にでも載ってるのかな。私も同じ事が出来る。


ちなみにこの後は、体を離して、女子生徒の髪にキスをして、「ああ、もう離れないと。寂しいな」「え・・、私も・・」「君の事しか考えられない」「ああ・・アレックス・・」なんてして、もう一度、ぶちゅー。


ちらっと窓の外を見ると、髪にキスしていた。ほらね。あと二分後にはぶちゅーよ。


覗いていたボウウインドウを音を立てないように閉め、やれやれと溜息をついてると教室のドアが開き男子生徒が入って来た。


幼馴染のノア・パーラメントだ。



「ミランダ、やっぱりまだ残ってたんだ。門の所で待ってるって言ったのに来ないから、探しちゃった。僕との約束、忘れて帰ったかと思ったよ?」



腕を組んで眉毛を下げこちらに歩いて来るのは私の幼馴染だ。シルバーブロンドの長い髪を一つに結び、瞳の色は柔らかいエメラルド色。昔、ノアって聖女様に似てるって言って怒られたが綺麗な顔立ちから色味まで似てると思う。



「待たせてごめん。もう帰る。用は済んだし」



ボウウインドウのレースのカーテンを閉めると、鞄に荷物をまとめた。そんな様子を見ながらノアは近づいてきた。



「ミランダ、なーに見てたの?」



「ぶちゅーであります」



私は敬礼をしながらノアに答える。私の側までやってきたノアはレースを捲り、ひょいっと外を覗きこむとうわあっと小さな笑い声をあげた。



「凄いねえ、こんな場所で。ぶちゅーだって・・・。よくやるよ、でも、いいの?あれ、一応君の恋人なんじゃない?」



私は静かに首を振る。



「違うであります。恋人ではなく婚約者であります」



私は敬礼をしながら答える。



「余計悪いでしょ。ミランダはいいの?で、なにその敬礼、今の流行りなの?」



私は首を(すく)める。



「ふざけてないとやってられないから。私から婚約解消が難しいの分かってるでしょ?証拠を集めていたんだけど、それでもどうかな。なんせうちは貧乏だから。ど貧乏だからね。名ばかりの貴族って大変よ。平民になるのが一番だけど、あまり貧乏だと平民にもなれないよ。爵位も売れないし。人が良すぎるのも考えものだね。ああ、アレックスをどうにかしたい」



私が鞄を持ちクラスのドアを開け、ずんずん歩き廊下に出るとノアは私の後を追ってきた。



「ところで、ノア。私に何か用事?ぶちゅー見たかった訳じゃないでしょ?」



私が歩きながら訪ねると、にっこりとノアは頷いた。そうして私の前に回り込むと私の手を握った。そして、こっちこっち、と手を引き、空き教室の一つに入るとドアを閉めた。


いつの間にかノアの手は私よりも大分大きくなっている。私は目をぱちくりしてノアを見上げた。



何故ここに入るの?私が不思議そうに見てるとノアがにっこり微笑んだ。



「うん、他人のキスは興味ないかな。ねえ、可愛いミランダ。僕、君の事が好きだよ。大好き。君があんなのでも婚約者だから返事が出来ないのも分かってる。心配かけまいと君の家が我が家に何も言ってこないのも知ってる。だから婚約解消迄待つつもりだったけど、君の家はすぐに婚約解消出来そうにないでしょ?僕が手伝っちゃ駄目?」



私は目を丸くし、口をかぱっと開けた。



「一生懸命で、可愛くて、勉強を頑張ってる君が好きだよ。大好きだよミランダ、僕が婚約者になりたいって言ったら嫌かな?」




私は普段から丸い目をさらに丸くしてノアの綺麗な顔を見つめた。







言葉使いが穏やかで背が高いノアは、男らしいと言うより綺麗で美しい顔立ちの侯爵令息だ。ど貧乏子爵の我が家と違って由緒正しき侯爵家の三男である。


まあ、三男と言う所が遊び相手に丁度良いと思われているのか、貴族令嬢からお金持ちの平民マダム迄声は掛かっているらしい。


しかしモテる男は誰とも付き合ってないとも噂で聞いた。婚約者もまだいない。


最近は女性だけでなく女性の恋人を作らないなら、男性が好きなのでは?と、男性からもモテているらしい。守備範囲が広いと思われるのも大変だ。



私が友人のアイリーンと、昼食に手作りサンドイッチをもぐもぐ食べているとノアが下級生からもキャーキャー騒がれているのを見かけたりする。


モテる男は歩くだけで煩い。


アイリーンは侯爵令嬢で家格が違うが仲の良い友人だ。


ある時、私が街にアルバイトに行った帰りに、偶々一人でいたアイリーンが暴漢に襲われそうになっている所を通りかかり、救った所から友達になった。アイリーン曰く、まるで恋愛小説の一ページの様に私は颯爽と現れ暴漢をやっつけたらしい。



「あの時のミランダは、チョコレート色の髪がキラリと光って、アメジスト色の瞳がとても綺麗でしたわ。そしてこんなに小さくて可愛いのですもの、是非お友達になりたいと思いましたわ」



その後、暴漢は警備隊に突き出し、アイリーンを家まで送り侯爵達に感謝され、家格が違うが親公認の友人となった。同じ学園で同じ学年と知ってからはお弁当を一緒に食べている。


そして今日も中庭でお弁当を食べていると、キャーキャー声が東の廊下の方から聞こえてきた。


私が我が家特製質素倹約サンドイッチを食べていると、アイリーンは二人の間に大量のおやつを並べるようになった。サンドイッチを食べ終わり、アイリーンからおやつを貰ってむしゃむしゃ食べているとまた、キャーキャー声が西の廊下から聞こえてくる。


ああ、ノアが食事を終え、食堂からクラスに戻る折り返しかしらって分かる。


アイリーンからは、ミランダの幼馴染は人気者ね。と言われ、私はうん、と頷いた。


ノアは学園で私と目が合うと、優しく笑いかけるが声は掛けてこない。私も頷くだけ。入学式では同じ身長のちびっ子仲間だったのに、ノアだけどんどん背が伸びて今では私はノアの肩にしか背が届かない。


ノアの家とは、おじい様同士が同じ剣の師匠を持ち、二人のじい様は兄弟子、弟弟子の関係だ。その為、家族同士の付き合いがあったが学園では家格が違うし私は婚約者がいる事もあり、あまり話す事はなかった。


それでも長期休みの時等はお互いの家族が両家を行き来したりして猟に一緒に出掛けたりした。


我が家にとって猟は死活問題なので必死である。貴族の娯楽でやってる訳ではない。他の家の猟と本気度が違う。


勿論私もナイフやら弓やら罠やらボウガンやらを扱える。血抜きや解体までは母様には負けるけど、そこらの令嬢には負けない。


パーラメントのおじい様はそんな我が家を気に入ってるのか、私の事も可愛がってくれた。



ただ、ある日、突然私の婚約が決まった。



アレックスの家のドルトン伯爵家から婚約の打診が来たのだ。ドルトン家は我が家が借金をした事から付き合いが始まった。我が家が肩代わりした借金の借用書をドルトン家が持っていたのだ。



我が家に子供は私一人。アレックスのドルトン伯爵家はアレックスの上に嫡男がいる。


そこで、貧乏とはいえ、一応由緒正しき子爵家の婿養子に狙われたのが我が家だ。初めはドルトン家は感じの良い人だった為、我が家は婚約を決めたらしい。家格が上の家からの打診ではそもそも断る事も難しい。


しかし、婚約が決まったとたんドルトン家は我が家に対して横柄になった。



しまった、と思った時はもう遅い。

一度結ばれた婚約は簡単に解消出来ない。

我が家から婚約解消を申し出れば慰謝料を請求される。

その上、借金もある。

家格も下。

手詰まりだった。



結果、私は生贄の様に差し出された。いや、我が家が不良物件を受け入れるのだ。



私は頭を抱え、じい様から、父様、母様に、アレックスのクソ男っぷりを訴えたがどうしようもなかった。婚約して一年経ち、アレックスの浮気やら、素行不良やら、成績が最悪な事やら証拠を集める為にせっせと動いた。


我が家も少しでも借金を返済しようと、母様は内職をしている。内職と言って良いのか、母様が持つ解体スキルを生かし冒険者ギルドで日々魔物の解体に勤しんでいる。子爵夫人がやる仕事ではないが給料が良いらしい。もちろん子爵夫人と言う事は隠しているが、ギルド長以外は誰も子爵夫人とは思っていないと思う。


血濡れのナイフを振り回し、優雅に解体していく様は見事だが恐ろしくもある。


父様も王宮で働きながら休みの日は猟に出かけ、我が家の食費を浮かしている。じい様もいまだに働き続け、剣の師匠として小さな子達に教えている。


それでも我が家の借金はなかなか減らない。


我が家の借金の原因は大叔父だ。じい様の年の離れた弟が金山発掘を夢に見て、大層な借金を山のように作り消えた。


じい様は借金で迷惑をかけた家に、貴族、平民関係なく頭を下げた。そして今後の事を考え大叔父と縁を切った。縁は切っても、切る前に作った借金は我が家で返済すると決め、貧乏子爵家からど貧乏子爵家へとなった。


ドルトン家には困っている所に付け込まれたのだ。


丁度じい様が寝込んでいて、父様、母様も憔悴している時でまともに考えられない時だった。タイミングが悪かった。普段なら結ばない縁を思わず結んでしまったのだ。


私はアレックスもドルトン家も嫌いだが、どうする事も出来ずとにかく円満に婚約解消出来るようにせっせと証拠を集めている毎日だった。


まあ、コソコソ学園を歩き回り、気配を消しながら行動したおかげで私は隠密スキルを身に付ける事が出来た。父に隠密スキルを相談した所、じい様の知り合いのサブロウ殿から鍛えて貰う事が出来た。教えて貰ったシノビの技で天井裏にも床下にも隠れられる。


これで、学園卒業後は婚約解消しても冒険者としてやっていけるんじゃないかと思っている・・・







はっと我に返り、ノアを見つめると、ノアはにっこりと私を見つめ手を握っていた。いけない。こんな所見られたらノアがなんて言われるか。


私は急いでノアの手を払うと、辺りをキョロキョロ見回した。私がキッとノアを見上げると、ノアはにっこりと微笑んでいた。


本当、この顔に見つめられると弱い。



「ノア・・・。いきなりどうしたの?」



私は顔が赤くなるのを感じながら訊ねた。



「好きだよ、ミランダ。いきなりで申し訳ないけど、君さえ良ければ僕の父上やじい様にお願いして、君の家で君との婚約の話をしてみようと思うんだ。急かもしれないけれど、我が家ではこの話は前からあるんだ。だから後は君の了承を先に欲しいんだ」



私は驚きっぱなしで目が丸いまま。



「そう簡単に物事は運ばないよ。父様には何度も婚約解消のお願いしたもの。アレックスの浮気や、学園での成績、生活態度も含めてね。アレックスが婿養子になるとうちの家はお先真っ暗って説明したのに、借金で首が回らなくてどうしようもないの」



ノアは優しく私の手を握る。



「ミランダ、ねえ僕の事を考えて。ミランダなら、クソ男のアレックスと僕なら、どっちが良い男か分かるでしょ?僕は浮気はしないよ?成績だって五位以内に常に入ってる。ちゃんと自分で稼げるように剣だって頑張ってるよ?僕はミランダが大好きだし、ミランダを幸せにする為ならなんだってするよ?ミランダ、僕を選んで。ミランダが初めて羽兎を仕留めた時からずっと好きだよ。小さな体で容赦なく弓を射って、羽兎を掴んだミランダはキラキラしていた。まるで天使だった。ミランダは僕の事嫌い?」



ノアは悲しそうに私を見て、コテンと首を傾けた。長い綺麗な髪がノアの顔にかかる。



「ノア・・・。その聞き方はズルい・・・。そして、なんかノアの気持ちが重い・・・。羽兎を狩る天使はいないよ・・・。キラキラはノアの涙じゃないかな?ノアの事は好きだよ。でも、私、なんて言うかそういう事はノアと違って、よく分からないから。ほら、猟をしたり、シノビの技を習いに行ったり、男の人はアレックスとノアしか周りにいないし。仲の良い友達は、恋人や婚約者と仲良くていいな、とは思ってたけど、恋とかよく分からない」



私はもじもじと手先をいじりながら顔を赤くして答える。



「ミランダ、可愛い。ねえ、顔を赤くしてくれるって事は少しは僕の事考えてくれてるんでしょう?大丈夫だよ。ミランダ、僕をミランダの恋人にしていいって言って?」



ノアが天使の顔で私の手を握りながら悪魔の囁きをする。私は思わずノアの悪魔の囁きに頷きそうになった所で、我に返った。いけない、ダークサイドに落ちそうだった。



「なんだか変だよ。ノア、急にどうしたの?なんで急にこんな事言うの?」



ノアはへにょんと困った顔をした。



「僕がミランダの事が好きなのは本当だよ。大好き。ミランダが自分でクソ男をやっつけるのを待つつもりだったんだ。我が家も手を出したくてうずうずしていたけど、じい様が、頼まれてもない剣士の助太刀は恥ずかしいとかなんとか言ったり、剣士の約束がどうのこうのって。僕からもミランダに告白しちゃいけないとかね。でも、のんびり構えていられなくなったんだ。隣国に留学していた第三王女が帰って来てね。僕と婚約したいって王太子殿下に頼んだらしいんだよ」



私はびっくりした。え。第三王女って確か、私達より十歳は年上の人よね。そして、昔色々やらかして国内での嫁ぎ先が無くて留学って名目で外に出された人よね。


私達より上の代でのやらかし有名人だ。


私はじとーーーっとノアを見た。ノアは慌てて私の手をぎゅっと握った。



「違うよ。ミランダの事が大好きなのは本当だよ。王太子殿下の側近にうちの一番上の兄様がいるからね。それで王太子殿下から教えて貰ったんだよ。王太子殿下の好意だね。ただ、国王陛下まで話しはいってはいないけど、王室から正式に我が家に話を持ってこられたら断るのは難しいよね。まあ、無いとは思うけど、可能性は潰したいからね。ミランダを待つつもりだったけど。もう待ってられないよ。一度目だって、急にミランダは婚約するんだもの。僕はちゃんと準備してたのに。父上も母上もじい様もやっと説得出来て、ミランダに告白して良いって言って貰えたんだ」



ノアは慌てて言うが、私は納得した。成程、ノアも不良物件を押し付けられようとしているのか。そして、気心知れた私であれば、何かあった時にすぐに婚約解消出来る。


うちの借金も少しは手伝ってくれるかもしれない。私は頭の中をチャカチャカ動かし、ピコーンと答えをはじきだした。



「うん、成程。解った。良いよ。そういう事なら、じい様も納得すると思う。両家の為だもの。助太刀って思わないんじゃないかな?色々ノアも大変だね。なんだ、それならそうと言ってくれたらいいのに」



ノアはゆっくり私の手を握る。



「はあ、ミランダ。ちゃんと分かってる?僕と恋人になってくれる?」



私は頷いた。



「うん、ノアがピンチなのは分かった。では、早速我が家で作戦会議と行きましょう!!」



「分かってない気がするけど、返品不可だからね?言質取ったからね?もう、ミランダは僕の恋人だよ?」



私達は教室を出ると、ノアの馬車で我が家に帰った。ノアは馬車が我が家に着くと、すぐに自分のパーラメント家にも言伝を頼み馬車を返した。



「ただいま帰りました」



私が家に入り、挨拶をするとじい様が窓の掃除をしている所だった。



「おや、ノア君か。大きくなったな。マックスも背が高いから似たんだな。背が高い者は足先と振り下ろしの鍛錬が良いぞ。薪割りも背筋に効いて良いな。やってみなさい。ああ、ミランダお帰り。お前は縮んだか?」



ノアがじい様に挨拶し、私は鞄を執事のじいやに預けた。



「じい様、ノアの横だから小さく見えるんですよ。これでも少しは大きくなってるんです。父様のチビ遺伝子のせいですよ。とにかく大変なんです。緊急会議ですよ。父様にも急ぎ帰るように手紙を出して下さい。母様はギルドですか?母様にもお願いします」



じい様はノアを見て、ノアが頷くと、ふむ、と言い、執事を呼び手紙を書き急ぎ届けるように言った。



「ティールームに行こうか。で、どうした?頼みなら聞くが、我が家に金は無いぞ?」



すっからかんだ。はっはっは、と笑い、じい様はノアと私を連れティールームへとむかった。


ティールームに着くと、婆やがお茶を入れてくれた。我が家に執事とメイドは一人ずつ。執事のじいやとメイドのばあや。馬車の御者もじいやがする。


私がお茶を飲んでいると、ノアは私に学園で話した事をじい様に話した。


私の事が好きな事、でも、ノアの家族から私への告白は止められていた事、私が婚約解消出来るまで待つつもりだったが第三王女が出て来そうな事、もう、待って失敗をしたくない等、一生懸命話をしていた。


じい様がゆっくり聞いていると、ばあやが来てノアの家族がやってきた事を伝えた。ノアのじい様がやってくると、じい様同士は拳を打ち、抱き合い挨拶をした。




「久しいなジェフ。ノアから話を聞いた」


「そうか。ディーン元気だったか?」


「ああ。すまんな、気を遣わせる」


「いや、我が家の為でもあるんだ。王家が出てきては断れん」


「ジェフ、一つ確認したい、いいか?ノア、ミランダのどこが好きなんだ?」



ノアはじい様達の方を向くとはっきりとした声で答えた。



「ミランダが初めて羽兎を狩った時からずっと好きです。逞しく、美しく、勤勉で、可愛らしい。ミランダの何処を好きなのか分かりません。ミランダだから好きなのです」



私はボンッと顔が赤くなり恥ずかしくなった。ノアは不良物件押し付け仲間で言ってるんじゃないの?


私があわあわして、手をもじもじしていたらノアのお母様からニコリと微笑まれた。ノアはお母様似ね。ノアのお父様は逞しいもの。綺麗なノアのお母様にぽーっと見とれていると、ノアから「僕を見て」と言われて手を握られた。


私はアイリーンに言わせると最高に撫で回したいくらいに可愛い頬をしているらしいけど、小さな背も童顔な所も褒められた事等ない。


アレックスからは顔合わせの時に、「これが俺の婚約者?嘘だろ?チビガキじゃないか」と溜息をつかれた。身軽で小さな所はシノビに良いとサブロウ先生に褒められたが、それだけだ。


アイリーンはいつも褒めてくれるが、可愛いなんて異性から言われた事はない。


じい様達は分かった、と頷き。



「孫達を困らせて情けない事だな。ジェフ、宜しく頼む」と、うちのじい様が頭を下げた。



「いや、ディーン、お互い様だ。変に意地を張ったのが悪かった。我が家から話を持って行けばお前は断れまい。お前を困らせたくなかったんだ。ノアにはミランダから好きになって貰えれば良いと言っていたんだ。もっと早くに話をすれば良かった。こちらこそノアを頼む」



じい様達が話していると母様が帰り、まだ血が付いたエプロンを着けていたが綺麗に礼をして挨拶をしていた。


パーラメント家の皆は礼を返してくれたので、血濡れエプロンに驚かない事にホッとした。


まあ、猟で慣れてるのかしらね。


アイリーンが初めて母様の血濡れエプロンを見た時は、私の鼓膜が破れそうな叫び声をあげ、パタンと倒れ気絶した。慌ててアイリーンを介抱した後、ばあやとじいやが我が家の窓ガラスにヒビが入ってないか確かめたが無事だった。アイリーンの叫び声はその位凄く、母様は慌ててエプロンを外し新しいエプロンに代えていたが、今更だった。


両家で話をしていると父様が慌てて帰ってこられた。


そこでまた説明がされ父様も頷き、パーラメント家のおじ様と握手をし両家の話し合いは終わった。




そこからの流れは早かった。


まずはドルトン家に婚約解消の書類を我がリンツ子爵家から送る事となった。突き返されたり借金返済の催促が来る事は予想されたので、書類には、婚約解消の見届け人としてパーラメント家が入り、王太子殿下も間に入ってくれる準備がある事を付け加えた。


今後の借金返済もパーラメント家が間に入ってくれる事になった。


王太子殿下も第三王女にはほとほと困り果てているらしく、優秀な側近がこの件で自分から離れていき、優秀な弟子を大量に持つ我がじい様を敵に回したくはないらしい。


騎士団の団長始め、多くの騎士や優秀な冒険者がじい様の弟子らしく、影の支配者とも呼ばれているらしい。



何それ、かっこいい。ど貧乏でも、関係なく役に立つ事があるのね。



ドルトン家は我が家からの婚約解消に渋ってたらしいけど、アレックスの浮気の証拠の数々を発表すると言ってみたり、王太子殿下の名前を出すと、渋々だが了承した。


その後、ドルトン家は我が家に解消ではなく婚約破棄の慰謝料迄取ろうとしていたらしいけど、アレックスの浮気相手の一人の妊娠が判明しその話は無くなった。



我が家が穏便に解消しようとしていたのに、ドルトン家が婚約解消ではなく婚約破棄の慰謝料を我が家から取ろうとした。そこで逆に我が家から各浮気相手の家と、ドルトン家にも慰謝料を請求したら我が家の方が認められた。ドルトン家の借金は慰謝料と相殺という形になったが、他の家からも慰謝料を貰える事になり借金は大きく減った。


アレックスも私と婚約解消出来て嬉しいんじゃないかな。チビガキは嫌だって、会う度に言われたからね。


私は婚約が無事に解消されホッとしていた。



学園でもアレックスを見かける事は減り、婚約破棄騒動からぶちゅー現場に遭遇する事も無くなった。



さあ、次はノアの番だ、と、私とノアの婚約を両家で進めていると、待ったがかかった。


婚約の書類を王宮に提出した所で、書類が止まっているらしい。ノアのお兄さんと我が家の父様が調べると原因はすぐに分かった。



第三王女が陛下にノアとの婚約をお願いしたとの事だ。


書類を提出してすぐにその話があり、本当に危ない所だったみたいで、陛下も婚約の書類が提出されてなかったらどうしていたか分からない。


ただし、現に婚約の書類は両家から出ており、第三王女のお願いを陛下も聞いておらず、保留との事だ。


何故保留になっているのかと言うと、第三王女は国王陛下に、「まともな縁等無理で、これが最後のチャンスかもしれない」と、泣き落としているらしい。


国王陛下も第三王女の気持ちは分かるが、パーラメント家の嫡男は王太子の側近。パーラメント家も侯爵家として優秀な家。そして、貧乏とは言え多くの弟子を持つじい様の事や王宮で真面目に働いている父様の事、大叔父のやらかしを自分達で解決しようとしているリンツ家の事も評価して下さってるらしい。その両家が縁を結ぶのを邪魔をするのは駄目だと、第三王女に撥ねつけようとしたが第三王女の母親、第二妃も一緒になってお願いをしだしたらしい。


そこで王太子殿下から、「婚約は調うだろうが、納得させるのに少し時間がかかるだろう。待って欲しい」と言われた、と、ノアのお母様から言われた。



我が家は借金返済の目途も付いてほっとしてるが、ノアは第三王女から狙われびくびくしているだろうな、と思うと、私はノアが心配だった。



そんな事から数日が経ち、学園での昼食の時間にアイリーンに最近の出来事としてこの話をした。


アイリーンはアレックスとの婚約破棄の話に喜び、第三王女が話に出てくると眉間に皺をよせ、その相手が幼馴染のノアで狙われていると知ると口元に手を置き、私とノアが婚約する事を話すと口がぱかっと開いた。


今なら何かこっそり口に入れてもいいかな?と思っていると、アイリーンが口を閉じ、現実に戻って来た。



「ミランダ。ミランダの新しい婚約者候補のノア、って、あの、ミランダの幼馴染って言ってた、皆がキャーキャー言う、ノア・パーラメント様よね?」



私は最近少しだけ豪華になったサンドイッチをもぐもぐしながら首を縦に振った。



「そうだよ。そのキャーキャー言われているノアだよ、なんだか色々あって、婚約する事になったの。びっくり」



アイリーンはおやつを私に渡すとキョロキョロとあたりを見回し、声を潜めて私に綺麗な顔を寄せた。



「ミランダ、この事はまだ誰も知らないの?」



私はまた首を縦にふり、アイリーンから貰ったクッキーをもぐもぐ食べだした。



「うん、王宮で書類が止まってるから。ちゃんと受理されたら皆に言うんじゃない?ノアは恋人になりたいって言ってたけど、相手が第三王女だからとりあえずいつも通りだよ」



アイリーンも首を縦に振り顔を離した。



「そう、それがいいわ。ミランダの新しい婚約者がパーラメント様なんて知られたら、可愛いミランダは何されるか分からないわ。ミランダが強い事を私は知っているけど、見た目だけは小さくて可愛らしいんですもの。この頬。最高に愛おしいわ。明日はジャムビスケットを持ってくるわね」



私はアイリーンに頬をぷにぷにと触られ、ジャムビスケットの言葉に喜び、わーいと手を上げた。



「アイリーンの家のお菓子、どれも美味しいよね。シェフに弟子入り出来ないかな?」



「ミランダ、作る人になってしまうと食べれないわよ。ミランダは美味しく食べる人のままでいいと思うわ」



私はもぐもぐと食べながら頷く。



「そうだね、食べるのが一番だね。母様にいつもアイリーンにお菓子を貰ってるって言ったら、今度お礼にレッドボアかジャイアントブルをアイリーンの家に持って行くって言ってたよ。執事さんかシェフさんに伝えておいて欲しいな。新鮮な時に届けたいみたいだから、母様急に行くかもしれない」



アイリーンは口元を引きつらせながら、有難う、言っておくわ、と言った。




それから暫く平和な日が続いたが、ある日学園が騒がしくなった。学園祭の準備で皆が浮足だっている時に、お忍びで第三王女が学園にやって来たのだ。



ざわざわと皆がしているなか、学園長に案内された第三王女はすまし顔で廊下を歩いていたらしい。らしいというのは、私も何かな?と思って人ごみを覗いて見たが背の低い私では上手く見れなかった為諦め、側にいた友人にどんな様子か聞いたのだ。


やはり第三王女と言う事で、生徒は落ち着きなくソワソワしていたが、第三王女が学園長と共に移動し、その場にいなくなると次第に生徒も自分のクラスに戻って行った。


第三王女が学園に来て、ノアは大丈夫かな?と心配になったが、まだ書類は止まったまま。私に出来る事は無い。


学園祭の準備を進め、私はクラスで使う絵具が少ない事を確かめていると噂話を耳にした。



アレックスの浮気相手の一人が学園を辞めたらしい。


きっとお腹の子の為にも安静にしたいのだと思う。辞めたのは男爵家の子だったから、アレックスはその子と結婚するんでしょうね。アレックスが男爵家に入るかどうかは知らないけど、愛し合う二人なら幸せでしょう。



私は人生色々だな、と考えながら絵を描く為の道具を美術室に取りに行ってると、また人ごみにぶつかった。


まっすぐに進むととすぐに美術室だが、人が多くて中々通れない。



「ねえ、ノア様に会いに来たらしいわよ」


「え、何故?嫌よ」



人ごみの中から女子生徒達の声が聞こえる。



「なんでも第三王女様が婚約者としてノア様を迎えるとか」


「ええ!!そんな!!」


「王家から言われたらノア様もしょうがないのかしらね・・・」



女子生徒たちの小さな悲鳴や、泣き声が聞こえる。


あらあら、第三王女不人気ね。私がノアの婚約者になったら、みんな、どうするのかな。


私が隙間を縫って美術室にたどりつき、棚から絵具を取ってクラスに帰ろうとすると美術室に誰か入って来た。



「ちゃんと、渡したんでしょうね?」



「ええ、間違いなく」



聞きなれない声だが私は不穏な気配を感じ、隠密スキルで隠れた。



「ノアと婚約をすると言う子は見つかったの?」


「それが、教室を見ましたが一足遅かったようで、どこかに行ったようでした。見つけ次第拘束します」


「ふふふ。そうして頂戴。私達の邪魔をするのがいけないのよ。で、ノアはもう飲んだのかしら?」



成程、きっと話してるのは第三王女達ね。



「ええ、先程確認しましたが、しっかりと飲んでいるようでした。そろそろ薬が効きだすでしょう」



「ふふ。ちゃんと馬車の用意も出来てるのよね?保健室に行けばいいのでしょう?しっかり私が介抱してあげないとね。ふふふ」



私はそこまで聞くと美術準備室に入り、そこの天井裏に急いで登った。そして、天井裏を足音を立てずに走り出し、保健室を目指した。



ノアが危ない。



何か薬を盛られ、拉致されようとしている。私は三階から一階まで、窓と天井を渡り歩き、保健室の前の天井裏に辿り着いた。


ゆっくりと天井板を外し保健室のドアの下を覗いた。すると、教師ではない男が一人ドアの前に立っていた。


見張りだ。


私は天井板を戻し、保健室の上に移動した。同じように天井板を外し、保健室の中を覗き辺りを確認した。小さな息遣いがベッドから聞こえた。


見張りはいない。


私は天井板を外し紐をかけ、急いで降り紐を引っ張り天井板を戻した。そしてベッドに駆け寄った。



「ノア」



私が声を掛けると、赤い顔で瞳が潤んだノアが私を見た。



「ミランダ・・・。やっぱりミランダだ。どうしてここに?」



「話はあと。とにかく逃げるよ。第三王女がノアに薬を飲ませたみたい。もうすぐ拉致しに来るみたいだよ。ノア、私に掴まれる?窓から外に逃げよう。表のドアは見張りがいたから、一回外に出て別の教室に隠れるよ。門まで行くのは危険だと思う」



ノアは弱弱しく頷くと私に掴まり窓から外に出た。私はシノビ技で小さな紐を使い、外から中に鍵をかけた。


これで外に出たとはすぐには気付かれない。


ノアに掴まって貰いながらすぐに別の窓から校舎の中に入り空き教室に隠れた。



「ノア、大丈夫?緊急の魔鳩をさっき飛ばしたから、じい様はすぐに来てくれる。王女様はもうすぐ王宮に帰られると思う。馬車の話をしてたからね。暫く隠れて薬が抜けるのを待とう。きつい?水を持って来てあげたいけど、私も狙われてるんだ」



ノアはゆっくり息を吐き出しながら私に寄り掛かった。



「ごめんね、気をつけていたんだけど・・・。ミランダ・・・。ミランダはいつもかっこいいね。さっきもミランダが降りて来た時、天使かと思った・・・」



私はハンカチでノアの汗を拭いた。



「天使は天井裏から降りてこないよ。ノア?きつい?熱いね。大丈夫?」



ノアは私の手をゆっくり握ると、頷いた。



「ミランダは僕の天使だよ・・・可愛い、大好き。羽兎の時も怖がって泣いた僕を助けてくれた。小さな体で立ち向かうミランダは僕の憧れだよ。ずっと言いたかったんだ。ねえ、ミランダ。大好き・・・」



潤んだ瞳でノアは私の手に自分のおでこを付ける。熱がすごい。大丈夫かな?汗を拭いていると、女の人のキーキーした声が聞こえて来た。



「どういう事よ!!なんでいないのよ!!」



きっと第三王女だ。ノアが逃げてるのバレたな。でもきっと大丈夫。私は隠密スキルを出し、ノアをぎゅっと抱きしめた。



「大丈夫だよ。私が守るからね」



私がそう言って大きなノアをよしよしと撫でると、ノアもぎゅっと抱きついてきた。



「ミランダ・・・。大好き・・・」



うわ言を繰り返し、私にすりすりしているノアはきつそうだ。



「うん。ノア、私も好きだよ。第三王女がね、ノアの婚約者になるって聞いた時、嫌だなって思ったんだ。だからきっと、嫉妬したんだ。私もノアが好きだよ」



私がそう言うと、ノアは汗で髪が張り付いた顔を上げた。



「本当?」



「あれ、ノア、元気だね。復活した?もう大丈夫な感じ?」



ノアはじっと私の顔を見るが、顔はまだ赤い。



「うん、ちょっとだけ大丈夫。ねえ、ミランダ、本当に僕の事好き?」



「うん、好きだよ」



私が言い終わると、ノアはにっこり笑って私を抱きしめた。



「嬉しい。ミランダ大好き・・・」



ノアはそう言うとまた潤んだ瞳で私をじっと見た。息もまだ荒い。制服が汗で張り付いている。



「ねえ、ノア、ここに寝て。寝た方が楽だよ」



私は自分の制服のジャケットを脱ぐとその上にノアを寝かせた。



「汗が凄いね、ちょっとごめんね」



私はそう言ってノアの制服のジャケットを脱がした。



「どう?少しは楽?」



私が聞くと、ノアが頷いた。



「うん、有難うミランダ・・・」



「こっちも脱いだ方がいいね」



「え・・・。ミランダ・・。恥ずかしい」



「恥ずかしがってる場合じゃないでしょ、ほら、抵抗しないの」



私が頬を赤らめ嫌がるノアのボタンを外し、シャツを脱がしているとバーーン!!!とドアが勢いよく開いた。



「ミランダ!!無事か!!」



やって来たのは騎士団長と、じい様達で、私は嫌がるノアのシャツを脱がしながらじい様に手を振った。



「じい様、よく分かりましたね。流石です。探知ですか?ナイスタイミングです。二人共無事ですよ。でも、ちょっとノアがきつそうです」



ノアにまたがり、えいっとシャツを全部脱がしている私を見て、皆一瞬口があんぐり開いたけど、じい様は頷き、ノアの側に駆け寄った。



「ノア、きついかもしれんがこのまま王宮薬師迄連れて行く。そこで治療をして貰うぞ。証拠になるからな。何を盛られたかはすぐに分かる。もう少しの辛抱だ。よく我慢した。偉いぞ」



じい様達はノアに話し掛け、ノアは赤い顔で頷きながら大きな布でくるまれた。そしてじい様は、よっこらしょと言うと、大きなノアを抱きかかえていた。


ノアは抱えられ、私は騎士団長に護衛され王宮へと一緒にむかった。



「私の隠密もまだまだですね。サブロウ先生に鍛えて貰わないといけません」



私が一人そう言いながら騎士団長について行くと、騎士団長は流石はリンツ様のお孫様です。と、ニコリと微笑まれた。





王宮薬師で治療をされたノアはしっかりと護衛され、王宮に泊まる事になった。薬が完全に抜けるまで絶対安静らしい。


じい様は薬の治療中、「ノアは男だな。よくぞ我慢した。流石だ」と褒めていた。


犯人はやはり第三王女で、ノアに薬を盛り既成事実を作り無理やりノアと婚約まで進めようとしたらしい。私の事も拉致し、中々ひどい事を企んでいたとじい様がこめかみをピクピクさせながら教えてくれた。


第三王女はこの件が全てバレ、もう国外にも出せず王族の地位もはく奪され監視付きで辺境の厳しい修道院に送られる事になった。流石に第二妃もかばえず、王太子殿下もホッとしているらしい。


ノアと私が狙われた事もあって第三王女の個人資産からパーラメント家とリンツ家に慰謝料が払わられた。おかげで我が家の借金は綺麗に無くなった。国王陛下からもお詫びとして、第二妃と国王陛下から両家にお見舞金が届けられた。



そしてお金が入った事を知ったのか、逃亡していた大叔父が我が家にやって来た。じい様のいない時を狙う所が大叔父らしい。



私がボコボコに追いだしてやろうかと思ったら、父がにこやかに絶縁の書類を見せ、母が血濡れのエプロンのまま門の外に叩きだした。


母は借金が無くなった後も、臨時でギルドに雇われている。母が解体すると味や、革の出来上がりが違うと、レストランのシェフや、皮をなめす人が言うらしい。そこで、指名料を取る代わりに臨時でギルドに仕事に行く事が決まった。


母は嬉しそうである。


「貴女のウエディングドレス代は母様が稼いであげるわ」と言ってナイフを優雅に振り回している。



第三王女の件も片付き、私とノアの婚約は速やかに調った。


そして私とノアの婚約は大々的に発表された。第三王女のやらかしもあり、王室がお詫びもかねて王太子殿下が祝福していると発表したがったらしい。王室の人気が下がるのは嫌でしょうね。



婚約発表の事をアイリーンに言うとすごく心配していた。


ノアは人気があるから、私がいじめられないかとか、嫌がらせを受けて辛い目に遭わないかとか言っていたが、そんな事は無かった。



何故なら。



「ミラ、今日も可愛いよ。ほら、こっちのビスケットを食べて?」


「ノア、もうお腹いっぱい。これ以上食べたら、お腹がはちきれる」


「ふふ、ぷくぷくしたミラもきっと可愛いよ?」



私の頬を優しく触りながらビスケットを差し出すノア。


婚約を発表してから、ノアは私の事をミラと呼び、人目を気にせずいつも私の側にいる。ノア曰く、恋人はこういう距離が普通らしい。


私は本当か疑ってアイリーンに一度聞いたが、「人それぞれですが、そういう恋人同士もいますわ。私はミランダが愛されているのを見るのは好きですわ」と言って、ノアが「ほらね」と自慢気に頷いていた。


昼食の時はアイリーンも側にいるが、アイリーンもノアもいつもにこにこしている。



「ミランダが愛されていて良かったですわ。パーラメント様、ミランダの頬はこの下の方も気持ちが良いのですのよ?」


「こんなに可愛いんだもの、愛さない人っているのかな?ポーレット嬢、いつもそんなにミラを触っているの?嫉妬しちゃうな」



ぷくっと頬を膨らませ、ノアはアイリーンを見た。



「ふふ。ミランダの頬は世界一ですわ」


「うん、そのとおりだね。ずっと触っていたいよ」



アイリーンとノアが話しているのをこっそり皆が聞き、私は世界一の頬を持つ女として認知された。



ノアは私の頬を優しく触り、蕩ける笑顔で私を見つめる。



私の手を取ると自分の方に寄せ、私の指にチュッとキスをした。ノアは隙あらばどこでもキスをしようとする。


頭が一番される事が多い。背が高いノアは私の頭にキスするのがしやすいんだと思う。


私はキスされすぎて禿げないかちょっと心配で、やはりアイリーンに相談したら、「聞いた事ありませんわ。大丈夫ですわ」と言われ、またノアが自慢気に「ほらね」と言っていた。



また、第三王女の魔の手からノアを救ったのも私といつの間にか噂が広まっていた。その為、ノアのファンの子達からは勇者の様に扱われた。



一度、ファンの子に、「私がノアの婚約者で嫌じゃないの?」と聞くと、「ノア様の幸せは私達の幸せです。ノア様がミランダ様をお選びになった事が重要なのです。そして、悪の第三王女の魔の手から麗しいノア様を守られた勇者ミランダ様は大変勇ましく皆の憧れですわ。そこらの変な令嬢よりも幼馴染との初恋を実らせ、愛を一途に貫くノア様。流石でございます。ノア様ファンクラブ会長としてお二人の幸せをお祈りしております」と一息に言われた。



なんだかよく分からないが、皆が幸せなら良かった。



そして、今日も。



「ミラ。ほら、僕汗かいちゃった、ねえ汗拭いて?」



コテンと首を傾けて、私の肩に頭を乗せる。



「ノア、自分で拭けるよね?」



私がハンカチを取り出し、額の汗を拭いてあげると、遠くから、あのハンカチ欲しい、と不遜な声が聞こえたが気にしない。



「だって、ミラが汗を拭いたりして僕を助けてくれたんだよ?」


「あの時は、しょうがなかったでしょ。もう、今は自分で拭けるでしょ?」



私はそう言いながらも優しくノアの汗を拭く。



「ミラ。大好き」



私の手をぎゅっと握り、ノアは優しく私を見つめる。



「うん。私もノアが好き」



私が顔を赤くして言うと、ノアはにっこりと微笑み、僕の方が好きだよ。と言ってチュッと私の頬にキスをした。


















この作品を見つけて読んでくれてありがとうございます。m(__)m☆☆☆彡


甘々ヒーローを書きたくて出来た作品です。


もう少し書こうか迷い中です(*´Д`)


宜しければ他の作品も読んでみて下さい。


面白かったと思った方は評価をお願いします☆

(o*。_。)o

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