STEP UP!~幼なじみの場合
どうして今日も言ってくれないの?
あいつのせいにしながら、わたしはわたしで今更しても遅い後悔をする。
いつもどおり、小さい頃から通い慣れたあいつの家まで行ってご両親に「あら今日も早いのねえ、息子の将来も安心だわ」なんて恥ずかしいことを言われながら部屋まで行って、ノック連打でたたき起こして。
で、時間にあわてていきなりわたしの前で着替えを始めるあいつにすねへの足蹴りを決めて、先に降りた玄関で制服の乱れをチェックして。
着替えてきたあいつに「おはよう、今日も寒いな」とか言われて、せっかくきれいなところを見せようと努力しているというのに、何も気づかないような素振りにイライラして。
「何のんきなこと言ってるのよ! さっさと行くよ!」
と、あいつが今まで布団に入っていた分が残っているのか、それともわたしの体温なのか……ほんのりと暖かく感じるあいつの腕をつかんで、玄関からひきずり出す。
だいたいこんな感じで今、二人並んで一緒に通っている高校に向かっている。
端から見たら、どんな恋愛ゲームの幼なじみ同士の織りなす話なんだって話だけど。
ただ、どうもその話の流れをわたしが止めてしまったような気がする。
「ところでさ」
あいつの突然の話の切り出し方に怖さ半分、期待を半分。
「おれさ、今日の英語の課題忘れてたことに今気づいた」
忘れてた。諦めがほとんどを占めてるんだったっけ。
わたしは飲んでいた息を一度にはき出して。
「はいはい、見せてあげるから安心しなさいな」
わたしの言葉に、あいつの緊張した顔が一気に緩んでいく。
そんなころころ変わる表情に……わたしは、ひかれてしまったのかな。
小さい頃から一緒にいすぎて、というのはよく聞く話だったけど、まさか自分がそうなるとは思わなかった。
気づかされたのはあいつのせい。
「お前のこと……その、好きなんだけどさ」
いつもと同じ、いつもと変わらない高校へ向かう道の途中で、いつもと違うことを言われた日。
「できれば、おれと……」
「なーに冗談言っちゃってるのよ、もう、いくら相手がわたしだからってからかわないでよね」
恥ずかしさと、こんなことに慣れていないのと、それと……あいつを相手にして、自分を素直に出すなんてできなくて。
冗談交じりに、あしらってしまっていた。
別に、それからあいつとの距離が遠くなったわけじゃない。縮まったわけでもない。
ただ、変わったことはあった。
このあいつの告白が、わたしの気持ちを確信した瞬間だったこと。
「やっぱり、付き合う気は……」
「そういうこと言うのは本当の相手にしてよね」
「なあ、おれと」
「却下」
せっかく何度もチャンスはあったのに、わたし自身の心の準備がついていない、好きだということを言われて認めてしまうのも何だか悔しい、そんな色々な理由を強引につけては、あいつの言葉をさえぎっていた。
今考えれば、そんなことをなぜしてしまったのか、わざわざする必要があったのか、わからないまま。
いつでも、何回でも言ってくれると油断していたのかもしれなかった。
告白してくれたのも突然、そして。
言われなくなったのも突然。
「めっきり寒くなったよなあ、身も心もあったまりたいって感じだな」
「心も……」
「どうかしたか」
「ううん、なんにも」
冗談めいた告白がなくなって二週間。あいつの一つ一つの言葉が深い意味を持ってるんじゃないかと無駄に勘繰り過ぎてしまうようになってしまった。
もしかしてわたしに愛想を尽かして他の女の子を……
考えるだけで恐ろしかった。ずっと一緒にいたのに、いきなり「カノジョができたし、誤解されないようにあまり会わないようにしてほ」
「お、おい! いきなり何を」
「わたしも、ずっと、すきだったよ……」
最後まで想像しきることはできなかった。今まで誰かを好きになったこともなかったから、想いの伝え方も分からなかったけど。
それでもいつもの玄関から引きずるような感じじゃなくて、少しでも気持ちが伝わるように、わたしがこんな気分になっている時に限って何もしないあいつに恨みの意味も込めて……腕にしがみついてやった。
しばらくあいつはそのまま固まっていたけど、車が横を通り過ぎていくので我に返ったと同時に、わたしの言ったことを理解したようだった。
「ずいぶんと遅い返事なんだな」
「なによ、あんたが最近言わないからじゃないの!」
「おれのせいかよ! 何度も何度も言ってやってるのに適当にあしらってくるから無駄だと思ってやめたんだぞ」
わたしが聞きたかったことが、話を切り出す前に明らかになっていく。その理由はもっともだったけど、このまま引き下がるのも悔しくて、言い返してしまっていた。
「なんでもう一押しがないのよ、バカ!」
「なんて自分勝手な……言っておくが、今でも好きだとは一言も言ってないんだぞコノヤロウ」
「ふんだ、今更そんなこと言えるほどわたしのこと忘れられてるとは思えないけど?」
「冗談はそのくらいにしとけ、とにかく相手がおれだからってからかうのはよせ」
そのわたしが言った覚えのある言葉に気づいてあいつを見ると、わざとらしく顔を反らすのが分かった。
まったく、それであしらっているつもり?
でも仕方ない、今までさんざんあしらってきたもんね。ここは黙って、あしらわれておくことにしようかな。
結局、しばらくはこのままみたいだけど……でも、きっと今のわたしたちはそのくらいでちょうどいいのかもしれない。
それは、あまりにも近すぎる幼なじみという存在から、少しだけステップアップできた日の物語。
幼なじみ設定を好きに書いたらこうなった。オチも何もありゃしねえ。
「ねえ」
「どうした?」
「このわたしたちの物語ってさ、他の更新が止まってるからってつなぎで作られている感じがしない?」
「まさか。そんなはずないだろ」
「でも……あそこで汗流している人がいるように見えるんだけど」
「いや、ありゃせっかくもらったアドバイスが実行できなくて焦っているんじゃないか? というか、おれら幼なじみってことになってるけどさ、あまりその設定活かしきれていないと思うんだがどうよ」
「な、なんか汗が滝のように流れはじめた気が……」
登場人物のフリートーク、なろうに小説を置くずっと前にやっていたのを思い出して久々に。
言っていることがなんとも切ない。