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ハピエンな短編

雪が舞い降る夜、猫又に舞い落ちた幸運。

掲載日:2022/12/25

 



「ううっ、寒いにゃ……」


 猫又のノワールは黒い前足で、これまた黒い顔を擦りながらボヤいた。

 年末の冷え込んだこの日、天高くから粉雪が月光に照らされキラキラと舞い落ちてきていた。


「ママー、ママー…………おなかへったにゃぁ」


 どこからか仔猫の鳴き声が聞こえてくる。か弱く、今にも事切れそうな声。

 猫又のノワールはその声の方向へと歩いていく。

 するりするりと、人混みの間を抜けて。

 二股に分かれた尻尾をふにゃりふにゃりと揺らしながら。


 ノワールはいつからこんなことをしているのかは覚えていない。

 気がついたら尻尾が二股に別れていて、冬の間だけ魔法が使えるようになっていた。

 特に二十三日から二十五日に掛けては、ありえないほどに魔力が上昇する。


「ニャァ…………」

「あぁ、ここにいたのね。大丈夫。私が素敵な家族をプレゼントしてあげる」


 ノワールは真っ白な仔猫の首の後ろを優しく咥えると、ぴょんと空に駆け上がった。

 彼女は『導きの魔法』と呼んでいる、特別な期間だけに使える魔法を発動させた。


 仔猫の額から一本の光の糸が伸びていく。

 光の糸を辿り、着いたのは白い壁の大きな建物。屋根の上には金色の十字が建てられていた。

 中からは賛美歌が聞こえてくる。

 ノワールは扉の隙間からするりと入り込み、赤いコートを着た幼い女の子の足元に白い仔猫をそっと置いた。


「この子が今日から貴女のママになるわ。だから大丈夫」


 女の子の額に繋がった光の糸を確認し、白い仔猫の額にキスを落とした。

 導きの魔法で二人は繋がっている。だから大丈夫だとノワールは知っている。


 白い建物からゆっくりと立ち去るその後ろから、聞こえてくる声。


「ママ、ママ! みて、こねこ!」

「まぁ、大変だわ。弱ってるみたいね? 早く家に帰って温めてあげましょう」

「うん!」


 ――――ほら、ね?




 特別な期間中、ノワールは全力で世界を駆け回る。

 世界中で泣いている猫たちを助けるために。

 二股の尻尾をふにゃりふにゃりと揺らしながら。


「はぁ、疲れたにゃふ…………」


 二十五日の夕方、ノワールは怪我をして暴れるサビ猫を、導きの魔法で繋がった医者に届けた。

 猫たちの声は今は聞こえない。

 

 ――――ちょっとだけ。


 ノワールはそう思って路地裏の片隅で丸まった。

 今日も天高くから粉雪が月光に照らされて、キラキラと舞い落ちてきている。

 ザクザクと雪を踏みしめる音が近づいてくる。だがノワールは疲れ果てていて目を開けない。


「こんなところにいたのか」


 優しい声が路地裏に響く。

 低くて柔らかい人間の男の声に耳をピクリと動かし、ノワールは目蓋をもたげて視線を向けた。


 男の額から伸びる光の糸。

 それがノワールの額と繋がっていた。

 ノワールはゆったりと立ち上がり、左右上下を確認するが、光の糸は、自分を通り過ぎていないことに気付いた。


 ――――導きの魔法?


 それが自分と繋がっている。

 ノワールは言いしれぬ不安を感じ、そろりと後退りをした。


「逃げるな」

「……」


 男がゆっくりと近付いてくる。

 ノワールはその場にしゃがみ、耳はへたりと折れ、二股の尻尾は後ろ足に巻きつけられつつあった。


「そんなに怖がるな。迎えに来ただけだ」


 男がそっと人差し指をノワールの鼻先に伸ばしてきた。

 ノワールはそれをそっと嗅いでみる。


 ――――いい匂い。


「おいで?」


 ふわりと笑う男から漂うなんとも言えない安心する香り。

 ノワールはすくっと立ち上がり、男の足に擦り寄った。


「お前は、とても強大な魔力を持っているね。そのうち人化できるかも、な?」


 ――――人化。


 猫又になって何年が経ったのだろうかと、ノワールは考えた。が、何も覚えてはいない。

 ただ、冬の特別な期間に、困っている猫たちを人間と繋いでいた。


 まさか、自分と繋がる人間がいるとは思っていなかった。

 魔法を使える人間の住む国は知っていたが、まさか導きの魔法を使えるとは知らなかった。

 ましてや、向こうから探しに来るなど。


 猫又のノワールは、人間の男に抱き上げられ、大きな腕の中に閉じ込められた。


「私たちの家に帰ろう?」

「にゃ」


 ――――うん、帰る。


 ノワールは男の手のひらに頭を擦り付けて目を細めた。


 人化出来るかもしれないと男が言った。

 人化をしたら、男は喜ぶだろうか?

 男は、自分のことを大好きになってくれるだろうか?

 自分の唯一になってくれるだろうか?


 猫又のノワールは、いつか人化することを夢見ながら、男の腕に体を預け、目蓋をゆっくりと閉じた。


 ――――必ずなるからね。




 ―― fin ――




閲覧ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不自然さがなく、とてもスムーズに入ってきました。 [気になる点] その後が気になっています。中後編だけでも続きがあったら良いなと思います。 (野暮かな?) [一言] 心暖まるストーリーを…
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