ノド飴
三題噺もどき―ななじゅうよん。
お題:紙・ノド飴・鳥
(なーんかないかな……)
ぼーっと見上げたその先には、小さな鉄格子の窓が一つ。
物心ついた時から、この部屋に1人でいる。
ここに人は来ない。
来るのは、誰かが使わせた使い魔のような者たちだけ。
「……」
私の生まれた一族は、代々、何かしらの能力を持って生まれてくるそうだ。
もちろん、父も母も、兄も妹も。
―私も、持っている。
ただ、その力が強すぎた。
自分でもコントロール出来ないほどに強大なその力を、暴走させてしまった。
能力がはっきりとした、5歳ごろの話。
誕生日を迎えた日。
5歳のその誕生日はとても重要な日なので、一族の全員がお祝いに来てくれる。
その日、一族を半壊させてしまった私は、この部屋に閉じ込められた。
二度と出ることもできないように、扉に封印の呪いを掛けられて。
あの扉に触れることすら叶わない。
(暇だなあ。)
何も起こらない真っ青な空を眺めている。
それが私の日常で、当たり前で、変えようのない未来にも続くこと。
「……?」
窓の外。
何かがこちらへと向かってきた。
(あれは、、)
紙でできた鳥。
たまに、父が寄越してくるのだ。
食べ物などを持ってくる使いとは違う、父の使い。
それは、手紙だったり、本だったり。
時間つぶしには持ってこいだ。
(今日は、なんだろ。)
美しい、桜の模様の鳥が部屋へと飛び込む。
そうか、季節は巡っているようだ。
バン―!!
と壁にぶつかり、ようやく止まる。
(毎度、まいど、激しいな…)
なんとか立て直し、ひょこひょこと、こちらへと寄ってくる。
(あれ、お腹が大きい?)
それゆえコントロールが効きずらかったのだろうか…?
まぁ、衝突が激しいのは今に始まったことではないが。
「……」
桜の鳥は、目の前で止まり、ふわりと、1枚のただの紙に戻る。
(これは…)
その中には、薄っすらと黄色がかった飴がころりと入っていた。
―ノド飴?
独特の匂いがする。
す―と鼻の奥にその匂いが通る。
「……」
こんなもの送ってきて、どうしろと言うのだ。
父は何がしたかったのだろう。
喋ることなんてないし、ましてやそんな相手などいない。
使いだって、話す事のない、生き物とも取れないような者ばかりしか来ない。
話す事なんて、全くない。
話題も、思考も、夢も、ない。
ノドの心配などする必要は無い。
それとも、少しは喋れということなのか。
(今更、言われても……)
長年使われることのなかった私の声は、もう、音を出すことは無い。
(金平糖が、良かったなあ……)