赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(16)
桃瑚売命の矢が、みなもの矢に命中すると、二本の矢は激しく輝き消し飛んだ。
「私と弓で勝負をするの?面白いわね。つき合うわよ」
みなもが宙を動き回り、桃瑚売命めがけ次々と矢を放っていく。桃瑚売命も同じように矢を放つ。無数の鉄の矢を桃色の矢が打ち抜ぬく。その光景はまさに神業。すさまじい数の矢が放たれては消えていった。
(今度は何を考えているの?なぜ、鉄の弓を使う。神の使う弓ではあるが、水の神であれば天水の弓を使えばいいのに。そんな弓では)
打ち始めたときは、みなもの矢は桃瑚売命の間近まで飛び、それが射抜かれ消え去っていた。だが、いまは桃色の矢がみなもに襲いかかり、それを鉄の矢が打ち抜いている。攻守が逆転していた。桃瑚売命の矢を放つ早さがみなもを圧倒していた。
鉄の弓は鍛冶の神が作り上げもの。その威力は人の使う武具とは比べものにならないほど強力である。それゆえ、この弓を使うには神の力が必要であった。みなもの指先から血が飛び散っていく。強力で鋭い弦が指の肉を引き剥がしていく。人の身体の限界。みなもは、傷ついた手を修復しながら矢を放ち続けた。
桃瑚売命がみなもの手の状態に気がついた。
(そういうことね。人の身体では天水の弓は使えない。神霊同体に成らないのなら、鉄の弓が限界か。どっちが手加減をしているのかしら)
桃瑚売命の矢が勢いよくみなもに飛んでくる。その鋭さを矢で受けきれず、ついにみなもは光を放ち水玉にして消し飛ばした。その機を見逃さずに桃瑚売命はみなもの懐に飛び込み強烈な蹴りを放つ。みなもの身体が宙へと突き抜けていった。
(このままでは、水面の神の話を聞く前に殺してしまう。認めてよ。姉を越えたいと。そうでなければこの先には行かせない)
桃瑚売命は自分の思いとは逆にみなもを痛めつけていた。止めたいと思いながらも、みなもが頑として譲らない姉に憧れる思い。それに苛立たしさを感じてならなかった。
吹き飛ばされたみなもに桃瑚売命が追い打ちを掛ける。防御体制が整わず、瞳に映る光景の焦点が定まらないままの、みなもに一気に詰め寄り、光を帯びた拳を突き出す。意識をしながらも勢いを止めることができないまま、みなもに襲い掛かる。
(!?)
みなもに一撃を加えようとする桃瑚売命の全身にとてつもない冷気が走る。その冷気は、浴びた瞬間、身体が凍りついたかと思えるほど強烈であった。
「なによ!」
異様な冷気を感じながら突き出した拳は一枚の薄い白壁により阻まれ、反動の衝撃で桃瑚売命は吹き飛ばされた。吹き飛ばされるなか、その壁の正体を確認した。
(氷!)
それは薄い磨り硝子のような氷の壁であった。その薄い氷の壁に桃瑚売命は吹き飛ばされたのだ。
(なに?いまの氷の壁!私の一撃でも傷一つつかない氷の壁。なんなの?このとてつもない攻撃的な気迫を持つ壁。そうよ。私は知っている。こんな力を持つ柱は他にはいない。だけどここにはいないはず。どこから?……白新地から睨んでいるというの。これほどの攻撃的な力を持つ柱……雪神!)
熱くなっていた桃瑚売命の身体が一気に冷めていく。冷気を受け頭も心も静まっていった。
白新地から向けられる白銀の瞳に対して、桃瑚売命が桃色の瞳で応える。
(一歩ことを間違えば、私を討つというの……それもいいわね。いつかは、戦いたいと思ってた柱。だけど、その前に)
桃瑚売命は拳に光を纏わせると氷の壁を打った。三度目の突きで、ようやく壁は砕け散った。
(遙か離れていようともこれほどの力を発揮するとは。怖い、怖い)
桃瑚売命の桃色の瞳が氷の壁の奥のみなもを捉えた。




