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赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(11)

 火の神の身体から流れ出る血が止まる。ひび割れ、崩れた防具を光が包み込むと、羽衣となり肩から背中へと延び揺らめき立つ。


(これは……まだ、立とうというのか。もう、手足は動くまい。羽衣の力で立つというのか)


 赤瑚売命が立ち上がろうとする火の神の姿に息をのむ。切り刻まれた身体の傷がふさがっていく。


(こいつ、くるか!)


 火の神から閃光が放たれた。赤瑚売命は、その光を太刀で受け止めた。その目に映ったのは、火の神が剣で切りつけている姿。太刀と剣が打ち合う。火の神の剣の切っ先が折れた。


「そのような剣では、私を仕留められぬ。カムナ=ニギを抜けばいいものを」


 赤瑚売命が火の神をはね除ける。火の神は、そのまま後ろに下がると身体に炎を纏い、羽衣をひらめかせ宙に飛び上がった。その足下には火神かしんとりを従えている。


 従神みとものかみ。それは尊く、優れた神にのみ従え共をする神。火の神がいまその従神を出現させ、赤瑚売命に襲いかかる。炎を纏った巨大な鳥。全てを焼き尽くし、そして全てを再生する炎の鳥。その巨大な鳥が紅に燃え上がる炎の翼を広げた。


「従神を出したか。太古神たいこしんの子ならばその力もあろう。だが、それなら」

 

 赤瑚売命は地に太刀を突き立てると、赤珊瑚の柱を出現させた。その柱はたちまち巨大な槍へと姿を変えると、生き物のように宙を舞う。


「舐めるなあ!この守門の神、今までどれだけの大神おおがみを葬ったか」


 巨大な槍をその足に従え、火神の鳥を迎え撃つ。

 

 赤く染まる槍と火神の鳥がぶつかり合う。それと同時に目にも留まらぬ速さで太刀と剣が幾重にも打ち合う。打ち合う中、赤瑚売命は火の神の瞳を見る。紅の光を放ち、強く押す力。その瞳の色に応えるよう赤瑚売命の瞳は赤色に染まる。紅と赤、互いの思いがぶつかり合う。


「これで、終わりだあ!」 

 

 槍と火神の鳥が互いを貫くと再び相まみえ、ぶつかった。眩しく輝く紅の光が夜の世界を照らした。

 

 光が収まったとき、地には赤瑚売命と火の神がいた。跪く火の神の首に太刀が突きつけられている。


「止めをする前に教えてもらおう。なぜ、怒らぬ。なぜ、カムナ=ニギの剣を抜かぬ。さすればもっと楽に戦えたものを。なぜだ」


 赤瑚売命の言葉に火の神は黙って俯いたままであった。俯くなか、紅い瞳からこぼれた銀色の雫が頬を伝い、地面へと落ちる。その雫に赤瑚売命は、これが全てなのだと悟った。


(お前も苦しんでいたということか……)


 この時、ようやく火の神の折れた剣が自分の右腕に深く刺さっていることに気がついた。


(私もいま気づくとはな。最後はこの人の御霊を抱えて、消えるつもりであったか。その覚悟があるのなら、闇をも振り払うか)


 赤瑚売命は太刀を収めた。


常見夜乃女神つねみよのめかみ、もうよい。悪いがその物騒なものはしまってくれぬか」


 赤瑚売命は奥に潜んでいる夜神に声を掛けた。夜神は何食わぬ顔で、後ろ手に忍ばせていた黒銀くろがねに光る中刀を背の鞘にしまい込んだ。


(いざとなれば、私の首を取るつもりであったか。それともう一柱、遠くから睨んでおるわ。恐ろしい柱。三柱が相手では、さすがに戦い難いな)


「日御乃光乃神、一つ言っておく。陽向には、気をつけよ。その者、道を誤ると『人ならざるもの』になろう。いまの覚悟がなければ琴美の御霊を取り戻した先へは行けぬ」


 赤瑚売命の手のひらに真っ白な六華りっか一枚ひとひら舞い降りてきた。六華は手のひらで、静かにスッと溶けていく。それを見てフッと笑い、門の中に姿を消した。


 火の神は赤瑚売命を見送ると、勢いつけて立ち上がった。


「早く壁をどけろ。あいつは。みなもは!」


 火の神の心配する声に夜神は、スッと壁を取り払った。

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