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赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(9)

 赤瑚売命せきこのみことが放った矢は、瞬時に三本に増え、火の神に襲いかかる。

 一本でさえ避けるのは容易ではない。その矢は重く、速く、正確に狙ったものを射抜く。当然だ。門守の神が放つ矢。人の成せる技ではない。神でさえ、その一矢をまともに受ければ御霊を砕かれかねない。それが、三本になって襲う。火の神は剣に炎を纏わせ、一気に振り払う。矢を真っ二つに叩き切った。

 

 火の神の目つきが鋭くなる。見つめた右足に切った矢が刺さっていた。赤瑚売命の目が笑う。


「見くびられたものだ。その程度の払いでは私の矢は振り切れぬ。最初に言ったはずだ。先に進むには覚悟を見せよと。お前からは全く見えぬ」


 赤瑚売命が矢を取り出す。

 

「そうだな。覚悟と言うのであれば、水面みなもの神の方が健気よのう。お前のような腑抜けに代わり、桃瑚売命とこのみことと対峙しているのだからな」


 その言葉が終わると透かさず、矢を放つ。


 火の神は再び矢を払うが、今度は左足を貫かれた。立つことができずに両膝を地につけた。


(なぜ?あいつは)


 火の神は剣を地にたて、必死で立ち上がろうとする。人の身体。痛みを感じ、苦の表情で赤瑚売命を見る。


「痛いか?人の身体はそうであろう。だが、その身体を庇っている間は、私に一撃も与えることなどできぬ。覚悟がなければこの場で果てるだけ」

 

 赤瑚売命は矢を放った。矢は火の神の左肩を貫いた。火の神は叫び声を噛みしめ、肩を押さえ赤瑚売命を見る。熱い血が押さえる手から流れ落ちる。

 

「まだ、私は言っていなかったな。なぜお前と対峙したか」


 力が入らぬ身体でありながら紅い目を光らせ、必死で立ち上がろうとする火の神を赤瑚売命は見下ろす。


「私は幼きときにユウナミの神のもとにつき、慕いそして守り続けた。私にとってユウナミの神は、母であり、姉であり、なにより愛し守るべき存在なのだ。だが、一度だけ守ることができなかった。それが私にとっては消しされない悔いであり、絶対に許すことができないもの。それが何か分かるか」


 赤瑚売命の瞳が珊瑚のように赤の色を帯び、火の神を睨みつける。


「絶対に許せないもの。それは、日御乃光乃神ひみのひかりのかみ、お前だあ!」


 叫びに似た声と共に、赤瑚売命が渾身の力で矢を放った。


 右肩を矢が貫いていく。痛みが火の神を襲う。防具など全く意味をなさないかのように矢は突き抜けた。いや、意味はあった。もし、防具がなければ肩は吹き飛ばされていたであろう。


 もはや手足には力が入らない。剣を握る手には血がまとわりついていた。赤子のように身体は地に伏せていく。


(守るべき存在……母……生まれてきたこと……)


 火の神の意識が、夜の世界の中に溶け込み薄れていった。

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