赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(8)
構えた火の神とみなもの間に白い光が走ると、たちまち壁ができた。世界は二つに分けられた。
(ああ、余計なことを!)
火の神は後ろの影にムッとした顔を向ける。
その隙をついて赤瑚売命が太刀を抜き、一気に迫る。火の神はそれに気づくと、素早く長剣を抜き赤瑚売命の一撃を払いのけた。赤瑚売命に睨みをかけながらも、壁の外の世界に気を張り巡らせていた。みのものことが、気がかりでならない。
目の前にいる赤瑚売命は門守の神。まさに守り戦う為の神だ。その気迫、実力は遙かに自分を凌ぐことは容易に想像がつく。それでも、この場で剣を交えることに恐れも迷いもない。だが、みなもは違う。みなもは戦いを嫌う神なのだ。それは、当然のことだ。生けるものを癒し、命を育むはずの神が他のものを傷つける行いをする。矛盾した行為とはこのこと。己の思いと乖離した行動をとることが、どれほど辛いことか。身を引き裂かれ叫び声をあげるように苦しいことか。
いま己がこうして赤瑚売命の前に立っている間にも、みなもはその赤瑚売命より武に勝る桃瑚売命と戦っている。それを考えると火の神は苦しくなった。今すぐにでも壁をぶち破って、駆けつけたいと思った。
「日御乃光乃神よ。何を考えている。隣の世界のことに気を取られているのなら、次はその首は離れているぞ」
赤瑚売命は、引き下がり間合いをとると、再び太刀の切っ先を火の神の目に向け突きだしてくる。それをかわすため、剣を立ち上げようとした瞬間、太刀の光を見失った。
(まずい!)
火の神はとっさに後ろに飛び退いた。再び間合いがあいた。
「ほう、剣で払わなかったのは流石だ」
太刀の切っ先から赤色の滴が垂れていく。火の神の右手首からもその滴は垂れていた。赤瑚売命は、太刀を振り、滴を切ると切っ先を火の神に向けた。
「退かねばその手首、飛んでいたな。人の身体とは不便よな。傷つければ、その人も死ぬ。覚悟を決めてこなければ、守るものも守れまい」
赤瑚売命の言葉に火の神は滴る血を見ると、傷口を押さえて紅いオーラを放った。血が止まった。
(強い。これが戦う神。真直ぐになど打ち込む訳がない。顔だと思えば腕に、胴だと思えば首に。受け手の動きに合わせ、守りの弱い部分を的確に狙ってくる。下手に受けようとすれば、それこそ命取りか)
「そうだな。もとより、そのつもりでここまで来た。だが、守るべきものが目の届かぬ所へと別れるとは、思いも寄らなかった」
「まだそのような戯れ言を言うか。覚悟が見えぬな。ならば、お前はこの場で消えることになる」
赤瑚売命は太刀から弓に持ち替えた。
「日御乃光乃神。なぜ水面の神がお前と私を引き合わせたか分かるか」
「……⁉」
火の神の気が薄くなる。赤瑚売命は、その顔めがけて矢を放った。




