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泣いているんだね。もういいんだよ(5)

 何も答えぬアワ蜘蛛に死神は大鎌を振りかざした。アワ蜘蛛は身構え、足をぐっと曲げると攻撃態勢をとった。


「待って!死神」


 実菜穂は死神の袴の袖を引っ張った。死神が動きを止めた。


「何のつもりだ」


 感情のない瞳が実菜穂を捉える。


「真奈美さん。早く鳥居に入ってください。今のうちに」


 実菜穂は、真奈美に声を強くして訴えた。実菜穂の必死な声に、真奈美は素直に鳥居の中に足を踏み入れる。それを確認すると死神とアワ蜘蛛に視線を移した。


「これでもう戦う理由はなくなりました。真奈美さんは鳥居の中です。何者も手出しはできません。蜘蛛の目的もなくなりました。攻撃はしないはずです」 


 実菜穂は、アワ蜘蛛の瞳の色に敵意がないことを感じていた。


「なぜそう思う」

「なぜ?分かりません」

「えっ?」

 

 死神は、感情がない瞳に微かな好奇の色を浮かべて実菜穂を見た。

 実菜穂自身、確かに「なぜ?」と聞かれても分からない。分からないけどそう感じてならなかった。アワ蜘蛛の瞳、それが全てを語っているのだと。ただそう感じるだけであった。根拠などない。あるとすれば、自分が感じたことが全てであって、そう感じたことが答えなのだと心に整理がついた。


「死神は、蜘蛛が何かの命令で動いていることを知っている。だとすれば、蜘蛛はもう戦う理由をなくしました。蜘蛛自身も戦う気はなかったと思います」

「だから、なぜそう思う」

「私も鈍かったです。少し考えれば、分かります。蜘蛛が本気で襲うのなら最初からあの針を飛ばしていたはずです。なのに糸でたぐり寄せたり、絡めたりと手間のかかることをなぜしたの?まるで誰かが、そう、死神が助けにくるのを待つように。たぶん、こうなることは蜘蛛自身、分かっていた。いや、望んでいた」


 実菜穂は、アワ蜘蛛の瞳をのぞき込んだ。瞳は黒く光っている。それが涙であることが実菜穂には分かった。


「泣いているんだね。もういいんだよ。あなたの主のもとに帰るといいよ」


 実菜穂は優しく笑った。みなもを初めて見つけた時のように、手を差し伸べるような優しさを纏い笑っていた。


「死神、ありがとうございます。これで、三回も助けられました」

「何のことだ」


 死神は再び感情のない目で実菜穂を見た。


「琴美ちゃんは必ず連れ戻します。たとえそれが、何者かの手段だとしても」

「人の御霊を取り戻すのが手段だと?」

「はい。それでも私は行きます。それが、みなもの願い。私の強い思いですから」

「その先に待つものが何かも分からずにか」

「分からずでもです」

「どうしてそう言い切る」

「死神は人を助ける神だからです」


 その言葉に死神の表情がほんのわずか緩んだ。


「どこまで……おせっかい……かみ」


 実菜穂の瞳が薄く青色に輝く。その瞳の色を死神は紫色の瞳で受け取ると、なにやら呟きながらスッと姿を消した。アワ蜘蛛の姿もいつの間にか消えていた。




「おーい。お待たせ。どうしたの実菜穂ちゃん、そんなに泥だらけで」


 陽向が声をかけた。

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