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神と人の御霊(4)

 実菜穂は雪神から話を聞きたいことが山ほどあると目を輝かせた。


「はい。ユウナミの神に会うまではまだ少し時があります。わたくしも皆様と話がしたくて会えることを心待ちにしておりました。しばし、共に時を分かち合いたいです。とはいえ、皆様の顔はなにやら謎だらけの暗闇を歩いているような感じ。少し、明るく照らさなければなりませんね。私で分かることなら何なりと」


 雪神はそう言うと、実菜穂たちに笑いかけた。実菜穂たちは雪神のその表情に緊張して張りつめていた糸が緩むように感じた。


「雪神様!」


 三人は一斉に手を挙げ、雪神に詰め寄った。まるで学習塾で講師に質問する受験生のようだ。

 雪神は一瞬、目を丸くして三人を見ると吹き出すように笑った。実菜穂はその笑顔がどうしても可愛いいクラスメイトにしか見えなかった。


「あー、なんだか楽しくなってきました。イワコの神、コノハの神、もう良いですか?私、我慢できなくて」


 雪神の言葉にイワコとコトハは、『しょうがないなあ』という顔をして頷いた。雪神は実菜穂たちに恥じらいながらも笑いかけると立ち上がった。


「前を失礼します」

 

 雪神は右腕をサッと天にかざし、ゆっくり一礼しながら下ろしていく。白い光が雪神を包むと一瞬でノースリーブの白いワンピース姿になった。その姿は、どう表現すればいいのか不思議でピンとくる言葉がすぐには浮かばなかった。

 品格にかけた動作でも姿でもなく、流れるような一連の動作により一瞬で変わった姿は、さっきまでの厳粛で可憐な雪の神というイメージから爽やかな麗しい姫に変わった。


「ごめんなさい。初めて皆様にお目にかかるから、神謀りに参上する姿でいましたけど、あれ、けっこう腰が締まって笑うときついんです。水面の神だと見事に着こなしますが、私は苦手で」


 雪神は軽くなった服装に安堵して席についた。今度は実菜穂たちが目を丸くした。何から何までイリュージョンの光景を見てきたが、さっきまでの雪神とは全く違う姿。これが一番の驚きだった。自分たちと同じ普通の女の子のような言動だけれど、どこか人とは違う雰囲気を纏った女の子。実菜穂たちはその不思議な魅力に引き込まれていった。


「雪神様!」


 実菜穂がたまらず声をかけた。


「あっ、実菜穂様。ちょっとお願いが」


 雪神は軽く手を挙げた。


「その『雪神』って呼ぶのは、やめましょう。神同士ではそのように呼び合ったりもしますが、私は実菜穂様ともっと深く交わりたいです。私にも名があります。紗雪さゆきといいます」

「紗雪の神でしょうか」


 実菜穂が口にすると紗雪は首を横に振った。


「水面の神のことを皆様は『みなも』と呼んでいるでしょう。だから、私のことも紗雪と呼んでください。その代わり、私は実菜穂、陽向、真奈美と呼びますから」


 紗雪は一人一人の顔を見つめながら名前を呼んだ。

 紗雪の声の響きやその表情全てが心地良よく感じ、自分の名前を呼ばれるだけで不思議と心が満たされていくのである。やはり紗雪は人ならざるものであることは実感できた。


「紗雪、教えてほしいことがあります。死神のことなんですが、この地に死神は訪れるのですか?」


 真奈美が先手を取って紗雪に聞いた。紗雪は、静かに頷くと苺ジュースを一口飲んだ。


「死神については、この後のこともありますから少しお話ししておいた方が良いでしょう。佐保里姫さおりひめも言っていましたが、死神は真奈美が思い描いている死神とは少し違います。死神は、この地上の世界では必要な神なのです。とくに人にとっては」


 紗雪は、三人を見つめ死神について次のように語った。

 

 人が死を迎えたとき、御霊は身体から自ら離れることはない。殆どの人は、自分が死を迎えたことを自覚しておらず、また生への未練を断ち切れないからだ。まれに自ら離れることがあるが、それは自分の死を認識した者だけ。それゆえ、御霊は身体に繋がったままちゅうにとどまっている。このままの状態では、いずれ御霊はほうろう神、邪鬼など人の御霊を食い物にする者の餌となる。そうなれば、その御霊は放浪神に取り込まれたり、邪鬼になって人に仇をなすようになる。それを防ぎ、人の御霊がユウナミの神のもとにたどり着けるよう、身体から切り離すのが死神の一番の役目となる。言い換えれば、御霊を刈り取ることが許された神は死神だけなのだ。死神は、アサナミの神、ユウナミの神と御霊で通じることができる唯一の神である。死神がこの地に訪れたのは、大鎌の手入れに天目一箇命まめのまひつのみこと、つまり鍛冶の神を訪問したのだという。

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