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絶望をしたときに期待されているもの(1)

 終業式前日の午後、実菜穂と陽向はみなもの祠の前にいた。みなもは、昨夜のことを二人に話した。


「琴美は御霊を刈られておる。このままでは意識は絶対に戻ることはない。しかも、御霊は既にユウナミの神のもとにある」


 実菜穂と陽向がその言葉に思わず火の神の方を見ると、火の神は二人を見て頷いた。


「じゃあ、琴美ちゃんはもう意識は戻らないの?いや、……」


 実菜穂は言い掛けて、みなもの表情をうかがった。みなもは、実菜穂の態度に目を細めて見ている。


「ホー、お主もあほうではないのう」

「みなもから何度も言われてるから。話の途中だった。先を教えて、みなも」


 みなもは実菜穂に微笑んだ。


「手段はある。ユウナミの神はまだ門を閉じてはおらぬ。ならば、ユウナミの神のもとに行き、琴美の御霊を返すようにお願いをすることも可能じゃ。琴美の御霊は綺麗に刈られておる。それ故、御霊が身体に戻ることもできる。御霊さえ戻れば以前と同じように琴美は笑顔を真奈美に見せるじゃろう。御霊を取り返すことができればじゃがな……」


 みなもは、そう言うと憂いを含んだ瞳を二人に向けた。


「なにか問題があるのね」


 陽向はみんなもの表情からその意味を理解した。


「ユウナミの神は人の御霊を取り戻すのに、神が願い出ることを許してはいない」


 みなもが鴇色ときいろの紐が巻き付いた右手を見せると、火の神も同じように右手を出した。実菜穂と陽向が鴇色に輝く紐を息を飲んで見つめる。


「これはな、ユウナミの神の意志じゃ。儂らは、見張られておる。直接関わるなと警告をしておるのじゃ。もし儂らがこれを無視すれば、ユウナミの神は有無をいわせず門を閉じるであろう。そうなれば琴美の御霊は二度とこの世界に戻れぬ。ユウナミの神は本気じゃ。なぜか?」


 みなもは、目を閉じるとしばし間を取って、青い瞳を輝かせた。


「儂は、この紐が腕に絡む間際に琴美の心を見た。のう、実菜穂、琴美は儂や実菜穂と同じなんじゃ」

「私やみなもと同じ……」


 実菜穂はみなもの言わんとすることを理解して、思わず唇をキュッと噛み体に痛みを植え付けた。みなもは、言葉を続けた。


「真奈美は、琴美のことを憎らしいと思ったようじゃな。琴美が自分を追い抜いていくことが苦しかったのじゃろう。じゃが、琴美は真奈美のことを尊敬しておった。ずっと追い続けておったのじゃ。姉を越えたなどとは、露ほどにも思っておらなんだ。実菜穂、お主も申しておったろう。真奈美から教わるのは、楽しいことだと。琴美も同じじゃ。それ故、真奈美の一語一句、一挙手一投足、全てを漏らすまいと懸命に学んだのじゃ。けして楽などしておらなんだ。大好きな姉から教わるからこそ、懸命にした結果なのじゃ。儂にも憧れておる姉さがおる。琴美の気持ちがよう分かる」


 みなもの言葉に、二人は真奈美が琴美を大切に思っていることを思い出していた。


 真奈美がひたすら祈っていたみなもの祠に、キラキラとした夏の木漏れ日がさしていた。


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