門を守る神(1)
晴れて清々しい天気。抜けるような空をみなもは見上げていた。シーンと静まる校舎の屋上で、セーラー服を身に着けて宙に浮いたまま寝そべっている。膝より上にあるスカートの裾が風でひらめいていた。その横には日御乃光乃神が詰襟の制服を身に着け立っている。二柱が身に着けているのは城東門校の制服だ。
「こうしておると、この世界も悪うはなかろう。お主のその格好、似合っておるの」
みなもは、含み笑いをして火の神を見た。そう言われて、火の神は自分が身に着けている制服を改めて眺めていた。グレー掛かった色合いの詰め襟である。女子の明るい色合いとは正反対で良く言えば落ち着いた雰囲気であり、進学校というイメージに合っていた。ボタン式なところが少し古風な感じである。それが逆に火の神には似合っていた。
実菜穂たちが学校に通い始めて、しばらくはみなもだけが一緒について行ったが、ここ最近は火の神もみなもに誘われて顔を出すようになった。今までの火の神では絶対に考えられない事であったが、みなもに誘われてからは、自分でも楽しんでいることに気がついた。これまで見たことが無い世界を見るということもそうであるが、みなもと過ごす二柱だけの時間が何よりも大切に感じていた。
「お前のその格好もようやく見慣れたぞ」
火の神はそう言いながら、目のやり場に困る様子で校庭の方に顔を向けていた。
「陽向も実菜穂も同じ格好であろう」
みなもは、そう言いながら火の神の横に立ち同じように校庭を眺めた。火の神は、みなもの横顔に目をやった。薄く水色に染まった髪が腰まで伸びており、髪飾りは白地にピンクが掛かったアヤメがいくつも華を咲かせ、その香りが辺りを優しく包んだ。
「今度の神謀りには、まさかその格好で参上するつもりではあるまいな」
火の神が心配した顔でみなもを見た。
「おお、その考えはなかったのう。おもしろそうじゃの」
みなもは、目を輝かせた。
「いや、冗談だろ?やめろ。そのような格好、楽神でも真似できぬぞ」
火の神が真顔で止めに入ると、みなもは、ケラケラ笑っていた。
「心配いたすな。冗談じゃ。母さにも姉さにも怒られるわ」
「心配するわ。お前なら本当にやりそうで怖いぞ」
火の神がそう言うのと同時に、午前の授業終了を告げるチャイムが鳴った。
「火の神!昼じゃ、昼じゃあ。実菜穂の所に行こうぞ」
みなもは、嬉しそうに飛び上がって青い光りとなって消えた。それを見て火の神は、少し残念そうな目をして後を追って赤い光りとなって消えた。