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陽向とトキとミチル(10)

 夕暮れに近い日の光が社を照らしていく。


 ユウナミはその場を動くことなく鳥居の外を見つめ続けている。その顔には何の憂いの色もなく、ただありのままを見つめようとする瞳が輝いていた。ユウナミから放たれる光が、紛れもなく迷うものを導く力となっていることをミチルは感じていた。その光は社を満たしていき、不安を抱き嘆く人の心に明かりを灯していく。陽向のお父さんの顔からも自分を責め、苦しんでいる色が消えていく。社の人達に落ち着く空気が戻ってきた。それは、希望から確信の気持ちになった色である。宮司がいち早くこの場の空気を感じ取っていく。


(呼び合っているのか)


「帰ってくる。そこにいる」


 境内に吹き渡る風から声を聞いた宮司は、鳥居を指さした。




『ユウナミ様は見ています。あの童子をずっと見ているのです』

『本当なのか』

『はい。あの童子とユウナミ様はいま繋がっています』

『????!ミチル。お前の言っていることが俺には理解できない。それはつまりどういうことだ?』

 

 トキはミチルの言葉が理解できぬまま、ユウナミの姿を見た。鴇色に染まる鳥居を見つめるユウナミの顔は、優しいながらも奥深いところに鋭い光を滲ませていた。そのユウナミの顔を見てようやくミチルの言葉が理解できた。同時に、身が固まり、いくつも言葉を吐き出そうとするがどれも発する前に消ていった。言葉を口に出すことをトキの本能が拒否をしていた。言霊により事が大事になることを恐れているのだ。

 

『いつからだ』

 

 やっと出すことができた言葉であった。


『童子が鳥居を出ていくときです。そのとき童子にユウナミ様は紐を巻き付けられたようです』

『なぜ、紐を』

『ユウナミ様は、私たちより前に童子には気がついていたようです。気づいてはいたものの、そっとしておこうと考えていたのでしょう。ですが』

『何だ?』


 トキの尾の炎が紅く燃え上がる。ミチルは思い詰めた表情で鳥居の方を向き、その先を見渡して答えた。


『私たちが御霊を逃してしまいました。それは仕方のないことです。ですが、あの童子は御霊を連れ戻すことを約束しました。それだけではありません。トキ、あなたも言っていました。私たちは、縋ったのです。ユウナミ様に仕える私たちが。それは、あの童子の力のなせるもの。ユウナミ様はその力を見たのです』

『その力というのは』


 トキも同じように鳥居の方に向かいジッと先を見つめる。


 見つめた先に小さな影が見えてきた。遠くから人が叫んでいる。陽向が帰ってきたと呼ぶ声だ。小さな陽向が駆け込んで来くる。まっすぐに、まっすぐに。陽向はトキとミチルの前に来ると、優しく両手に包んだものを差し出す。衣装も顔もそして、その両手も泥だらけになっていた。


 トキとミチルは、差し出された手を見つめている。社の人たちも駆け寄ってきている。見ることができるはずないない、光景を陽向を通してみんなそこにあるかのごとく見つめていた。誰もが見入っていた。


「みたま、もどったよ。ビックリしたんだって。それで、とびだしたの。だから、つれてかえったよ。これで、しかられない?」


 陽向はニッコリと笑って御霊を差し出した。御霊はミチルが導かなくとも、自らユウナミの元へと向かっていった。


『そうか。ミチル。いま分かった。この童子の御霊の鼓動と光は』


 トキは言葉を止めた。ミチルは頷いたまま陽向を見ていた。


 周りにいた人も鴇色の日に染まる陽向の姿に、見えるはずのないユウナミの姿をその目に映し出していた。

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