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陽向とトキとミチル(8)

 高く昇った日は、落ちかけている。冬を越え日が長くなってきたとはいえ、夕暮れ色に染まる手前まで来るのは早かった。この頃には、社内が少々騒がしくなっていた。陽向の姿が見えなくなったのがその原因である。


 ユウナミの神の境内は広く、勤めの者が手分けをして探し回っている。本殿裏にある森は念入りに捜索されたが、何一つ手がかりはなかった。陽向のお父さんも大声で名を呼ぶが、返事は返ってこない。その様子をトキとミチルは、気まずい顔をして眺めていた。


『トキ、私たちは大きな過ちを犯してしまったのかもしれません。素直にユウナミ様に叱りを受け、御霊の無事を待っているべきでした。もし、あの童子に大事があれば、私たちにとって拭えぬ罪と悔いになります』

『それは分かる。ミチル、俺はなぜ、あのとき童子にすがったのか、それをずっと考えている。人に縋ることなど俺たちにあるはずがない。なのになぜだ。なぜあの童子に全てを委ねたのだ』

『あの瞳でしょう』


 ミチルが日が沈みゆく空を見上げ、答えた。


『あの明るく紅い光を放つ瞳を見たとき、どこかで同じものを見たように思いました。それが、私たちに深く関わっているものだから。よく知るものだから、その瞳に縋ってしまったのです』

『それは何だ』


 トキが慌ただしく走り回っている人をチラリる。人が集まり、社の中は不安な空気で満たされていた。警察に捜索願を出すことを相談している。陽向の父も懸命に探し回り、疲れを見せる暇などなく情報を集めている。ただ、その目にはうっすらと汗ではなく涙を滲ませていた。後悔という罪を負った目である。ミチルは、父親の姿に深く責めを負い、憂いのまなざしで陽向の駆け出していった先を見つめる。その空気に子供の狛犬は、慰めようと震えて寄り添っている。


 この騒々しく不安な空気をユウナミが感じないなどあるわけがなかった。眠りから覚めるようにゆっくりと瞳を開け、鴇色の光を放つ。


 トキとミチルは本殿から向けられるユウナミの視線に、すべてを見通されていることを悟った。


『そう、トキ。私たちはあの瞳を見たのです』


 ミチルはユウナミの瞳から放たれる光に、陽向の瞳の輝きを重ねていた。

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