赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(19)
桃瑚売命を守る珊瑚の柱。それはまさに防波堤であった。
そう、桃瑚売命が目にしたのは、みなもの後方から一気に押し寄せる大波であった。ただの大波ではない。この世界さえ崩壊させるのではないかというほど高く、勢いのある大波。黒い世界の空気を切り裂き、地響きと共に波が押し寄せてきている。
その大波が桃色珊瑚の防波堤を飲み込む。
バキバキ!!!!!!!!
大波を押さえる防波堤は凄まじい音をたてながら、桃瑚売命を守っていた。
「なによ!水波野菜乃女神はこの力を持っていないはず。そうよ、私はこの力を持つ柱を知っている。これほどの大波の技を持つ柱。そうか、従神である龍神があれほど巨大な理由が分かった。あの龍神は、大海の太古神、真波姫の従神!」
大波を防ぎ、きしむ珊瑚を見ながらある出来事が思い浮かぶ。
(そうよ。いま大海にいる真波姫は、本当の真波姫ではない。真波姫からその役目を受け継いだ柱だ。太古神である真波姫は、地上に見切りをつけ天津が原へと引き上げた。きっかけは、人の愚かな行為だった。真波姫は本来、平和を愛し、大海の災から人を守リ続けた。その姿は大海に咲く華と呼ばれるほど可愛く、心優しい恥ずかしがりの人魚の神だ。あるとき、人は偶然にも真波姫を捕らえた。捕らわれた真波姫は、自分を大海に戻すようにお願いをした。だが、人魚の不老不死の噂に惑わされた人は、真波姫を崇めるどころか、こともあろうにその肉を食べようとした。その愚行により辱めを受け、身体も御霊も傷つき人に失望した真波姫は荒ぶる神となった。荒ぶる真波姫は、大海を荒波で封じると人を遠ざけた。さらに大波で田畑、家まで押し流し、島、大陸の村々の人を消滅寸前にまで追いつめていった。人は真波姫の怒りに恐れおののき、許しを請い、大海に人身御供を差し出す始末。だが、その行為は真波姫のさらなる怒りを買う結果となり、大波は容赦なく村を押し流していった。人は、絶望に光を失い、泣き、怯え、天に祈った。その祈りが通じたのか、荒ぶる神の真波姫を鎮めた柱がいた……)
ギギギッー!
防波堤となっている珊瑚にヒビが入る。轟音と地響きが続くなか、珊瑚は大波を防ぎ続ける。桃瑚売命が珊瑚に手を触れると、ヒビが修復された。
「もう少し耐えてね」
桃瑚売命はスッと息を吸うと、ゆっくりと攻撃態勢をとる。
(そうよ。真波姫の怒りを鎮めた柱がいたことは、知っている。でも、それがどの柱なのか知られることはなかった。確かなのは、ユウナミの神ではないこと。なら、他にそれほどの力がある柱は、アサナミの神かアマテの神だと思っていた。どのような理由で真波姫が怒りを鎮めたのかは、分からない。けど、そうなのよ。真波姫は、天津が原に引き上げるときに、自分の力をその柱に分け与えたという。ならば、その柱というのは……間違いないわ!)
バーン!バキーッ!
珊瑚がついに砕け散り、桃色の破片が大波に飲まれていった。
「その柱こそ……こい!水面の神」
桃瑚売命が大波を迎え撃つべく、オーラを纏った。




