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プロローグ  小さき闇

 雨が降る。傘も持たずに女の子がみなもの祠の前に立っていた。淡いオレンジのセーラーに、肩まで伸びている髪が濡れて滴がしたたり落ちている。雨の滴なのか、涙なのか、女の子の頬にも滴が流れ落ちていた。

 みなもが女の子の前に立っている。白い着物に瑠璃色の帯、髪飾りは紫の紫陽花あじさいが女の子を見つめるように咲いていた。女の子には、みなもは見えてはいなかったが、必死に心に願うことを伝えていた。それを見つめながら、みなもは呟く。


「闇じゃのう」


 雨が辺りの雑音をかき消していった。

 



  1年前…………

 

 夕暮れの人気のない踏切に少女は立っている。黒のセーラーに白いスカーフが風になびく。遮断機は鳴り、虚ろな目で側に立つ。遠くから電車が警笛を鳴らし近づいてくる。一歩、そして一歩、おぼつかない足取りで線路に近づく。電車はけたたましく警笛を鳴らす。あと半歩、身を乗り出せば確実に電車と衝突する。少女は、ゆっくりと足を進めようとする。電車は警笛を鳴らし続けて迫る。


 不意に少女は何かに惹かれるように後ろを振り向いた。電車は風を切る轟音と共に警笛を鳴らし通過した。遮断機の警告音も鳴り止み、バーが上がる。辺りは、静けさを取り戻した。


 少女は後ろを振り向いたまま、その場にへたり込んだ。目の前には自分と同じくらいの年頃の女の子が立っている。上は薄い紫で下は白の袴姿はかますがた。白い部分は少し朱がかかった感じがしていた。胸の辺りは甲冑のようなものが付けられており、髪は背の中程まで伸びて一つに束ねられていた。さらに手には薙刀のような大鎌を持っている。刃幅は日本刀の太刀のように細く、その刃は鋭く輝いていた。笑みのない顔からは薄い紫色の瞳が光りを放った。


「おかしいな。あなた、さっき本当は死んでいるはずなのに。生きている」


 女の子は少女を見下ろしていた。少女は震えながら声を上げることができずに、目の前の異様な出で立ちの女の子を見ていた。


「あなた、私が見えてるよね。声も聞こえているでしょ。生きているのに……」


 女の子はそう言いながら、少女の瞳をのぞき込んだ。少女の黒い瞳は紫色に光る瞳を吸い込むようにして女の子の姿を捉えている。


(そうか……)


 女の子の口元が微かにゆるんだ。


「あなた、この世界に居場所がなくて死ぬつもりだったでしょ。けど、なぜか私に見られていることに気がついた。そして死にそびれた。あなたも察しはついてるでしょ。私は死神しがみだ」


 少女は答えることも出来ないまま震え続けていたが、口の中で必死で言葉にならないものを呟いていた。


「た……すけ……て……おねえ……ちゃん……」


 死神はそんな少女の姿を見て、軽く溜息をついた。


「参ったな。この期に及んで助けを求めるのが私ではなく、居場所がないくせによ

りによってそこなの?」


 死神はゆっくりと両手を少女の頬にあてると、震えて怯えているのをなだめるように言った。


「いいこと、あなたはこの世界にもう居場所はない。だから死のうとしたの。だけど、私はあなたに居場所を与えることが出来る。もし、この世界であなたの居場所を作ってあげることが出来れば、私の望みに応えてくれる?」


 死神の瞳は濃く紫に光り少女を見つめた。少女は導かれるようにゆっくりとうなずいた。


「いい子ね。あなたの名前は」


 そう言うと、死神は少女の頭を細く柔らかい指先で優しく撫でた。


琴美ことみ……」


 琴美はそう一言だけ、震える声で答えた。


「琴美。少し時間が掛かるけど、私がこの世界であなたの居場所を見つけてあげる。そして、この世界に琴美が帰ることが出来れば私の望みに応えてもらう」


 死神はそう言いながら抱き寄せると、琴美は死神の腕の中でうなずいた。それを見て死神は琴美の耳元でささやく。


「私の望みは……」


 死神は、琴美を優しく緊張を解きほぐすように抱きしめたあと、ゆっくりと立ち上がった。そして、手にした大鎌を琴美めがけて素早く振り下ろした。


 琴美が地べたに倒れるのを夕日が映し出した。通りがかりの人が倒れている琴美を見つける。救急車のサイレンが辺りに響く。


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