目が覚めたら魔王と同居することになりました
じわりと腹から温かい液体が流れて行く
腹に埋まった赤く染まる鋭い爪から腕に滴り落ちる
霞む視界の中で最後の抵抗に相手を睨む
「なんでお前がそんな……」
──YOU LOSE
──勇者、君は必ず世界の真実を知るべきだ
──起きろ
目を開けると真っ暗な空間にいた。寝転がっている仰向きの状態で背中はふわふわと感触のいいクッションに受け止められており、ベッドようなものだと理解できた。手探りに上に手を当ててみると硬く冷たい。試しに押してみると簡単にガコン、と動き、開いた隙間からの光が眩しくて思わず手を離してしまった。
「おい、起きたか勇者」
声をかけられ、再び入り込んできた光の先には
倒すべき魔王がいた
「はあああああ!?待てなんで魔王がいるんだ!?もしかして俺の寝込みを襲おうとしたのか卑怯な奴め!!!」
思わず飛び上がり、魔王から距離をとって臨戦態勢に入る
目の前の魔王は魔界を支配する女王として君臨し、何度も人間界と争い、勝利している。姿はドラゴンと人が混ざった亜人だ。頭に大きな角を携えて、腕には人間の肌に鉄の剣を通さないドラゴンの鱗が張り付き、爪は鋭く尖っている。腰からは重量感のあるドラゴンの尾が伸び、尻尾の先が時折床を叩いていた。
「うっさ、なんだよ元気じゃんか」
「やるかオラ!?」
自分が猫だったら全身の毛が逆立って尻尾が膨らんでいただろう
「やらねえよバカ。せっかく回復してやったのにありがとうの言葉もねえのかよ」
「はあ?」
回復しただと?何を言っているんだ、訝しげに魔王の方を見ると視界に入ったのは黒い棺桶。
自分が寝ていたであろうふかふかクッション付きの棺桶は「眠りの専門家ユメバク監修の最高快眠、一眠りで全回復!低反発棺桶」というキャッチコピーでおなじみの回復アイテムの一つだ。
初めて入ったけど確かに気持ちよかった。魔界でも使用されてるんだなぁ
「って違う!なんで俺を回復させてまで生かせたんだ、奴隷としてこき使うためか!?」
「そうじゃない」
「見せしめに公開処刑の為か!?」
「違う!!!話を聞け勇者!!!」
ガハッ、と息が詰まったのは一瞬で距離を詰めた魔王に壁に押さえつけられたからだった。首を片手で押さえられ、食い込む爪が痛い。
「いいか、お前は私を倒すにはレベルも戦いの技術も足りない。そんなお前を相手にしてもつまらない。だからこの城で鍛えろ。ちゃんと衣食住も提供してやる」
「何を言って」
「そしてこれから半年間、共に生活する中で必ず私を殺せ。さもなくばお前を殺したあと、人間界を滅ぼす。どうだ?俄然楽しくなってきただろう?」
「やってやろうじゃねえか、魔王様よぉ!」
それから魔王と勇者の殺伐とした同居生活が始まった─────