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地球疑  作者: 新垣新太
9/11

第5章~夜の鳥・前編~

薄い桃色に色付いた桜が満開を迎えた4月。風に流された桜の花びらが学校の広場へ落ちて行く。今年は例年に比べて気温が上がらず、外に出れば吹く風が身体の体温を容赦なく奪う程の寒さだった。それもあってなのか、空に舞うのは桜だけではなく。小さな雪がふわふわと、風と共にやって来た。


日和 さぶっ!!、え。雪降ってんじゃん!

権太 着る服間違えた~!

美代子 バカなの!?、何で半ズボンなのよ!見てるこっちが寒いわよ!


日和達は、寮から外に出て冬組の速水先生の授業を受ける為、西棟1階の教室を目指していた。

・・・

日和達が受ける授業の教室には、1人1ずつの机と椅子が用意され、机の上には小さな水槽に水が張られて用意されていた。


ガラガラ。

黒い着物を着た速水先生が教室の扉を開けた。


速水先生 よーし。授業始めるぞー。で、夏組の君達は初めましてかな?、俺は速水。上天(じょうてん)を創る冬組の担任だ。そして、教室の後ろに立ってるのが白取リーダー。何か困ったら彼に頼ると良い。、それでは、今日の授業だが。君達の机の上に用意した水で満たされた水槽を使う。これで何をするか。まず先に先生が手本を見せよう。


速水先生は教壇に用意してある水の入った大きな水槽の上に右手を開いて乗せた。


奈々 え?先生の手の所から黒いのが出てる。

美代子 水槽の上から段々黒くなってるわ。

日和 黒い液体がどんどん広がってく。


速水先生 冬組は闇を創り出すメンバーだ。恐れる事はない。闇があるから夜空には星は輝き、夜になれば活動を始める動物もいる。我々人間も、基本的には夜になればベッドに入って眠るだろう。光と闇は表裏一体だ。それが生物達のリズムを作り、空や地球、大きく言えば宇宙のリズムも作っている。空の学校なら夏と冬の関係が近い。これから君達には、目の前にある水槽に闇を創ってもらう。水槽の上に手を置き、自分の中にある黒い物体や景色を想像するとやり易いだろう。では始めだ。


そう言って、速水先生は水槽の上から手を離す。大きな水槽は、光が通らない程に黒く染まっていた。


権太 黒い物か~。何だろうな~。

美代子 あんたはあんこでしょ!どら焼きばっか食べてるんだから!

権太 そうか!ナイスアイデア!

日和 私は何だろ。黒、黒、黒。


クラス全員が手を水槽の上に乗せながら頭の中で黒い物を想像していた。天井を見つめる者。目を瞑る者。じっと水槽の水を凝視する者。試行錯誤する時間は続いたが、長くは続かず。誰一人として水槽を黒く染める者は現れなかった。


速水先生 まあ、最初っから上手くいかれては授業にならんからな。今日から君達は、学校生活の中で黒い物や闇に見える現象を意識して観察する事。まずはそこからだ。今日は以上。お疲れさん!

生徒全員 ありがとうございました!

・・・

授業を終え夏のお城の食堂でお昼ご飯を食べながら日和達は速水先生の話になった。


権太 そう言えば、速水先生腰に刀差してたよな。格好いいよな~!

日和 でも何で刀なんか。着物も着てるしね。

美代子 何かわかんないけど、ちょっとダンディーよね。髭も生えてて侍っぽいわ。

権太 あの刀にきっと特別な力があるんだよ!、夜の芸術祭にもいたじゃん刀使ってた冬組の人!

日和 まあたしかにね。でも難しい授業だな~。私手こずりそう。


速水先生の授業は謎が多いと夏組の上級生達からも助言をされていた日和達。4月に行われた闇を創る授業は、ただ夏組の生徒達を苦しめる為の授業だと言う先輩もいた。


午後は陽光先生の夏の授業だった。以前日和達もやった火の花を使った授業。今回は、火の花で実際に太陽を作ると言う。ただ大きさはバスケットボール程。今回はテーブルに座る6人で協力して作る授業となった。日和は権太と美代子を含む6人で太陽作りを目指す。こちらは火の熱さとコントロールの難しさに、全員火の球作りに手を焼いていた。

・・・

5月。今日も教室で速水先生の授業だった。今回は、6人毎にテーブルに座り授業が始まった。


速水先生 よーし。今日からの授業は、人間観察力を磨く。冬組は夜になると、上空の管理や学校内の監査も務めている。簡単に言えば危険の察知だ。そこで、今座っているテーブル6人の内1人だけに犯人役になってもらう。それを残りの5人で誰が犯人なのかを当ててもらう。犯人が犯す罪は、テーブルの上に用意されたケーキを一口だけ食べた事。6人全員でよく話し合い、制限時間内に犯人を当てろ。

達也 当てられなかったら?

速水先生 そのグループは、テーブルに用意されたケーキは没収。制限時間は30分だ。


日和、権太、美代子を含む6人のテーブルには、1ホールの苺のケーキが置かれていた。ケーキの種類はテーブル毎に違っていた。


速水先生 では全員目を瞑ってテーブルに顔を伏せろ。、先生は、犯人役になってもらう人間の耳元にだけに聞こえるエアーボイスで伝える。、間違っても先生の声に反応して声を出したり返事をしない事。、では伏せて。


そして、速水先生は白いマスクを着けた。エアーボイスで各テーブルから1人ずつ犯人役の生徒を選び声を掛ける。


速水先生 君が今回の犯人だ。音を立てないようにして、ゆっくりと顔を上げる。そして、テーブルに用意されたフォークで一口ケーキを食べる。使ったフォークは服の中に隠せ。犯人としてバレないよう演じるんだ。もしバレなければケーキは君が独り占めして良い。他のメンバーに気付かれず音を立てないように。では、始めよう。


そう言って速水先生は白いマスクを外した。先生に指示を受けた生徒達がゆっくりと顔を上げケーキを食べた。フォークを隠し再び顔を伏せる。


速水先生 はい!全員顔を上げて良いぞ!、犯人はケーキを食べた。テーブルに座る6人の中に犯人はいる。時間は30分だ。賢いのはどっちだ?では、始めだ。


速水先生の合図で各テーブルでケーキを食べた犯人探しが始まった。


権太 俺がケーキ食べました!

美代子 バカなの?犯人見つけるのがややこしくなるでしょ!?

・・・美代子の脳内

何なの権太、いきなり自分がケーキ食べたなんて。でも何で一番最初に名乗り出たの?犯人を動揺させる為?それとも権太が本当に犯人だから?最初に名乗れば疑われないから?ただのバカ発言?、権太が発言した瞬間。私はハッキリと全員の表情を見た。だけど、誰ひとり変な顔は見せなかった。単純に意表をつかれて反応出来なかっただけ?ポーカーフェイスとか?、でも日和が犯人だった場合、必ず権太の発言に反応するはず。だけど権太の顔を只驚いた顔で見てた。となると日和は白。権太は置いておくとして、残りは私を入れて4人。奈々、将生、直人、私。権太は今でも俺が食べたと主張してる。将生はキョロキョロと目を動かして変な顔をしているけど。将生はグループワークが苦手なタイプだし。元々挙動不審になりやすいから、将生が犯人だったら逆に誰とも目を合わせようとしないはずよ。だから将生も白。奈々はかなり権太を疑ってる。正義感が私よりも強くて、曲がった事が大嫌いなタイプ。もし奈々が犯人だったら、いの一番に自分が犯人でない事を証明しに来るはず。でも今は権太を質問攻めにしていると言う事は奈々も白だ。ここで難しいのが直人。秋組の鷹を使った授業の時もそうだったけど、心の感情を表にあまり見せないタイプ。でも意外と男前な性格で、いざとなったら一番頼りになるタイプ。ただ今はじっと日和の方を見つめて黙っている。私と一緒で何かをあれこれ考えているのか、それとも日和を疑っている?だけど、直人が腕を組んでいる時は、大抵何も考えていない時の行動だわ。今はグループワークだから考えている振りを見せているだけ。だから直人も白。え?じゃあ、残ったのは私と権太じゃない。でも私は先生から犯人役の指示は来てない。いや、来ていたのに考え事をしていて聞き流していたの?、じゃあケーキを食べたのは誰?私は食べてない。食べてないけど、このグループの中で一番ケーキが好きなのは私以外ありえない。しかも今ダイエット中で糖質は控えてる。え?じゃあ私の意識とは別の本能的な私が手を動かして皆が顔を伏せていた間に食べたの?うそ!、私が犯人なの?と言う事は、最初に権太がケーキを食べたって言ったのは、私の表情を伺う為?たしかに権太と最初に目が合ったのは私だけど。嫌だ。認めないわよ。恥ずかしいじゃない、権太にあんな事言っておいて。自分で自分の首を絞めていたなんて。私、食べ物を目の前にすると人目を盗んでこんな愚かな事を。でも、ずっと黙ってたら逆に怪しまれる。だからと言って、何か私に聞かれたら何て答えたら良い?、権太が犯人な訳無いもの。あんな単純脳みそバカ。権太に犯人役が出来る訳無いわ。権太も白。、認めるのよ美代子。ちゃんと自分が犯した罪を認めて、皆に許してもらうの。それが答えよ。

・・・

日和 美代子?ずっと黙ってるけど美代子はどう思う?

権太 だから、俺がケーキを食べたっていってるじゃん!

美代子 私なの。

日和 え?

美代子 私が犯人よ。ケーキは権太じゃなくて私が食べたの。

日和 美代子なの?え、でも。言っちゃって良いの?

美代子 もう嫌なの。誰かが誰かを疑って、私が犯人なのに違う人が嫌な思いをするのは。だから言うわ。私がケーキを食べたの。

直人 信じて良いのか美代子?

美代子 うん。

直人 わかった。皆、うちのグループは美代子を選ぼう。

権太 あ~。


速水先生 時間だ。じゃあ、これから先生からの指示で犯人に選ばれた人間は、その場で立ち上がってくれ。答え合わせといこう。、ケーキを食べた犯人はこの人達だ。


ガタガタ。ガタガタ。

速水先生の犯人役の指示を受けた生徒達が立ち上がる。


権太 美代子、何でお前も立ってんだよ。速水先生の声を聞いてたのは俺だよ。

美代子 え?、権太なの?、私じゃないの?

権太 美代子。座りたまえ、俺が真犯人だ。

美代子 うそっ。、じゃあ私。自分で自分を犯人だと思い込んで。

日和 ダイエットしてるって言ってたから美代子。、よかった~権ちゃんが犯人で。

権太 だから最初っから言ってたじゃんよ~。


速水先生 よーし。じゃあ、犯人を当てられたグループは、皆でケーキを食べて良し。犯人を当てられなかったグループのケーキは、見事犯人役を演じた人間の報酬だ。どうするかは犯人に任せる。ではケーキを食べたら帰って良いぞ~。


権太は、最初っから自分が犯人だと告げて、早く皆とケーキを分けたかったと告白した。美代子は、自分の推理力の無さに呆れながらも、一番大きく切り分けられたケーキを権太から貰った。美代子は感情の整理が追い付かず、フォークでケーキを思い切り刺して大きな一口でかぶりつく。涙が出る程美味しかったと吐露した美代子を見た他のメンバーは暖かい笑顔でそれを見ていた。ちなみに権太は苺が嫌いなのだと言う。

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