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地球疑  作者: 新垣新太
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第3章~叶え人と流星群・後編~

長い長い夏の暑さは残暑に変わり。涼しい風が時折吹く9月。夜空には少し黄色み掛かる月が浮かんでいた。その月を寮の窓から眺める月来がいた。


月来 先輩達が創る月は今日も美しいな。

・・・

日和達のクラスは、夏組に所属する叶え人の仕事見学をする為、普段は立ち入り禁止である東棟4階に向かっていた。


陽光先生 はーい。皆さんここで一旦止まって下さい。廊下では静かにして下さいね。これから実際に叶え人達の作業を見学してもらいますが。くれぐれもお喋りや、話しかける事の無いように。変わった機材等も置いてあるので勝手に触らないでね。、先生はこれから大事な職員会議で抜けてしまうので、ここからは中にいる玉木リーダーとバトンタッチしますので。ちゃんと言う事を聞くように。良いですか?

生徒全員 はい。


そう言って、陽光先生は作業中と札が掛かった扉をガチャッと開けた。そして、生徒達は先頭から部屋の中へと入っていく。


陽光先生 じゃあ、玉木リーダー。後よろしくね。何かあったらエアーボイスで連絡を。

玉木リーダー わかりました。


生徒達は2列になって部屋の中に通され、入ってすぐ左側の壁に寄って待機していた。日和、権太、美代子も後に続いて部屋に入った。


日和 うわ、暗いんだ。

美代子 でっかいスクリーン。

権太 パソコンもいっぱいあるな。


部屋の中は映画館の様に全面が黒く設計されていた。普段日和達が座学で使う教室の2つ分の広さはあった。何列もの長いテーブルにはパソコンが設置され、奥の壁には大きなスクリーンに夜空の映像が写っていた。


玉木リーダー 2年生の皆さんこんにちは。夏組リーダーの玉木です。こうして会うのは歓迎会以来かな。今日は夏組の生徒だけが入れる叶え人の作業を見てもらうよ。そして、こちらにいるのが叶え人の月来(つきらい)リーダーだ。

月来 皆さん初めまして。月来です。

玉木リーダー ここからは、月来リーダーに叶え人について説明してもらいます。月来リーダーよろしくお願いします。


そう言うと、玉木リーダーは生徒達の列の一番後ろに移動した。白い服を纏った月来リーダーは、緊張した面持ちの生徒達を見てニッコリとやさしい笑顔を見せた。日和はそんな月来リーダーを見て、あの時、公園の滑り台で会った男の人の事を思い出した。


日和 ん?あの人。?


月来リーダー では、我々叶え人の事についてお話しします。この部屋には約50名程のメンバーがいます。服を見るとわかりやすいですが、僕と同じ白い服を着ている人達が叶え人の流星群と呼ばれるチーム。そして青い服を着ている人達が夜海(やかい)と呼ばれるチーム。割合で言うと、流星群が7名で夜海が40名。そして細かい技術を要する職人さんが数名います。主に3つの役割で編成されるのが我々´´叶え人´´です。


そして、月来リーダーは生徒達を連れて、壁側を更に奥に進んでいく。そこには、床に丸いスクリーンがあり、そこを円形状のテーブルが囲っていた。テーブルには数名の夜海と流星群のメンバーが特殊なメガネを付けて話しをしていた。


月来リーダー ここでは、実際に学校の外部に飛ぶドローンに搭載された蛍光(けいこう)スコープで街の子ども達の情熱探知をしています。


生徒 蛍光スコープ?


月来リーダー そう。皆さん向こうに見える大きなスクリーンをご覧下さい。

パチンッ!


指を鳴らした月来リーダー。その瞬間、大きなスクリーンが夜空の映像から街を空から映す映像に変わった。


月来リーダー 蛍光スコープを使って街を見ると。はい。所々に蛍の光の様なものがあるでしょう?、これが子ども達が発する情熱の光。この光が強ければ強い程、そこにいる子どもは素晴らしい何かに熱中していると言う事なんだ。


権太 へー。でもそれを何で調べてるんだ?


月来リーダー 良い疑問だ。、我々叶え人は、空に情熱を持った子ども達を探しているんだ。君達も空を見つめて願った記憶があるだろう?、人間の盲点は頭上だ。その空に何かを想うという力には、計り知れない情熱の原石が存在する。、叶え人は夜空に流れ星を起こす。そして蛍光スコープで子ども達の情熱を探す。その中から強い光の位置を特定し、外部の雨組との連携でこの教室から移動するんだ。


美代子 それで、あの時私の所にも来たって理由ねー。


月来リーダー 皆さんに話せるのはここまでかな?、もし叶え人の適性がこのクラスにいれば、また我々とこの続きの話をしよう。、早いけどお昼の授業はここまで。今日の夜、学校の夜空に流星群を発生させます。そこで皆さんには叶え人の仕事の1つを見て頂きます。ではまた今夜。


玉木リーダー では皆さん一旦授業はここまでです。静かに月来リーダーに挨拶してから廊下に出ましょう。


生徒全員 ありがとうございました。


そして、静かに廊下へと流れるように出ていった。外の光が明るく、生徒達は眩しそうに目を細めた。玉木リーダーは、部屋を最後に出た後。生徒達に今夜21時に、東棟前に集合するようにと伝えて解散した。


日和 何かあの人どっかで見たような。

美代子 私ちょっと興味あるなー!

権太 美代子には無理だな!勝手にあちこちの飯屋に行きそうだもんな!

美代子 は?あんた口にどら焼き沢山突っ込まれたいの?

・・・

そして、その夜。21時を迎えた東棟の前には、日和達のクラスと陽光先生。玉木リーダーと叶え人のメンバー数名が集まっていた。


陽光先生 皆さん今から夜の叶え人の授業を始めます。この時間は、他の生徒は外に出ていないので静かに授業を受けること。、では叶え人の皆さんよろしくお願いします!


そう言われ、青い服を着た女性が生徒達の前に現れた。美しい金髪を肩まで伸ばした白い肌の女性だった。


生徒 うわあ、綺麗な人。

生徒 昼の授業でいなかったよね?


星野(ほしの)副リーダー 皆さん初めまして。叶え人副リーダーの星野です。これから、皆さんには流星群のメンバーが起こす流れ星とスクリーンに映るドローンの蛍光スコープの映像を見て頂きます。流星群と聞くと、聞き馴染みのあるのはふたご座流星群等があると思います。今夜、我々が皆さんに見せる流れ星は、叶え人の代表的な流星群である「スターライン」を流します。先程お配りした、夜専用の筒眼鏡で見てみて下さい。では参ります。


星野副リーダーは、生徒達の目線を誘導する様に夜空を指差した。そして、その夜空の脇に、空壁で作られたスクリーンに上空からのドローン映像を映した。そして、白い服を着た流星群のメンバー5名が走りだし、生徒達の右前方に一列に並んだ。


月来リーダー 投星(とうせい)準備。


そう言うと、流星群のメンバー全員が、腰に差していた白い矢を抜く。そして、上空に向かって大きな白色の弓を構えた。


月来リーダー 構え良し。、昊天(こうてん)()け。


ビュンッ!ビュンッ!

ビュンッ!、ビュンッ!ビュンッ!


月来リーダーの合図で5本の矢が光の粉を溢しながら夜空に飛んだ。矢は白く、細い糸が夜空をゆっくりと泳ぐように天に昇っていく。


生徒 すごい。矢が生きてるみたい。

生徒 射るとき綺麗だったなー!


そして、白い矢は遥か高く飛び姿を消した。


星野副リーダー 筒眼鏡用意!、来ますよ。


その時だった。天高く飛んだ白い矢は軌道をぐにゃりと変えた。そして更に速度を上げる。矢は光をより強く発し、5本の矢が並走しながら夜空を走る。


ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!


日和 来たっ!

権太 どこ?、あ、あった!

美代子 凄いわ、あれが矢なの?


光の粉を溢しながら夜空を美しく光の矢が走っていた。そして並走から一転。5本の矢は軌道を変えた。そして夜空に模様を描く。


星野副リーダー これが叶え人のスターラインです。どうですか?

生徒 星の形だ~!

生徒 綺麗~!

生徒 えーー!すごいな!!


星野副リーダー では、皆さん蛍光スコープで映すドローン映像を見て下さい。


生徒達は筒眼鏡から目を離してスクリーンを見る。すると、学校を上空から映すドローン映像には蛍の様な光がぽつぽつと見えた。


権太 あ~。本当に蛍がいるみたいだな~。

日和 数は少ないけど、私達とは別の所で夜空を見てる人がいるのかな~。

美代子 私も矢と一緒に空飛びたいわー!


陽光先生 フフフッ!、夜の学校だとほとんどの生徒達が寝てしまっているから余り光っていないけど。昼の上空から見える蛍光スコープの学校の景色も見せてあげたいわー!

玉木リーダー そうですよね!、学校全体が一面蛍光色に包まれてますからね。あれは綺麗でした。


星野副リーダー いかがでしたか?お楽しみ頂けたでしょうか?、では夜の授業はここまでです。、身体が冷える前に校内に戻りましょう!、今日はありがとうございました。

生徒全員 ありがとうございました!


そして、日和達のクラスは興奮冷めやらぬまま寮へと帰っていった。日和は今までに見てきた流れ星は、叶え人達による光の矢だった事に想いを巡らせていた。日和が学校に来るきっかけになった流れ星も、今日の授業で見た流れ星も、美しい光だったなと満足気な笑みを残し布団を被った。

・・・

日和にとって今年の夏はとても長く感じていた。陽光先生の光を操る授業と佐久先生のエアーキューブを育てる授業。この2つを並行して学びながら、空祭と叶え人の流星群を体験したからだった。10月からは、自分の頭を整理しながら、残りの授業に取り組んでいた。季節は冬に差し掛かろうとしていた12月。今日は西棟の教室で新しい授業をやると陽光先生に言われていた。日和達は、その授業がある教室の黒いテーブルの椅子に座っていた。


陽光先生 よいしょー。はい!それでは授業を始めますが。最初に先生の隣にいるリーダーを紹介します。花組リーダーの円城寺(えんじょうじ)さんです!

円城寺リーダー 今日はよろしくお願いします!

生徒全員 よろしくお願いします!

陽光先生 では早速、円城寺リーダー火の花を各テーブルにお願いします!

円城寺リーダー はい!


そう言われ、オレンジの髪色に目の下にそばかすのある女性が各テーブルに黒い鉢を1つずつ置いていく。


陽光先生 今日行う授業は、皆さんのテーブルに置かれた火の花を使った授業です!とても貴重な花ですので、大切に扱って下さい!


テーブルに置かれた火の花。鉢からは真っ直ぐと太い茎が伸び、そこからいくつかの枝分かれをしていた。それぞれの茎から咲いていたのは、細かい花びらを付けた花だった。花びらは橙色で縁は赤く染まっていた。心なしか少し、ヒラヒラとなびいているようにも見えた。


陽光先生 空人は、この火の花の力を借りて熱を操り。灼熱を発する太陽を創り出しています。、今日はまず火の花を使って、ピンポン玉程の火の玉を創る事を目標に頑張りましょう!では、円城寺リーダーをお手本に。

円城寺リーダー はい!


円城寺リーダーは、教壇に置かれた鉢に咲く火の花の前に立った。そして、火の花の花びらを1つ摘まんで取った。すると、取った花びらの根元に付いていた部分から小さな火花が散った。


ボポッ!


陽光先生 はい!花びらを抜いた時に出る火はまだ熱くありません。そして、段々と火花を散らしながら花びらを侵食します。そして、その火が花びらの中間程まで来たら少し上に投げます。


そして、中程まで燃える花びらを円城寺リーダーが顔の高さに火の花を投げた。すると、一気に花びらは大きな火を上げた。


ボワァッ!


陽光先生 難しいのはここからです。既にこの火はかなり熱いので絶対に触らない事!両手は火を包み込むようにかざします。そして、昇る炎をグルグルと曲げていくイメージで集中して下さい。


そう言うと、円城寺リーダーが、火を中心にして手の位置を変えながら炎を見つめた。火の向きは上に向かっていたが、その向きは徐々に回り込む様になっていき。そして、火は遠心力が生まれたかの様に黄色く燃えながら球体になっていった。


美代子 うわあ!これが火球(ひきゅう)

日和 すごい。眩しすぎて黄色い部分が直視出来ない。


そして、円城寺リーダーはその火球を天井から吊るされた大きな空壁玉の中にスポンと入れた。入れられた火球は、形はそのままにふわふわと浮いていた。


陽光先生 いきなりここまでは難しいですが、まずは火の花に慣れる所から始めましょう!では各テーブル毎に1人ずつ順番を決めてやりましょう!はい!スタートです!


権太 よし!俺からやる!

日和 すごいね権太。私、ちょっと怖いわ。

美代子 男は火が好きなだけよ。

拓実(たくみ) い、いや~。僕は苦手だよ~。


権太は1人だけ立ち、火の花の花びらをどれにするか悩んでいた。そして、1つに決めた花びらの先端を右手で摘まんだ。ゆっくりと摘まんだ花びらを引っ張る。


ボポッ!


権太 お、ぉお!、来た!

日和 意外に火花飛ぶね!

美代子 それにしても火の花は良い匂いねー。

拓実 こ、こわいな~。熱そうだし。


権太は摘まんだ右手を真っ直ぐ前に伸ばし、火花が花びらの中間まで燃えるのを待った。


ボボポポッ!


日和 そろそろじゃない。

美代子 今よ!

権太 行くぞっ、よっ!


ボワァッ!

すると、権太が花びらを上に投げるつもりが、右手の親指に花びらがくっつき火が権太の右手にかかった。

権太 うわぁあちぃいいっ!!


美代子 バカ!離すの遅すぎ!

日和 ちょ!大丈夫権ちゃん!?

拓実 消えた!火はすぐ消えたよ。


陽光先生 権太君大丈夫!?、手?、火傷したの?

権太 はい。でも、ギリ大丈夫です!、最後右手で振り払ったので。

陽光先生 どっち?右ね!、はいちゃんと見せて。、、うん。親指がちょっと火傷してるけど、他は大丈夫そうね。、そしたら円城寺リーダー。権太君を保健室まで連れて行ってくれる?

円城寺リーダー わかりました!


円城寺リーダーに付き添われ、権太は東棟1階にある保健室へと向かった。


陽光先生 はい。今のような事もあるので、火の花を取る時は集中して下さい!終わったら次の人に代わって下さい。


日和 いやー。怖かったー。権ちゃん見た後だと余計に怖いんだけど。

拓実 え、えっと、じゃあ。次、僕やっても良いかな?

美代子 どうぞどうぞー!、いや権太もしかしたらわざとじゃない?

日和 わざとであんな事出来ないよー。

美代子 日和知らない?、夏組の保健室の先生。すっごい美人で有名なんだよ!だってここぞとばかりに1人目やりたがってたし。

日和 いやー!美代子それは考えすぎだって。

美代子 怪しいなー。


陽光先生 はい、そこお喋りしない!


あやみ うわぁ!加南子(かなこ)の火の球綺麗~!

達也 うまいなー!これ1回目だろ?


日和達のから一番遠いテーブルにいた加南子の両手には、見事に火の球となった炎が美しい黄色い光を放っていた。そして今回の授業では、加南子以外に火の球を創れる者はいなかった。

・・・

一方、円城寺リーダーと保健室に着いた権太。先に扉を開け円城寺リーダーが入った。

ガラガラガラッ!


円城寺リーダー 失礼します。

草香(くさか)先生 あら、いらっしゃい。

権太 失礼しまーす。

円城寺リーダー 男子生徒が、授業中に手を火傷してしまって。

草香先生 はい。わかりました。じゃあこちらへ座って。

円城寺リーダー はい。じゃあ私は教室に戻るね。終わったら、寮に戻って良いからね。

権太 あ、はい。ありがとうございます。


そう言って、円城寺リーダーは保健室を出ていった。そして、権太は先生が座る所まで近づいた。


草香先生 保健室は初めて?

権太 はい。初めてです。

草香先生 じゃあ自己紹介ね。私は夏組の保健の先生を勤めてる草香よ。よろしくね!

権太 よろしくお願いします。

草香先生 先生に火傷した場所を見せてくれる?、ここの席へ座って。

権太 はい。えっと、右手の親指を。

草香先生 痛かったでしょう。どれどれ~?


先生の目の前に座った権太。草香先生は、権太の右手の火傷具合を確認する為。少し前屈みで右手を見る。すると、草香先生の豊満なボディが権太の視線に入ってしまった。


権太 (うっ、先生の谷間が、そして柔らかな良い香り。これが噂の草香の部屋か。)

草香先生 うーん。そんなにひどい火傷じゃ無さそうね。でも、この香り。火の花かしら。

権太 あ、はい。そうです。さっき火の花を使った授業で。

草香先生 なるほどね!良い香りだわ。、軟膏(なんこう)を塗るからちょっと痛いの我慢できる?

権太 はい。


そう言って、草香先生は小さな丸いケースに指を入れ、白い軟膏を権太の火傷部分に塗った。


草香先生 火の花と言えば、矛盾先生から火の花を使った香り玉をよく貰ってたわ。香りは女性のアクセサリーだから何とかってね。最近は忙しいのかめっきり来なくなったけど。

権太 え?矛盾先生ってあの色玉職人の、ですか?

草香先生 そうよ。あら知ってるの?元気にしているかしら?

権太 はい!この間、空祭で色玉を使った花火を教えてもらいました。、でも何で保健室に矛盾先生が?

草香先生 お祭りに来てたのね~。知らなかった。、矛盾先生は元々薬屋の人だったの。だから、度々私が矛盾先生の所に行っては薬の勉強してたのがきっかけでね。昔っから先生は腕のたつ有名な薬屋さんでね。それで、その噂を聞いた空人が粉の調合だったら、色玉職人として働かないかとスカウトしたらしいのよ。それが、今となっては空人の皆が矛盾先生の色玉を求めて来るようになってね。ああ見えて、すごい繊細な人なのよ~。

権太 薬屋。、そうだったんだ~。

草香先生 また余計な事を話しちゃったかしら。、あ!お風呂は入っても良いけど、軟膏は毎日付けること。はい、軟膏。無くなったらまた保健室にいらっしゃい。

権太 お話しありがとうございます!、わかりました。

草香先生 はい、お大事に。

権太 失礼しました!

・・・

日和のクラスは、火の花を使った授業が難航していた。まだ火に対する恐怖心が勝っている為か、加南子の後に火の球を創れる生徒は未だ現れなかった。そして、12月の帰省を迎えた。日和はこの1週間の実家の帰省を楽しみにしていた。それは昨年会えなかった沖縄の祖父母が来てくれるからであった。荷物を整え、心の空壁から学校を出発した。そして、今回は日和の母がお風呂洗いをしている最中に日和はお風呂の床に到着した。今年も無事に日和が帰って来たことに大袈裟に喜ぶ母の姿があった。日和は塩素の臭いが鼻にツンときていた。祖父母は、相変わらず元気で、沢山沖縄土産を持って来てくれていた。昨年沖縄に行けなかった分、祖母が沖縄料理をほぼ毎日の様に振る舞ってくれる年末年始だった。賑やかになればなる程に、時間が過ぎるのは早く、学校へ行くのが寂しくなってくる。そして、1月3日を迎える。日和は父母に見送られて学校へと向かった。

・・・

2月になった寮の食堂では、生徒達の悲鳴と笑い声で賑わっていた。


日和 鬼は~外!、福は~内!

ブンッ!

日和は手に握りしめた福豆を豪快に放つ。

権太 痛い痛い痛い痛い痛い!タンマタンマ!、交代!鬼交代でーす。

日和 え~?つまんな~い。

美代子 早くしないと私恵方巻全部食べちゃうよ?

日和 恵方巻食べる食べる!

権太 も~!何で今年も鬼役なんだよ~!君達もやりたまえ!

美代子 もぐもぐもぐもぐ。

日和 もぐもぐもぐもぐ。

権太 はい。しゃべったらダメなのね。

・・・

美代子 はぁあーー!!、もうお腹いっぱい!やっぱ海鮮太巻が一番上手いね!

日和 私1本でお腹いっぱい。

権太 そうだ!、エアーキューブ勝負!


今、2年生の間で密かにブームになっているエアーキューブ勝負。それは、お互いの実力を見せ合っては、己を磨く戦いなのだと権太は言う。


美代子 男子はそればっか!

権太 良いから良いから!じゃあ、俺からね!ドンッ!


権太がテーブルに置いた自分のエアーキューブ。だが中は真っ黒で何も見えない。


日和 真っ暗だけど、何?

権太 光で灯してみて。

美代子 は?めんどくさっ!

日和 じゃあ私灯すよ!


そう言って、日和は右手を権太のエアーキューブにかざす。エアーキューブの角から徐々に黒色が透け、ゆっくりと中身が明らかになってきた。


日和 星座?

美代子 案外綺麗に出来てるわね。、鳳凰座!

権太 だろー?、鳳凰座を箱に入れてみました!

日和 次美代子は?

美代子 私ー?、まあ今はこんな感じよ。


美代子がポケットから出したエアーキューブは中が真っ白に包まれていた。


日和 今度は真っ白だ!

権太 何だ~?美代子は俺にライバル心を燃やしてんのか?

美代子 眼中に無いわ。日和、息吹き掛けてみて!

日和 これに?、吹くよ?


ふーーーー!

すると、日和の息に反応するかの様に、白く包まれていたエアーキューブは徐々に透明になる。そして中からは美しく飾り付けられたツリーが現れた。


権太 おぉおー!!、クリスマスツリーか!

日和 本当だ!?不思議ー!キラキラ光ってるよ~?

美代子 まあね。ちょっと羽舞リーダーに教えてもらった風の技よ!

権太 やるな~。最後は日和だな!

日和 なんか最後って出しづらいよねー。


そして、日和はカバンからエアーキューブをテーブルに置いた。そこには、紺色の夜空色の中心に美しい満月が浮いていた。


美代子 うわあ。満月じゃん!綺麗な黄身色~!食べちゃいたい。

権太 すごいな。俺まだ球体創れてないんだよなー!

日和 そう~?ありがとう!

権太 まあ。今回の勝負は全員引き分けだな!

美代子 いや権太の負けよ!罰として鬼やりなさいよ!、ほら行くわよ~。

権太 何でよ~。お母さ~ん!助けて~!


権太は、助けを求めて食堂のお母さん達の元へと走って行った。それを追いかける鬼の形相をした美代子。日和達は無事に4月から3年生へと進級する。

・・・

夏のエリアに植えられた梅林が、ふんわりと香る梅風を吹かせていた3月。五重の塔の地下にある心の空壁では、白猫が今日もテーブルの上で身体を丸めて眠っていた。物音を感じたのか、白猫は瞑っていた目を薄く開けた。その視線の先、扉が閉まるちょうどその前に、青い瞳をした橙色に輝く羽を纏う鳳凰がいた。鳳凰はじっと白猫を丸い目で見つめる。白猫は身体を起こし、大きなあくびをした。そして、テーブルからトンとタイル張りの床に降りた。その時、鳳凰は大きな羽を広げると、橙色の羽の内側に眩しく光る白い羽が姿を表した。余りの眩しさに白猫は一瞬目を瞑り、そして細めた目で鳳凰を見た。だが、そこに鳳凰の姿はなかった。只、1枚の橙色の羽を残して。

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