第2章~青い龍・後編~
日和 美代子どうしたの?早く並ばないと混んじゃうよ?
美代子 ちょっと待ってよ!、うな重って書いてあるじゃん!、うそでしょ!?あの高級食材がこの食堂で食べれるの?お母さん!大丈夫なの?
食堂の母 夏と言えば鰻よ!夏バテしないように腹一杯食べなー!
美代子 えー!?ありがとうお母さん!!、胃袋待ってなよ!驚いて腹壊すんじゃないよー!
日和 私はそんなに好きじゃないけど、豚肉とのハーフにしよっかな。権ちゃんは?
権太 どら焼き!
日和 うん。そうね。
・・・
夏休みを目前に控え、日和達は夏休み前最後の春の授業に向かった。今日は久しぶりに屋外ではなく、西棟1階にある教室での授業。黒板にはでっかく夏のミッションとチョークで書かれていた。
桜餅先生 今日はですね。夏休みの宿題についてお話したいと思います。結論から話すと宿題は1つだけです。そしてやるかやらないかも自由。但し、やるとやらないとじゃあ夏休み明けの自分と周りとの実力に差がつきます。と言う事で本題に入りますが、
・・・
8月。日和、美代子、権太の3人は桜餅先生の宿題を未だ終わらせていない状態だった。
美代子 ねえ権太は?
日和 なんか夏休みに入ってからずっと図書室に行ってるみたい。
美代子 星座テストが効いているのかしら。そろそろもっちーの宿題やらないとじゃん?
日和 夏ミッション?、金の蝶なんて本当にいるのかな?先生、出たらしいって言ってたけど。
美代子 捕まえたらでっかい蝶をあげますって言われてもねー。
日和 世界に数匹しかいないんでしょ。でも先生、金の蝶の鱗粉を桜餅にかけて食べたいって熱弁してたなー。
美代子 まぁ、桜餅は私も食べたいけどね。ただ、春のエリアまで探しに行くのがねー。
日和 面倒くさいよねー。
桜餅先生からの夏休みの宿題は、春のエリアにある木漏れ日の森にいるとされる金の蝶を捕まえる事だった。そして、先生好物の桜餅の上に一振りの金の鱗粉をかけて食べたいと生徒達に豪語していた。捕まえる事ができたグループには、世界一大きな蝶のプレゼントがある。その日から、権太は何かに閃いたのか図書室に通う日々を過ごしていた。
図書室は、職員室のある五重の塔の2階にある。権太は、図書室の受付にある顔認証画面でチェックインを済ませた。そして、受付横の小さいゲージの中にいるハクビシンの頭を撫でる。すると、ハクビシンの上空に小さな鼠色の雲が現れた。権太がその場から離れると、雲がふわふわと権太に付いていく。図書室を利用する人の側には必ず鼠色の雲が存在し、読みたい本を選んでは雲の中にスッと入れていく。権太は本棚にある本を吟味し、4冊まとめて雲の中に入れた。そして、最初の受付で貸し出しを係りの人に伝えた。
受付 貸し出しですね。返却期限はありません。返却の際はこの雲に返却するっと伝えて下さい。雲が図書室まで運びます。
権太 ありがとうございます。
そう言って権太は鼠色の雲を連れて寮へ帰っていった。帰り道、広場のベンチや食堂のテーブルで本を読む人がいる。その人達の上空には、鼠色の雲がふわふわと近くで浮いていた。
・・・
1週間後。朝早くから日和の部屋のドアを強く叩く音で日和の部屋で寝る全員が起きた。
ドンドンドンドンドンッ!!
権太 日和!日和!、出来たぞー!!!
当真 うん?、え?、誰?
多香子 あぁーーん。もうなにー?
日和 んんんんー。私行く。はい?
ガチャ。日和は扉を開けた。
権太 日和!夏休みの宿題、これでいこう!
日和 なんだ権ちゃんじゃん。、え?本?どう言うこと?
・・・
朝食を済ませた日和と美代子、権太はテーブルに座り会議をしていた。
日和 すごいねコレ。飛び出す絵本。めちゃくちゃ細かく作られてるね!
権太 でしょ!
美代子 コレがどうしたのよ?
権太 バカだな~。俺が色紙で作ったこの花の絵本で金の蝶を捕まえるんだよ!
日和 権ちゃんが作ったの?すごいね。
権太 図書室にいる天才数学者達の知恵から学んだのさ。そして、家庭科の先生に色紙をもらえないか聞いたら喜んで色紙をくれるし。その上、家庭科室を使わない時間は勝手に作業しても問題ないと言われてね。俺にしては上手く作っただろう?
美代子 なんか腹立つ~。
日和 ねえ美代子!、そう言えばこの間、授業終わりに青柳リーダーから香り玉もらってなかったっけ?
美代子 あるけど、私が粘りに粘って良い香りのする青柳リーダーからちょうだいしたやつよー!
日和 でも、その香り玉で権ちゃんの絵本に匂いを付けたら本当に金の蝶出るかもよ!?
美代子 なんか権太の絵本に使うのが癪に触るなー。
権太 そうだよ!香り玉でこの飛び出す絵本に命を吹き込んでくれ!
美代子 私が鍵を握ってるってわけね。まあいっか。早速行ってみよ!
・・・
日和達は桜餅先生の夏のミッションをするべく重たかった腰をあげ、春のエリアへ向かった。3人は東棟の外にあるレンタルサイクルに乗り木漏れ日の森を目指す。夏の日差しが外の気温を高くする中、日和達は春のエリアに入っていった。
日和 あぁ~~!風が気持ちいい~!
美代子 権太!木漏れ日の森はどこ?
権太 地図だと、この太い道の突き当たりの右らへん!
日和 この道、最初に学校に来た道だ。
太い道を走ると、右奥に森が見えてきた。茂る草っぱらに自転車を停め、森の中へと入っていく。森の中は、空から差す日差しが細いスポットライトの様に地面を照らしていた。
日和 先生が水溜まりがある所がポイントだって言ってたよね?
美代子 え?そうだっけ?もう覚えてない。
権太 虫除けスプレーしてくればよかった!もう蚊に刺された。
森の中は緩やかな傾斜が続いていた。所々に太い木が生え、地面は緑で生い茂る。水溜まりを探しずんずんと歩みを進める。
日和 あった!権ちゃんあそこはどう?
権太 良いねー。なんか池っぽいけど。
美代子 ここ何か出そうじゃない?、早くやろう!
そこは、空が少し開けて見える大きな水溜まりだった。小さな花が水溜まりの周りに少しずつ咲いていた。その花の側に権太は自作の飛び出す絵本を開いて置いた。
日和 OK。美代子、香り玉。
美代子 これね。
そう言って美代子は小さな赤いケースからビーズ程の小さな黄色い香り玉を出した。そして、親指と人差し指の間に一粒挟み、蓮の花に似せて作られた花の中心にプチっと潰した。
権太 よし。あそこの太い木に隠れよう。
絵本から5メートル程離れた太い木の影に日和達は身を隠した。少し顔を覗かせて様子を伺う。
・・・
美代子 そもそも花の香りで蝶が出るなら小さな花が咲いてるんだからいてもおかしくないわよね?
日和 たしかにそうね。今どんだけ待った?
権太 えーっと、まだ10分位。
美代子 うそー。すごい待ってる気がする。
日和 ちょっと待って、今水溜まりが動いた?
権太 あ、波打ってる。
美代子 えー?どれよ
日和 シッ!
ぴちょんっ。
すると、小さな音と共に青紫に輝く蝶が水溜まりの中から舞い上がって来た。日和達は動揺するも必死に声を抑えた。ひらひらと飛ぶ青紫の蝶は水溜まりの上を漂う。そして、ゆっくり絵本の中の紅色の蓮の花の中心に降り立った。その瞬間、開いていた絵本が優しくパタンと閉まった。
日和 おぉおぉ~。綺麗に閉じたね。
権太 なんで水溜まりから蝶が?水中にいたってこと?
美代子 でも金の蝶じゃなかったわよ!、青かったわ!他の場所なの?
日和 わからないけど、綺麗な蝶だったよ!新種かもしれないから今から先生の所に持ってく?
権太 金の蝶よりもレアかも!
美代子 逆に?、なら早く持ってこう!
・・・
ワクワクしながら日和達は木漏れ日の森を後にし、春の校舎にいた生徒に桜餅先生の研究室の場所を聞いた。そして、教えてもらった東棟の2階にある研究室に行くと、タイミング良く桜餅先生が扉から出てくる所だった。
権太 桜餅先生~!!
桜餅先生 あっと!危ないよー!廊下は走らない!
権太 先生!俺達夏組1年のグループで宿題持って来たんで見てもらえませんか?
桜餅先生 ほぉー!、捕まえてきたのか?よし!早く見せてくれ!青柳リーダー来れるかなー?そこのテーブルに座って。
桜餅先生は白いマスクを付け、しばらく何かを呟いていたが。青柳リーダーは授業との事で、羽舞リーダーが急いで来てくれる事になった。
桜餅先生 はい。お待たせしました!、それでどこに金の蝶を?
権太 この本の中です。
桜餅先生 なるほど、虫籠ではないタイプか。よし。皆は動かないでね。、羽舞リーダー、空壁お願いします!
羽舞リーダー はい。
羽舞リーダーは両手を空間に掲げた。すると、黒いテーブルに座る桜餅先生達4人を囲むだけの四方に白みがかった透明の壁を作り出した。
日和 先生、何ですか、これ?
桜餅先生 これは空壁と言ってね。空気中の成分を借りて、ちょっとした歪みを作り出す空気の壁なんだ。分かりやすく言うと、蝶等の空を飛ぶ生物が逃げないようにバリアを張ったんだ。君達にはまだちょっと早いかな。
権太 すげー。
美代子 羽舞リーダーカッコいい!
桜餅先生 さあさあ!、じゃあ早速本を開けるとしよう。
そう言って桜餅先生は飛び出す絵本をゆっくりと開けた。すると、絵本の中から青紫の蝶がひらひらと宙に舞った。
日和 私達が木漏れ日の森で捕まえたのは、金の蝶じゃなかったんですけど。
桜餅先生 青紫か。羽舞リーダー、コンタクトレンズはしてるかい?
羽舞リーダー はい。今解析中です。
桜餅先生 では、この中の酸素濃度だけ徐々に上げてくれるかい?
羽舞リーダー わかりました。
美代子 え?何?
羽舞リーダーの瞳には様々な文字や色が動いていた。そして、タブレットPCを何やら細かく操作し始めた。
羽舞リーダー 解析出ました。ゴールデンバタフライで間違いないです。
桜餅先生 ブラボーだ!皆、金の蝶だよこれが!、しっかり蝶を見ていてごらん。
権太 やったー!
日和 でも青色なのに、何で?
羽舞リーダーの持つタブレットPCに表示される空壁内の酸素濃度が徐々に増していく。すると、青紫の蝶の羽脈に金色の筋がゆっくりと入っていく。
パンッ!
桜餅先生 あぁあ、美しい!
美代子 すごい!さっきまで青色だったのに。
日和 綺麗!飛んだ鱗粉がキラキラしてる!
権太 黄金だー!かっけ~!!
ひらひらと飛ぶ金の蝶。金色の鱗粉はキラキラと黒いテーブルに降り注ぐ。そして、桜餅先生の合図で空壁は解除され、開けられた研究室の窓から金の蝶がゆっくりと外へ帰っていった。
羽舞リーダー 良い香りですね。
桜餅先生 よし!桜餅の時間だ!皆で食べよう!
研究室の冷蔵庫から桜餅を人数分運び、羽舞リーダーが金色の鱗粉を綺麗に集めた。桜の匂いを漂わせる桜餅の上に、ひとつまみの金色の鱗粉を乗せる。桜餅先生が熱いお茶も用意してくれた。
桜餅先生 では、金の蝶ゲットを祝して、頂きます!
日和達 いただきます!
美代子 うまい!!!!
日和 美味しい。なんか鱗粉がチョコみたいな味がして、桜のチョコ食べてるような。
権太 あんこうまいー!
桜餅先生 フフフフフッ!何とも言えない香りと甘さ。最高だね羽舞リーダー!
羽舞リーダー 口の中を人に見せないで。
桜餅先生 ハイ。
・・・
桜餅先生 日和君、美代子君、権太君。夏のミッションクリアだ!おめでとう!、だが、プレゼントするはずの世界一大きな蝶なんだけどね。実は君達より一足先に金の蝶を持ってきたグループに渡してしまったからないんだよ。
権太 先着がいたんだ!
美代子 私は桜餅が食べれたから満足!
日和 全然大丈夫ですよ!
桜餅先生 すまないね。
羽舞リーダー 先生、次の授業が。
桜餅先生 お!、では諸君!また次の授業で!
そう言って桜餅先生と羽舞リーダーは片付けもなしに研究室を出て行ってしまった。日和達も、午後の授業の前にお昼ご飯を済ませるべく先生達の後を追うように出て行った。
・・・
夏休みが終わり、秋を迎える頃。日和達1年生の授業は、教室での授業が主になっていった。春の授業は、空気を操る凧上げのスキルアップ表を元に評価がつけられ。座学では、空気中の成分管理に関する元素記号や成分調整の為の蝶の種類の勉強が進んでいた。夏の授業は、星座テストに加え恒星の名前の勉強が始まり、再び権太は困窮に陥っていた。冬本番も間近な12月。日和達は専門的な学習が続き、心にゆとりを求めている時、日和のルームメイトから奇妙な話を聞く。
当真 ねえみんな。青い龍って知ってる?
多香子 知らない。なにそれ?
清太 ゲーム?
日和 青い龍?初めて聞いたよ。
当真 私、この間3年生の先輩に言われたんだけどね。夏組の新入生は大体この時期に、春の授業で青い龍を探すんだって。先輩が1年生の時は雲の合間から青い鱗が見れたんだってー!
多香子 龍って空想上の生き物でしょ?
清太 え?でも、いたら面白いなー!
日和 青いんだ。大きいのかなー。
当真 見れたら奇跡らしいけどね。
・・・
今日の春の授業は図書室で行われた。桜餅先生は、しばらくの間は読書期間にします。との事だが、青柳リーダー曰く、先生は西棟の広場で空の観察をしているらしい。クラスの間では、ちらほらと青い龍の話が広がっていた。そして、授業の終わりに桜餅先生が図書室に戻ってきた。
桜餅先生 ふぅー。そろそろ授業を終わりにします。もしかしたら、もう誰かから話を聞いているのかもしれないが。先生は今、空を見上げて青い龍を探しています。
達也 やっぱり!
桜餅先生 静かに。今日は特別にその事についてお話をしてもらう為に権堂校長に来てもらいました。、校長お願いします。はい皆さん挨拶。
権堂校長 皆さん、ごきげんよう!元気な顔が見れて嬉しいですよ。
生徒全員 よろしくお願いします。
権堂校長 うん。青い龍と聞いて、皆は何を思い浮かべるかな?、昔話。龍の絵。想像の生き物。結論から言うと、青い龍は皆のいるこの日本の空の主。空の安定に努め、地上で暮らす皆を見守っているのじゃ。青い龍を見る条件の1つに雨が降っている事。空を創る空人を育成する我々先生達でも見れない時は多々ある。だが、もし青い龍が皆の前に現れたとしたら、皆の心の中にある情熱の力は見る前よりも強く輝くに違いない。桜餅先生を信じて、その時を楽しみにしていて欲しい。良いかな?
権堂校長の話を聞いてクラス全員が心の中で返事をしていた。権堂校長は桜餅先生に何かを伝えて図書室を出て行った。そして、年に1度の帰省の日を迎えた。
まだ、青い龍は現れていない。
・・・
陽光先生 夏組の皆さん!まもなく出発します!1年生から順に列を乱さないように!くれぐれもチケットは忘れないように!
日和 早く家族に会いたいなー!
美代子 私はおせちが楽しみだわ!
権太 弟達とかまくら作るんだー!!
そして陽光先生が先頭に立ち、寮からどんどんと生徒が出て行く。寮の外へ出ると冷たい空気が頬を刺す。列は蛇の様に連なり五重の塔へと向かっていく。五重の塔に着いた生徒達は、地下へと続く階段を降りていった。大きな荷物を持った生徒は、ガンガンと壁や階段に荷物をぶつけながら階段を降りていった。そこには大きな木の扉が開けられていた。中はドーム状の石造りになっていて、薄暗い部屋に生徒達が1列に入っていく。部屋の床一面には水が張られ、中央まで伸びる一本道が入口から繋がっていた。春組の生徒達の帰省が終わったのか、桜餅先生が部屋から出てきた。
桜餅先生 春組完了です。
陽光先生 ありがとうございます。夏組も続きます。
そう言って、陽光先生は中央にあるテーブルを目指す。日和達は先頭に近い列にいた為、部屋の様子が少し伺えた。
権太 日和、何かあのテーブルの上に猫いない?
日和 え?、あ、本当だー。白猫かな?
テーブルまでたどり着いた陽光先生が生徒達に説明を始めた。先生の声は、ドーム状の石造りに反響し、地上で列に並ぶ生徒達まで声が届いていた。
陽光先生 1年生の皆さん!この部屋は皆さんの家と学校を繋ぐ場所。心の空壁と言う部屋です。皆さんは順番に、このテーブルの上に眠る白猫を抱っこしてもらいます。すると、先生の後ろにある空間に皆さんの心の状態が色となって空壁に描かれます。もし、赤一色になった場合は帰省できません。後日、改めてこの部屋に来てもらいます。それ以外の色であれば、皆さんが持っているチケットを床に張られた水面に置き、飛び込んで下さい。よろしいですか?
部屋にいる生徒達 はい。
陽光先生 では行きましょう。
先頭の生徒から白猫を抱っこしていった。陽光先生の後ろにはその都度、白色や水色等に染まる壁が現れる。先生からは、行ってらっしゃい、や、良いお年を、等の声がかかる。
ズボンッ!ジャボンッ!
床一面に飛び込む度に波紋が広がっていく。そして権太、日和、美代子の順番が来た。
陽光先生 はい権太君。猫は大丈夫?
権太 動物は家でも飼ってるので!
先生の後ろには青と緑のマーブルに染まる壁が現れた。
権太 好きな色だ!、じゃ!お先に!
ズボンッ!
陽光先生 次は日和さん!やさしくね。
日和 はい。柔らかいねー。はいっ。
先生の後ろに真っ白な壁が現れた。
日和 白がまぶしっ!またね美代子!
美代子 バイバーイ!
ジャボンッ!
・・・
日和 ぐへぇっ!!
日和の母 !!?、びっくりしたぁー!!!
日和はキャリーバックの上にお腹を打ち付け声を出した。すると、そこには白い床に水が流れている。顔を上げると日和の母が硬直したまま、お風呂場の湯船に浸かっていた。
日和の母 日和!おかえりー!!!
日和 イタタタタ、、、何で風呂やねん。ただいま。
12月28日夜18時。日和は無事に家に帰った。1週間の帰省期間が始まった。
・・・
日和の父は仕事で大晦日まで仕事。母は家の大掃除と弟の面倒で大忙しだと言う。日和は帰るなり、すぐお風呂に入り自分の荷物の片付けは明日にした。帰りの遅い父には悪いが、日和は母と弟で夜ご飯を食べた。今日は母が喜んでお寿司の出前を頼んでくれた。
日和の母 日和!彼氏は出来た?
日和 出来るわけないじゃん!びっくりするなー。
日和の弟 彼氏ってなにー?
日和 あんたは知らなくて良いの。
日和の母 あ、お手紙沢山ありがとね!なんか凄い楽しそうじゃない?、お母さんまるで小説を読んでるみたいで父さんと楽しんでるわよ!
日和 うん。楽しいよ!、お母さん手紙ってどうやって出してるの?、私の所に来るときは先輩が寮に来て配ってくれるけど。手紙にはいつも雪の結晶のスタンプが押されてるだけだし。
日和の母 こっちから出す時は、ベランダに夜中置いておくと次の日の朝には無くなってるのよ!、それで日和からの手紙は家のポストに入ってるし。それもこれもあのチケットに書かれていたのよ!
日和 なるほどね。友達が言うには、郵便をしてくれる夜の鳥が手紙を運んでるらしいよ。
日和の母 へえー!鳥さんなの?賢い鳥ね。
日和の弟 お姉ちゃんコレなにー?
日和 ん?、それは鯛よ!高いお魚なんだよー。
日和の弟 うん。うまい!!
日和の母 お母さん、ママ友には日和は沖縄のおばあちゃんの家に居候して学校に通ってるって話にしてるからね。もし、何か聞かれた時は、上手にあしらうのよ。もうお母さんは他言無用は大変よ。
日和 はーい。沖縄には行かないの?
日和の母 それが、日和の事を心配して今年は家族で過ごしなーって。
日和 えー!?行けないの?お年玉はー?
日和の母 もう姉弟揃って同じ事を、、、。大丈夫よ。郵便で送るって。今年の年末年始は、お家でゴロゴロして身体を休ませなさい!日和も気が付かないだけで身体は疲れてるんだから。
日和 そっかー。おばあちゃんに会いたかったなー。
日和の弟 おばあちゃんに会いたい!
日和の母 その代わり、来年の年末はこっちに遊びに来るってよ!
日和 マジ!?やったー!
・・・
そうして、日和一家は年末年始を家族でゆっくり過ごした。元旦には初詣。日和はお年玉で友達とショッピング。家では弟とテレビやゲーム。久しぶりに触るスマホに感動。そして、あっと言う間に帰省期間最終日の1月3日になってしまった。
日和 もう終わりか。早いなー。、そだ!チケット!
日和は陽光先生に、帰省期間最終日にチケットに登校についての案内が出るので必ず見て下さいと言われた事を思い出した。
日和 えーと、この辺に。あった!、おー。出てるじゃん。1月3日の午後14時。水溜まりに雲居の空が移る時。登校して下さい。、外は!、夜中雨降ったんだ。水溜まりあるね。
午後13時55分。早くも準備を整えた日和。弟は炬燵で寝ていたので、風邪引くなよとメモに残した。外へ出ると、道路の水溜まりの前で父と母が待ってくれていた。
日和の父 早いなー!もう行っちゃうのか!
日和の母 忘れ物はないね?また手紙書くから!
日和 うん。また来年、じゃないか!、お父さん見るの初めてでしょ?
日和の父 そうだよ!前回は母さんだけだったからな。気を付けてな。
空の雲に隠れていた太陽が顔を出し、日差しが水溜まりを輝かせた。日和はチケットを水溜まりの水面に浮かべた。スッと白色のチケットに変わる。重たそうにキャリーバックを抱え、踏ん張りながら水溜まりにジャンプした。
ズボンッ!
日和の父 本当にこの行き方なんだ、びっくり。
日和の母 でしょ?嘘じゃないでしょ?私あの日なんか寝られなかったんだから。
日和の父 俺も今日は寝れないかもな。
水溜まりには波紋1つ残っていなかった。
・・・
空の学校。夏のエリア、西棟前の広場には帰省を終えた生徒達が続々と荷物と共に現れてきた。
日和 ぐはっ!
日和はキャリーバックの上に背中を打ち付け、雲1つない青空を視界に捉えた。
日和 ふうーー。綺麗な空だこと。
生徒達は自分のペースで寮へと向かって行く。寮の入口には、大きい門松と新年の挨拶が筆で立派に書き上げられていた。1週間ぶりの友達との再会。その時、桜餅先生は春のエリア東棟の屋上から空を眺めていた。
・・・
1月4日から授業が始まっていた。だが、それから1週間。青い龍が現れる訳がない程、空は晴天続きだった。そんな中、急な風と共に雨雲が学校上空に現れた。1月12日、日和のクラスは図書室で読書期間の真っ最中だった。
桜餅先生 おほほほほほほっ!見えたぞっ!
桜餅先生は、ズボンのポケットから青色の小さな玉を取り出した。そして、パチンコにその玉を引っ掛け、夏エリアの西棟屋上から五重の塔の図書室の窓がある付近上空目掛けて放った。
ビュンッ!
パンッ!
美代子 何今の音?
青柳リーダー ん?、青の色玉!、出たんだ!
桜餅先生の代わりに青柳リーダーは図書室で夏組の1年生のサポートをしていた。窓から見えた先生からの色玉を見た青柳リーダーは白いマスクを着用した。
青柳リーダー 羽舞リーダー聞こえる?
羽舞リーダー 聞こえてる。どうしたの?
青柳リーダー 空に青の色玉が出たの。私はエアーボイスで1年生を広場に出るよう伝えるから、羽舞リーダーは外で皆を誘導お願い。
羽舞リーダー わかった。筒眼鏡も持ってくわ。
青柳リーダー ありがとう。
そして、青柳リーダーは通話を終え、今度は図書室にいる1年生に向けてエアーボイスを使った。
青柳リーダー 夏組1年生の皆さん。青柳です。詳しい説明は省きますが、今私の声は1年生の皆さんの耳元でしか聞き取れない音で話しています。空に青い龍が現れました。静かに五重の塔を出て、外にいる羽舞リーダーの指示に従って下さい。繰り返します。、
・・・
青柳リーダーの指示のもと、夏組1年生は少しバタバタしながらも外へ向かった。外には既に羽舞リーダーが口を閉じてとサインを出しながら広場へと誘導していた。日和達は、空を見上げたが龍の姿は認識できなかった。
羽舞リーダー 授業でグループを作った時の様に、3人グループでこの筒眼鏡を使って雲と雲の割れ目付近を見てみて下さい。大きな声は禁物。
そう言って、羽舞リーダーは筒状の眼鏡を各グループへ手渡した。生徒達は言われるがまま、筒眼鏡を目に当てて曇り空を見上げた。外はかなり冷え込み、パラパラと小粒の雨が降っていた。日和は羽舞リーダーから筒眼鏡を手渡され、先に空を見る事になった。
日和 どこ?、、、ん?、今、何か動いた。、、、え。これ?、動いてる。うそ。
美代子 うそっ。次私見るっ。、はい。ありがと!
権太 日和。どうだった?龍の顔は?
日和 龍の顔は見えなかったけど、凄かった。
日和は龍の姿が脳裏に焼き付いていた。雲間から覗かせた胴体。魚とトカゲを混ぜ合わせた様な鱗。薄い藍色をした身体がゆっくりと雲間を泳いでいた。背中には長い鬣が蜃気楼の様に揺れていた。日和は肉眼では見えない龍のいる空に、さっき見た青い龍の残像を見ていた。
美代子 すごいね。龍がいるなんて私うそっぱちだと思ってた。
権太 でけえ。カッコいい色~。乗ってみたいな。
羽舞リーダー 生徒達の空染のブレスレットが反応して光っているわね。誰も気付いていないけど。
日和達クラスのひとりひとりが付けている空染のブレスレットが、キラキラと光っている。青い龍を見る事で何か反応が起きているのだろうか。空を眺める生徒達は誰一人ブレスレットが光っている事に気付かず、空を見上げたままだった。
五重の塔の校長室の窓から筒眼鏡で空を眺める権堂校長がいた。
権堂校長 お~。何時ぶりですかのう。、見守っておられる。
桜餅先生の長きに渡る努力が実り、夏組1年生は青い龍を見る事ができた。感極まった桜餅先生は、祝いに1年生の皆に月餅のプレゼントをした。
・・・
日和は1年生を間もなく終えようとしていた。3月。日和は寮の部屋の机で家族に手紙を書いていた。1年間を振り返り、日和は今まででは考えられなかった出来事を思い出しては少し笑みを浮かべながらペンを動かしていた。無事に4月からは2年生へと進級する。手紙を書き終え封をし、1階の黒いポストにカチャンと入れた。夜空には三日月が昇っていた。




