第2章~青い龍・前編~
新入生歓迎会の翌日。
日和はふかふかの布団でぐっすりと眠る。身体をむずむず動かしながら机の上の腕時計を見る。朝の9時を短針が指していた。今日から授業が始まると、教科書と一緒に置いてあった新入生ガイドラインに書いてあった。開始は10時30分。それまでに支度を済ませなければと日和は重い身体を起こした。部屋にはトイレとお風呂が別々にあった。1階の食堂は時間こそ決まっているが、料理は無料でおかわり自由だ。歯を磨き髪をパパっと直した所で授業まであと10分。今日の授業の場所は寮1階のイートインスペースらしい。日和は部屋を出た。
日和 おはよう!
権太 おー!おはよ!
美代子 おっはー!
日和は権太と美代子の座るテーブルの席に一緒に座った。時間ぴったり。正面から先生らしき女性が歩いてきた。
カッカッカッカッ!
高いヒールが床を鳴らす。
陽光先生 新入生の皆さん!おはようございます!私は夏組担任の陽光と言います!よろしくお願いします!
生徒一同 よろしくお願いします!
陽光先生 はい!、ではこちらを見ながらお話させて頂きますね!
そう言うと、陽光先生は銀色の小さな筒状の物を手に持ち、何もない先生の左側の空間を見るよう指示した。すると、そこには半透明のスクリーンが現れ、そこには´´空の学校ガイドライン´´と表示されていた。
生徒 なんで空中に映像が?
生徒 最新技術なんじゃない?
生徒 すげー!
陽光先生 静かに(笑)!、授業のカリキュラムは年間を通して行う夏組の授業と1年毎に切り替わる季節の授業で進んでいきます。夏組の皆さんは、春夏秋冬の順で季節の授業が変わっていきます。次に空の話。この学校上空のエリアだけは、主に上級生達が管理を務め、夜間は私達教員が管理をしています。これは国公認のお仕事です。そして、地球の空の管理は日本にいる空人達が管理しています。空人になるには情熱の力が特に必要です。その意識レベルは、低・中・高の3段階。先生達はさらに上の極です。これからゆっくりと努力して積み重ねていきましょうね。
・・・
それから生徒達は、陽光先生から夏の城エリアの施設の位置や年間行事の紹介等がされた。説明をしっかり聞く者。ノートに落書きをする者。お尻が痛くなりもぞもぞする者。段々と生徒達の落ち着きがなくなってきた頃。
陽光先生 はい!、と言う事で説明は以上になります。わからない事や困った事があったら、私や他の先生、寮にいる先輩方に何でも相談して下さいね。ではー。もうお昼の時間だね。先生もお腹が空いてきたので、最初の授業はこれでおしまいです。午後の授業は、早速春の授業になるので時間と場所を忘れずにねー!
生徒一同 ありがとうございました!
そして授業が終わった時には、既に食堂はお昼ご飯を求める生徒達で賑わっていた。
美代子 ぶへぇー!お腹減ったー!
日和 すごい行列。早く行こ!
権太 どら焼きあるかなー?
・・・
美代子 ふぅー!ごちそうさまでした!
日和 ラーメン美味しかった~。ねえ美代子ちゃんは結局どんだけ食べたの?
美代子 え?ピザM5枚。
日和 M5枚!?
美代子 良いシェフだわ!、権太それで足りるの?
権太 どら焼きがあれば充分よ!
日和 権ちゃんは極端すぎる。、そうだ!午後の授業の場所はー?、西棟の前の広場だって。14時開始か。あと1時間位ね。
美代子 おかわりしてこよー!
権太 俺は昼寝でもするかー!
日和 美代子すごいね。うん。私も昼寝しとこー。
お昼ご飯を済ませた日和は、自分の部屋に戻り昼寝をする事にした。今日もまた手紙を書こう。そんな事を考えていたらあっという間に寝てしまった。
・・・
午後14時。夏のお城の西棟前の広場には、夏組の新入生と先生1名、助手2名が集まっていた。
桜餅先生 皆さん初めまして、かな?春組担任の桜餅です!春組の生徒からはもっちーと呼ばれています。先生は主に春のエリアにいますが、授業が組を越えるときはこうして色んな場所に移動します。皆さんは夏組だけど春の力も必要です。春組は蒼天を創る組。そして、授業をサポートしてくれる助手が2名いるので紹介します。まずは春組リーダーの青柳さん!
青柳リーダー 青柳です!よろしくお願いします!
桜餅先生 はい。その隣の風組リーダーの羽舞さん!
羽舞リーダー 羽舞です。よろしくお願いします。
助手の羽舞リーダーの右腰には、小さな銅製の虫籠がぶら下がっていた。青柳リーダーは手にタブレットPCを持っている。
桜餅先生 では授業を始めましょう!、まず初めに、3人グループを作って下さい!もし半端になってしまったら4人でも構いません。出来たグループはその場で座る。、じゃあ3分で作ってね、どうぞ!
日和は美代子と権太とグループを作り地面に座った。地面からは土と葉っぱの匂いがする。
桜餅先生 うん。優秀!3分かからなかったね。今日の授業は目を鍛える時間。皆さんが座っている地面を見て下さい。、三つ葉のクローバーが沢山ありますね。その中から、四つ葉のクローバーに擬態した蝶々を見つけて下さい。四つ葉に擬態した蝶々はグループの数に合わせて先に潜ませています。グループで協力して先に見つけたグループから今日の授業は終了。但し、制限時間はありません。捕まえるときは両手で優しく捕まえてね!、では、よーいスタート。
生徒達は一斉に地面に咲く一面のクローバーに釘付けになった。横一列で探すグループ。円を作って探すグループ。立ち上がって探すグループ。グループ毎に試行錯誤する時間が始まった。
日和 なんかクローバー探すの懐かしいかも。
美代子 のんきなこと言ってないで早く見つけないと、夜ご飯遅くなっちゃうよ!
日和 そだね!、やばいやばい!
権太 うーん。目がおかしくなりそう。
日和 権ちゃん諦めるの早いって!
桜餅先生 どうかなー。擬態を見抜けるかなー。
青柳リーダー 空染着けてないですからね。
・・・
達也 ちょっとシッ!、これじゃない?
達也は三つ葉のクローバーの中に、少し葉っぱが揺れている四つ葉のクローバーを見つけた。他のメンバーを静止させた後、達也は息を潜めて両手をゆっくりと四つ葉に近づけていく。
達也 入った!、蝶か?四つ葉か?
手の隙間から覗いてみる。すると、パタパタと動く羽が達也の手に当たった。
達也 捕まえたー!!
将生 よっしゃー!!
奈々(なな) 本当に!?いるー!
桜餅先生 第1号の四つ葉蝶々発見おめでとう!、じゃあ、羽舞リーダーの虫籠に入れてくれるかな?、はい。1抜けー!残りのグループも頑張ろうー!
徐々に生徒達の目が慣れてきたのか、第1発見から1時間が経った頃。グループは最初の数の3分の1まで減っていた。
日和 うそー!なんでみんな見つけてるの?
美代子 もうお腹空いてきた!イライラする~!
権太 ん?、あれ~?、これ四つ葉じゃ。
日和 美代子!シッ!権ちゃん見つけたかも。
美代子 うそ?、ゆっくり!落ち着いて!
権太は三つ葉のクローバーに重なる様に隠れた四つ葉をじっと見ていた。そして、ゆっくりと両手を近づけていく。
ブワンッ!
美代子 バカ!そんな力強く取ったら死んじゃうでしょ!
権太 あっ?ごめん。、でも、動いてるよ!
日和 見せて!、本当だ!やったね権ちゃん!!
美代子 あー!!よかったー!!ご飯食べれるー!!
桜餅先生 はい、おめでとう!じゃあ帰ってよしー!
・・・
そして、日和達が四つ葉蝶々を捕まえてから1時間後。最後のグループが四つ葉蝶々を捕まえて無事全グループが夜ご飯までに見つけることが出来た。
桜餅先生 諦めずによく頑張った!身体が冷えただろう。早く中に入って暖まりなさい!お疲れ様!
生徒達が寮へ向かう頃。桜餅先生は懐から平べったい金色の物と鈴を取り出した。
リンリンッ!
桜餅先生は鈴を鳴らした。すると、さっきまで地面に咲いていた三つ葉のクローバーが一斉に宙に舞った。
桜餅先生 うん。君達も素晴らしい擬態だった。お疲れ様。
そう言うと、平べったい金色の物を両手で左右に引っ張った。すると、金色の網目の虫籠に広がった。桜餅先生は虫籠の扉を開ける。宙を待っていた三つ葉蝶々が金色の虫籠に吸い込まれるように入っていく。
カチャン。
虫籠の扉が閉められた。
羽舞リーダー さすがに三つ葉も擬態である事に気付く生徒はいませんでしたね。
桜餅先生 うん。まだ始まったばかりさ。それにしても、オスは忠実だと思わないか?四つ葉に擬態したメスに認められようと、必死に三つ葉に擬態して動じない。俺もそんな立派な男になりたいよ。
青柳リーダー 先生は女性より桜餅の方が好きだから無理ですよー。
桜餅先生 ハハハッ!、たしかにっ!うまいこと言われてしまったな!
・・・
権堂校長は、独りで誰もいない静かな場所に来ていた。そこは少し薄暗く、外から指す光が足元を照らす程の明るさだった。部屋の中心には丸いテーブルが置かれ、そこに向かって伸びる細いタイル張りの床を歩く。丸いテーブルの上にはスヤスヤと眠る1匹の白い猫がいた。権堂校長はその猫の頭をゆっくりと撫でる。
ニャアァ。
権堂校長 ごめんよ、起こしちゃったかな。抱っこするよ。ほいっと。
白い猫は権堂校長の腕のなかで細い目でゴロゴロと喉を鳴らしていた。権堂校長は猫を赤子をあやすように身体を揺らしていた。そして、目線を猫からテーブルの向こうにある暗い空間に移した。
権堂校長 お!きょうは黄色と橙色のマーブルとな。疲れが溜まっておるのかのう。ほいっと。ありがとさん。
そう言って権堂校長は来た道を戻って行く。丸いテーブルの暗かった空間に、大きな壁の様な物が浮かんでいた。そこには黄色と橙色の絵の具を水に溶かした様な模様が動いていた。そして、権堂校長がその壁に背を向けると、空間に溶けるように壁は消えていった。権堂校長の足音がタイル張りから水面に伝わり、その波紋は部屋の中心と入口を繋ぐ一本道以外の水を揺らしていた。
・・・
四つ葉のクローバーの授業の2日後。
日和、美代子、権太は午前授業を受ける為に西棟2階の家庭科室にいた。そこには、色とりどりの布生地や裁縫道具が壁一面に敷き詰められていた。
ガチャッ!
家庭科室の教壇の後ろ側の扉からカラフルなターバンにメガネをした女性が現れた。
布袋先生 はいっ!皆さん席に着いてください!初めましてですね!私は家庭科の布袋と言います。よろしくお願いします!
生徒全員 よろしくお願いします!
布袋先生 今日はですね!こちらの糸を使って、先生が今手首につけてる様なブレスレットを作ってもらいます!
そう言うと、布袋先生は透明のビニールに沢山の白い糸が入った袋を各テーブルに置いていった。
布袋先生 この白い糸は空染糸と言います。一本ずつ皆さん手に取って見て下さい!これは、空染職人さんが丁寧に作ってくれた糸です。今、窓側の席に座ってる人だけ、ちょっと窓を開けて糸を空にかざして見て下さい!
そう言われ、窓側の席に座る生徒は立ち上がり糸を空にかざす。
布袋先生 はい!すると、さっきまで白かった糸が空の色を吸着して糸の色が変化してると思います。どうですか?
生徒 え?すごい!私の水色になった!
生徒 私のは黄色い!
生徒 俺のは青!すげー!!
布袋先生 それは糸が空からの色や光を受ける角度や空気中に含まれる成分の状況によって様々な色に変化します。今回は、ここにある48色の空染糸を使って自分だけの空染ブレスレットを作りましょう!
すると、窓側の席に座っていた生徒に続き、他の席に座る生徒達も糸を持って窓側に殺到した。その間に、布袋先生は各テーブルに48色の糸を綺麗に並べていく。
布袋先生 好きな色だけでなく、組み合わせた色合いのバランスも考えながら作ると美しくて良いでしょう!、ブレスレットは首や手首、足首等の自分が着けたい所に飾ってみて下さいね!完成したら先生の所に見せて下さい!写真を取りますよ!
日和 えー?どうしようかなー。
美代子 私は足首に着けるわ!ご飯食べるときに気にならないから。
権太 青が良いかなー。
・・・
布袋先生 はーい。出来たのね!見せてちょうだい!
日和 はい!
布袋先生 4色にしたのね!綺麗に編み込めてるわー!桃色、藍色、黄色、黒色ね。手首にしたのね!はい!じゃあ、腕の所写真撮るわね!、OKよ!じゃあ片付けておいで!
・・・
布袋先生 次はあなたね!どれどれー!
美代子 私のは足首に!
布袋先生 あらー!良いじゃない!茜色に白色が入って、その足に合ってるわ!!
美代子 うそー!ありがとうございます!!
布袋先生 写真撮るわよ!、はい!OKよ!
・・・
布袋先生 出来たー?見せて見せて!
権太 どうぞ!
布袋先生 あらー。格好良いじゃない。同系色なのに飽きないわー!
権太 群青、藍色、水色です!
布袋先生 素晴らしい!写真を撮るわ!はい!OKよ!
・・・
布袋先生 はーい!皆さんお疲れ様!個性的な作品を沢山見れました。素晴らしい!、その空染糸は、これからの学校生活の中で皆さんを助けてくれる存在になっていきます。私はこの糸の持つ力を´´情熱の補助力´´と読んでいます。7年生頃になれば、空染糸の力を借りなくても自分の力だけで様々な事に挑戦出来るでしょう。悩んだときや頑張っているとき、必ずこの糸が皆さんの事を守ってくれることを願っています!、今日はここまで。ありがとうございました!
生徒全員 ありがとうございました!
日和は家庭科室からの帰り道、自分で作ったブレスレットを満足気に見ていた。他の生徒も友達同士で見せ合う者。力作を自慢する者。編み方を学ぶ者。自分の宝物が増えた喜びを共有していた。
・・・
4月の空からは暖かな春風が吹き、満開の桜の木が心地良さそうにゆっくりと揺れていた。夏のお城の東棟前広場に集まる1年生達。桜餅先生の午後の授業が始まっていた。
桜餅先生 青柳リーダーと羽舞リーダー、上空の成分バランスの解析はどうだい?
青柳リーダー 風が少し強いせいか、水素が減っています。
桜餅先生 うん。羽舞リーダー、水蝶を飛ばそう。
羽舞リーダー はい!
そう言われ、羽舞リーダーは腰に着けていた虫籠を外し、中から水色に輝く蝶を6匹上空に放った。水蝶と呼ばれる蝶はひらひらと空に舞いながら上空付近まで来ると、きらきらとした鱗粉を羽から飛ばした。しばらく水蝶が飛んだ後、羽舞リーダーの虫籠に戻っていった。
桜餅先生 はい。調整ありがとう!、では皆さんお待たせしました。今日は凧を使った授業をやります。最初に3人グループを作ってもらい、その後各グループにこの凧を1つ渡します。今日は風が強めに吹いているので凧上げのコンディションもバッチリ!風を操る力を鍛えますよー!ではグループを作って下さい!
日和はお馴染みの権太と美代子とグループを作った。先生から渡された凧は三角形で白色の生地にタコの絵が可愛く描かれていた。
桜餅先生 良いかなー?、じゃあ順番に凧上げしていくので、4グループ毎に間隔を開けて横一列で飛ばしましょう。凧糸を引っ張る人は凧の前に。残りの人は凧を持ってスタンバイ!OK?、ではよーいドン!
4グループに並んだ生徒達が颯爽と走り出す。春風が凧を棚引かせていく。早くも1グループの凧が風をつかみフワッと空に上がった。他のグループも低さはあるものの凧が手から離れた。
桜餅先生 おっほー!、最初にしては上手いなー。先生がお手本見せる予定だったんだが。、そう!よし!、凧糸は伸ばしすぎないよ!キープして!凧と自分の角度を45度に!、無理に上げなくて良いよー!
それぞれのグループの凧が青空にまばらの高さで飛んでいる。次に続けと他のグループも挑戦していく。なかなか凧が上がらないグループ。隣の凧に糸が絡まるグループ。糸が切れて凧が空に消えてくグループ。空に泳ぐ凧に向かって生徒達の声が飛び交っていた。
美代子 日和!頑張って走れ!
権太 転けたら笑うね。
日和 頑張るー!いくよ、せーの!
タッタッタッタッ!
美代子 頑張れ!あとちょっと。
権太 おぉ、とっとっ、ぐへっ!
美代子 バカ!なんであんたが転けてんのよ!
日和 お、も、たっ!、上がった!
桜餅先生 良いねー!、なんか先生、お正月の凧上げを思い出すよ。
青柳リーダー この光景なんか良いですよね。私も子どもの時、両親とよくやってました。
桜餅先生 君達だってまだ子どもでしょー。先生なんかは100連凧作って友達と川原で飛ばしてたっけ。
羽舞リーダー キモいですね。
桜餅先生 ハハハッ!ハハハッ!、うっぅっ。キモいって言われた。ぐすっ。久々にそんな言葉言われた。ダメなの?100連だよ?
青柳リーダー 先生!大丈夫ですよ。カッコいいです。ほら!授業中ですから!
桜餅先生 うん。ガンバル。
桜餅先生は足元に用意していた角材を持って広場の中央に置いた。角材には、7色の風船がそれぞれ糸に結ばれ浮いていた。
桜餅先生 今度は、凧上げに自信のあるグループ!2グループ出てきてくれないか?
達也 うちのグループやります!
桜餅先生 よし!あと1グループ!いるかー?
美代子 日和上手かったからやろうよ!
日和 えー?大丈夫かな権ちゃん転けてたし。
権太 大丈夫だよー!
美代子 よし!先生!私達やりまーす!
桜餅先生 ありがとう!、じゃあ、先生が今立っている所の上空に凧が上がるように凧上げしてくれるかー?
そう言われ、代表の2グループは前に出て凧上げを開始した。日和はまた全速力で凧糸を引っ張る。2つの凧は先生を中心にして、上空の左右に高く上がる。
桜餅先生 OK!、それでね、皆さんの凧の先端には薔薇のトゲが付いてます。今から先生がハサミでここにある風船を1個ずつ空に飛ばします。自分達の凧を使って風船を割った数で勝負します。わかった?
代表2グループ わかりました!
桜餅先生 1個目いくよー。はい。
チョキンと先生がハサミで糸を切ると空に青色の風船が昇っていく。日和は凧糸を動かして何とか風船を狙う。風船との距離感と遠近感が噛み合わず青色の風船は2つの凧の上空に消える。
桜餅先生 次からは青柳リーダーに切ってもらうよー!、はい、お願いします!、僕はあっちに行ってくるから!
青柳リーダー はい!、じゃあ2個目いきまーす!
緑色の風船が空に上がる。先生はその間、日和達のグループまで走って行った。どちらのグループも風船を割ることができず、また風船は姿を消した。
青柳リーダー 3個目いきまーす!
達也 これむずいなー!
日和 もう、手が痛い。
すると、先生が日和達の所まで到着した。先生はズボンからハサミを取り出して日和に近づく。
桜餅先生 ふーう。さすがにこの距離を走るだけでも疲れるもんだ。、うん。凧が良い位置飛んでるね。、よし!糸切るねー!
日和 え?、先生?
チョキン。
桜餅先生 風を感じて。
日和 風を感じる?
そして、先生はすぐに達也の元へ行き、同じく凧糸を切った。
桜餅先生 空に飛ぶ凧に両手をかざしてごらん!、今まで手に感じていた風の抵抗が伝わってくるはず!
日和と達也は両手を凧に向ける。凧が糸を切られ下に向いていたのが、くるっと上向き三角形のまま位置をキープした。
達也 なんだよこれ?手が引っ張られる感覚。
日和 うそ!手を動かすと凧も動く。
美代子 マジ?楽しそうじゃん!
青柳リーダー 4個目いきまーす!
黄色の風船が空に上がった。達也と日和は違和感に動揺しながらも風船を狙う。だがなかなか凧がクネクネと動き風船に当たらない。そして、2つの凧は地面にザザッと落ちてしまった。
桜餅先生 うーん。集中が足りなかったかな?、でもよく頑張った!皆さん凧上げしてくれた2グループに拍手ー!!
パチパチパチパチッ!
初めて見た光景に生徒達はざわめいていた。日和は手に感じた違和感を振り払うように両手を振った。その時、ふと右手首に着けていたブレスレットがキラキラと光っているように見えた。だがすぐにその光は消えた。
権太 すげーじゃん!日和!凧を操ってた!
美代子 マジ今度は私にやらせてー!
日和 すごい変な感覚だった!
桜餅先生 よーし!次、別のグループで我こそはってグループいないかー?
・・・
5月。桜の花びらは散り、新緑の芽が枝から茂り始めていた。夏のお城の西棟から、授業を終えた生徒達が外に出てきていた。
権太 ああぁぁあ~無理だー!星座覚えられませーん!
日和 ガッツで!、陽光先生言ってたね。でも権ちゃん来月だよテスト。
権太 いや、そんな事言ってたらあっと言う間に来ちゃうんだよ!
日和 たしかに。美代子は大丈夫なの?
美代子 私暗記はマジ得意。食堂のメニュー全部覚えてるから!
日和 うっそ!私も早めにやっとこ。
美代子 それよりも私は凧上げの技を磨きたいわ!
権太 日和!もちろん手伝ってくれるよね?友達だもんね?
美代子 権太、私が教えてあげようか?
権太 美代子は教え方が下手そうだから遠慮しておくよ。
美代子 はあ?
日和 権ちゃん!私も自信ないから一緒にやろ!
権太 うん。88個の星座覚えるのに何個どら焼き必要かなー?
美代子 ほんとバカ!
・・・
カッカッカッカッ。
柿原先生 あら陽光先生。
陽光先生 教頭先生!
柿原先生 新1年生はどうですか?
陽光先生 はい!皆元気にやっています。ただ、今は星座の授業で名前覚えに苦戦しているようで。
柿原先生 星座ですか。カタカナばかりで頭に入っていかないでしょうね(笑)。
陽光先生 ブーイングの嵐です。
柿原先生 うん。頭の柔らかいうちが華ですからね。ではまた!
陽光先生 はい!
カッカッカッカッ。
・・・
日和のクラスは星座テストの6月を迎えた。88問の星座線を陽光先生が教室の空間に順番に映し出していく。一部穴埋めで出題される星座もあるが、ほとんどが星座線のみの出題だった。
陽光先生 はい、時間です。ペンを置いて、一番後ろの人は前の人の答案用紙を回収して下さい。今日の午後の授業が終わる頃には採点して皆さんにお渡しします。今日はお疲れ様でした!
・・・
そして、午後の春の授業が終わり日和達は教室へ戻る。
陽光先生 はーい!、では、今から星座テストの答案用紙を返却します!前にも話しましたが、30点以下は赤点再テストになります!再テストは1週間後の今日です。じゃあ、順番に呼んでいきます。将生くん!
先生に呼ばれ、順々にテストの結果を生徒達は受け取っていく。頭を抱える者。ほっと胸を撫で下ろす者。ガッツポーズで天を仰ぐ者。そして、その時が近づいてきた。
陽光先生 日和さん!
日和 はい。
陽光先生 はい。、次は美代子さん!
美代子 どうだった?
日和 大丈夫、60点。
美代子 良いね!
陽光先生 はい。よく頑張った!
美代子 おー!81点!
日和 さすが美代子。
陽光先生 奈々さーん!、はい。、次、権太君!
権太 いやぁ。
陽光先生 ちょっと苦手だったかな?引き続き勉強を!
権太 はい。え?
美代子 権太!、なんか手が震えてるけど。何点よ?
日和 どっち?セーフ?赤点?
権太は答案用紙に両目が吸い取られるのではと思うほどに目を見開いていた。唇は震え、顔は硬直。身体をプルプルさせていた。
権太 3、、3、、31点、だ。、ふぇーー!!!
日和 権ちゃんやったじゃん!
美代子 間がマジうけるんだけど(笑)!バカに毛が生えたわ!
陽光先生 はい!静かに!、席に着いてー!あんまり時間がないのでダイジェストでテストの解説していきます!、まず1問目の答えは、キリン座ですね。、、、
・・・
日和のクラスを悩ませた星座の授業の6月が終わるも、7月の空は梅雨がまだ明けず曇天模様だった。




