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第一章 第3話【地上へ】

新暦522年5月21日 

 首相演説から1週間が経ち、兵役志願者の招集日となった。

 私物の少ない部屋を片付け、身支度を整えると、一人、部屋を出るツクモ。

 街中から兵役志願者がポツポツと現れ、首相官邸へと通じるメイン通りに列をなす。

 そこには、ツクモはもちろん、ナガトやあの不思議な少女の姿もあった。

 そんな人混みのなか、ツクモとナガトは合流するが、会釈程度の挨拶を交わすだけで、2人とも何も喋ろうとはしなかった。

 

 首相官邸へ到着すると、それぞれ官邸前に設置されたゲート前に立ち、PITを通じて志願表をゲートに向け送信すると、赤く光っていたゲートのランプが緑色に変わり、奥へ進むよう制服を着た男に促される。

 それから志願者たちは、身体検査、運動能力検査、そして学力検査を受けるという流れであったが、志願者の数は多く、すべてが終わったのは夕方のころであった。

 すべての検査が終了し、志願者一同が首相官邸の大講堂に集まる。

 地下都市最大の大講堂に志願者がひしめき合う。

 その数は2000人というところだろうか。 


 そんな志願者の前に現れたのは、どこか見たことのある、かなり大柄な中年男性とやせ細った高齢の男性であった。

 大柄な男はシェルター997の防衛警備省大臣デッカー・マッカートニー、高齢の男は外部調査省大臣マサノリ・ウルシバラである。

 マッカートニーは志願者の前に立つと、その大柄な見た目とは裏腹に、静かに話始めた。

「私は、防衛警備省大臣デッカー・マッカートニーである。

 この度は、我がシェルターの繫栄、発展のために兵役任務に志願してくれて、感謝する。

 皆の任務は、先日首相から話があったとおり、バルトス公国と協同し、地上文明を奪還することである。

 それに伴い、我がシェルターの防衛警備省と外部調査省を合併した特別部隊を編成することとなった。 

 ここに集まったものは皆、本日より【シェルター997特別外部調査部隊】に任命する。

 これより、配布するネームプレートに刻印された配属部隊に別れ、詳しい説明を受けてもらう。

 私からは以上だ。」

 簡潔な挨拶を終えると、2人は壇上から去って行く。

 志願者は順次ネームプレートを受け取ると、それぞれ指定された部屋へ向かうこととなった。

 ツクモの配属は【一番隊一班】であった。


 一番隊に配属された者たちが、指定された部屋に集まる。

 正面に大きなモニターだけがある、殺風景な部屋だった。

「おーい、ツクモじゃねぇか!」

 静かな部屋の中に、聞いたことのある声が響き渡る。

 声の主は、ツクモと同じ最下層開発員の男、ウィンストン・モルドムである。

 モルドムは、ツクモより少し年上の26歳であるが、26歳とは思えないほど老けた顔立ちをしており、ツクモにグリッドの操作を教えた張本人である。

「モルドムさん、、、。」

 ツクモも兄貴分であるモルドムを慕っていたが、周囲の目が集まる中、これが限界であった。

「お前も志願していたのか!以外だったな!まだ第八にいるのか?」

 周囲の目など気にもしないモルドムが、無神経に問いただす。

「えぇ、まあそうです。」

 一刻も早く、この場を離れたいツクモが苦し紛れに答えるが、モルドムの追撃がくる。

「悪いなぁ、俺が第六に異動になっちまって、仕事はうまくいってるか?友達はできたか?」

 顔から火がでそうなツクモを助けるかのようなタイミングで部屋の扉が勢いよく開く。

 そこに現れたのは、制服を着た、厳しい目つきの女性であった。 

 

 一瞬にして静まり帰った部屋の中に、その女の履くハイヒールの足音だけが鳴り響く。

「一番隊指揮官に任命された、ナナオ・カイラだ。」

 正面の壇上に上がり、唐突にそう言い放つと、淡々と説明を開始した。

「我々、特別外部調査部隊一番隊は、全8班、計72名で構成され、配属基準は本日実施した検査結果から総合的に判断し、【コンバットキャリアー】搭乗の適正が高い者を選考した。

 コンバットキャリアーとは、先日我がシェルターにやってきたバルトス公国の使者が乗っていた、あの巨大なロボットのことだ。

 コンバットキャリアーのパイロットは、2名で1組、1名が機体を操縦し、もう1名が機体の制御を担当することとなる。

 組み分けについては、すでに決まっているので各自確認し、挨拶程度はしておくこと。

 バルトス公国の軍事機密に関わることにつき、詳細については、バルトス公国に着いてから説明を受けることとなる。よって、明日午前7時、防寒対策を徹底した後、特別区ゲート前に集合、本日はこれで解散とする。

 以上だ。」

 沈黙する一同を後に、部屋を出ようとするカイラ。

「俺たちがバルトス公国に行くっていうことなのか?戻って来るのはいつになるんだ!」

 50代くらいの男が声を荒げる。

「そう言ったつもりだが?」

 カイラは、男の顔すら見ず、そう答えると、部屋の扉に手をかける。

「それと、私は貴様らの上官だ、口を慎め。」

 そう言い放つと、部屋を後にした。

 バタンと扉がしまる。

 それ以上、苦言を訴える者はいなかった。

 

 部屋の片隅にいた、制服を着た男が組み分けを発表する。

「私が副指令のマルコス・ミラーだ。これより班編成を発表する。

 第一班

 1番ユウキ・イガラシ

 2番レフ・ポルナレフ

 3番ウィンストン・モルドム

 4番ユイ・カコイ

 5番ユウマ・ツクモ

 6番ディストリア・クレア」

 名前の呼ばれた6名が集まり顔を合わせると、その中には先日のあの不思議な少女もいた。

「え?!」

 咄嗟に出てしまった声に、思わず口を塞ぐクレアは、酷く緊張した様子で気まずそうに笑った。

 それぞれが自己紹介をする間もなく、次の班の発表が始まってしまう。

「ディストリア・クレアっていいます。よろしくお願いします。」

 他の班の組み分けが発表される中、小声で話すクレア。

「まさか、お前も一番隊にいたとは思わなかった。

 ユウマ・ツクモだ、よろしく頼む。」

 珍しく気の利いた言葉がでるツクモに、安心したのか表情が和らぐクレアであった。

 すべての班員の発表が終わると、各班で集まり、簡単な自己紹介が始まった。


「一班の班長を任命された、1番員ユウキ・イガラシだ、よろしく頼む。」

「イガラシさんのペアになりましたー、2番員レフ・ポルナレフです、よろしくお願いしますー。」

「3番ウィンストン・モルドムだ!こう見えてまだ26歳だ!んで、こっちが、俺のペアのカコイだ!」

「先に言わないでくださいよ~、4番員のユイ・カコイです、よろしくです。」

「5番ユウマ・ツクモだ、よろしく頼む。」

「ろ、6番員!ディストリア・クレアです。ツクモ君のペアを務めさせていただきます!不束者ですがよろしくお願いします。」

 各々の個性があふれる自己紹介を終えると、皆早々に解散し、最後の夜を少しでも長く過ごそうと、家路を急いだ。

 

~翌日~

 午前7時少し前、一番隊の面々が特別区ゲート前に集まる。

 昨晩、家族との別れを済ませてきたためか、皆の顔は昨日より少し軍人らしくなっていた。

「ツクモ君、おはよう。」

 モコモコの毛皮コートを着たクレアがツクモに挨拶する。

「ああ。」

 いつも通りのツクモである。

「なんで、こんな暖かい格好なんだろう?」

 クレアが独り言のように言う。

 シェルターの中で生活が完結しているためか、外が極寒の世界であることを知らない人は少なくない。

 むしろ、今の外の世界を知るのは、特区開発作業員とその家族くらいなもので、地上に無関係な人々にとっては、どうでもいいことなのであった。

「外はマイナス30度はくだらない寒さだ。大きく呼吸すると肺が凍るぞ。」

 特区開発作業員の父から話を聞いているツクモが親切に教えるが、マイナス30度というあまり聞き慣れない数字にクレアは、

「ふーん。」

としか、答えることが出来なかった。


 午前7時になり、重厚なゲートが開くと、一番隊の目の前に、直径20mほどの円形の空間が現れ、10人ほどの制服を着た男たちと、カイラ指令がそこにいた。

 そこは、地上に向かう唯一のエレベーターであった。

 一番隊は列になり、制服を着た男たちから、簡易酸素マスクとゴーグルを支給されると、それを着用するよう促され、皆、慣れない手つきでそれらを装着する。

 外の世界ではこれがないと、呼吸すらままならないのだ。

「各班ごとに集まっておけ!」

 カイラが叫ぶと、昨日の記憶を頼りに、各班員が集まりだす。

 司令官カイラ含め、一番隊がエレベーターに入ると、ゲートがゆっくりと閉まる。

 エレベーターが地上に向かって動き始めると、皆の視線が自然と上に向かい、すすり泣く者もいた。

 地上に向かうにつれ、気温が下がっていくのがわかる。


 3分ほど経ったであろうか、エレベーターが止まる。

 再び、目の前のゲートが開くと、一気に気温が下がり、吹雪が入り込む。

 思わず顔を覆う一同。

 そして、吹雪が弱まり、視界が開けると、そこには、氷と雪に包まれ、生命感とはかけ離れた、白銀の世界が広がっていた、、、。


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