第一章 第2話【不思議な少女】
首相演説の翌日、シェルター997は朝から酷く混乱していた。
首相官邸にはデモグループが押し寄せ、それに伴い、シェルター中の店舗や開発地区の作業もストップしていた。
急遽仕事が休みになり、暇を持て余したツクモは、何気なく第八区に向かっていた。
ツクモが仕事をしているのは、地下都市最下層西側の開発地区、最下層は一部の作業員のみが立ち入りを許可されている地区であり、ツクモもその一人である。
人がごった返す居住地区を離れ、人の少ない最下層はツクモにとって、一人になれる良い環境であった。
首相官邸に向かうデモグループを横目に、ツクモは最下層へと降りて行く。
最下層入口のゲートでツクモのPITが認識されると、ゲートが開く。
「オハヨウゴザイマス。」
機械的なアナウンスが鳴る。
最下層の最上層部、第一階層の直下、ここには、パイプラインが複雑に張り巡らされており、その一角には人が2、3人ほど座れる小さな甲板があった。
地上40m程高さから、最下層を一望できて、静かになれるツクモお気に入りの場所だった。
しかし、今日は先客がいた。
ツクモの幼馴染テツロウ・ナガトである。
無言でナガトの横に腰掛けるツクモ、しばしの静寂の後、ナガトが口を開く。
「挨拶のひとつもないのか?」
「ああ。」
「ああ、じゃねえよ。相変わらずだな。
お前は、兵役どうするんだ?」
しばしの沈黙の後、ツクモが口を開く。
「ナガトは地上って見たことあるか?」
「地上かぁ、んなもん見たことあるわけないだろ。
なんだ、ツクモは地上に興味がある口か?」
「俺の両親は地上で死んだんだ。
そんな地上を少し見てみたいだけだ。」
「そうか、そういえばツクモの両親は特区開発員だったな。」
特区開発員とは、地上の調査、開発を生業とする、上級作業員のことである。
しかし、地上の調査は難航しており、未だその全貌は明かされておらず、ただいたずらに、作業員の死亡報告だけが度々公表されるだけであった。
「天井のない世界があると、親父はいつも言っていた。
それを下手くそな絵で俺にいつも見せてきたが、それが昨日の映像でようやくわかった気がするんだ。」
「そっか、、、。
なら、俺も行くぞ。」
少し驚いた顔でナガトを見るツクモ。
「行きたいんだろ?地上に。」
不器用なツクモの心境を見透かしたように答えるナガト。
しかし、どこか心ここにあらずなツクモに、少し不満げに、ナガトが口を開こうとすると、ツクモが突然最下層へ降りて行く。
「お、おい、どうしたんだよ?!」
そう言うナガトの声はもう届かないほど下に降りてしまったツクモ。
その先には、作業用ロボットのグリッドがあった。
ギギギギと、鉄が折れ曲がる音が聞こえ、ナガトの視線がそちらに向かうと、そこには、最下層の壁面から突き出した鉄骨にぶら下がる同じ歳くらいの少女がいた。
状況をようやく理解したナガト。
グリッドに乗り込んだツクモは起動シーケンスも終わらぬグリッドを動かし、壁面に張り巡らされ配管をよじ登り、少女のもとへ向かう。
徐々に腕に力が抜け、少女の顔が引きつる。
「ツクモ!こっちだ!」
クレーンの操縦室からナガトが叫ぶ。
ナガトはクレーンを操作し、ツクモと少女の間に一本のワイヤーを下したのだ。
ツクモは配管から、ワイヤーに向かってジャンプした。
少女の手が鉄骨から離れる。
すかさず、大きく揺れるワイヤーから少女の方向へジャンプをするツクモ。
間一髪少女をキャッチすることに成功したツクモは、グリッドの背面に装備された、高所作業用の安全帯を射出する。
見事、射出した安全帯の先端が壁面に突き刺さるも、グリッドのジャンプした勢いは留まらず、そのまま壁面に衝突し、バキバキと壁面に設置された配管や機械類を破壊しながら、ようやく着地に成功する。
ショートヘアーのその少女は、グリッドの手の上で少しの間固まっていたが、ふと我に返りグリッドの手から勢いよく飛び降りると、深々と頭を下げた。
「す、すいませんでした!」
あまり、女性と話したことがないツクモはこういう場面で言葉がでない。
そこに、クレーンから降りてきたナガトがやってくる。
「大丈夫か!」
一切迷いのない清々しい一声を放つナガトに、思わず顔を上げる少女であった。
「はい、私は大丈夫です。
でも、ロボットが、、、。」
所詮は工事作業用のロボットであるグリッドに、壁をよじ登ったり、ジャンプするなどという機能は当然なく、グリッドのいたる関節部からはオーバーヒートのためか煙が上がり、壁面に衝突した背面は見るも無惨なほどグシャグシャに壊れていた。
「こいつは大丈夫だ、代わりはいくらでもある。」
そう言いながら、ツクモがグリッドから降りる。
「そんなことより、なぜあんなところに。」
ナガトの合流により、少し調子を取り戻したツクモが少女に対して問うと、すこし気まずそうな表情で少女が答える。
「ちょっと、考え事をしてたら、いつの間にかあんなところに、、、。」
何かの事件か、自殺なのかと予想していたナガトに思いもよらない返答がきたことで、笑いがこみ上げる。
「考え事しててなんであんなことになるんだよ?!」
笑いながらナガトが少女に問う。
「い、いや、地上の空は今どんな色をしてるのかなー?とか、空はどこまで続いているんだろうかなー?とか、空の端はどうなっているんだろうとか、考えていたらつい、、、。
私、いつもそうなんですよね、考え事を始めると周りが見えなくなっちゃうというか、それだけならまだしも、歩き廻っちゃう癖もあって、、、。
本当にご迷惑をお掛けしました!」
赤裸々に自身のことを話す少女に悪い印象は一つもなかった。
「まったく、変な奴だな~。
ほら、出口はあっちの階段だ、これからは、考え事をするときはしっかり安全帯とヘルメット着けておくんだぞ!」
「はい!」
ナガトのジョークに大きな声で返事をする少女は、少し天然なところがあるようだ。
少女は何度も頭を下げながら、階段を駆け上がって行った。
壊れてプスプスと音を立てるグリッドの傍らで、去っていく少女を見つめる2人。
「変な奴だな。」
「そうだな。」
ナガトがぼそりとつぶやくと、そっけない返事をするツクモであった。
第2話いかがでしたでしょうか?
少しロボットのアクションシーンなんかもあって自己満足です(笑)
このぐらいのペースで書いていければいいのですが、、、。
皆様の温かいご指導ご意見などお待ちしております。