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「わわっ!? うぅ、この服って歩きにくいのよね」


 森の中を俺を手にして歩くエミリアだけど、シスター服ってのを着ているから動きにくいらしい。女の刑事さん達は動きやすいようにズボンだったのに、どうしてエミリアはスカートなんだろう?


「えっと、聖女らしい服装ってこれだからって大司教様が……」


 変なの! エミリアしか聖女は居ないなら場に適した服を着れば良いのにさ。俺は毛皮があったから服は要らなかったけど、人間って場にあった服を着るんじゃないの? エミリアって本当に変わってるね。


「そ、そうかな? ジャックの話からしてずっと遠くの国から来たから常識が違うだけじゃ?」


 森の中は根っ子や枝が突き出してたりでエミリアは本当に歩きにくそうにしながら進んで、その途中で動きを止める。あれ? 何か見つけたのかな? 死体の臭いでも嗅ぎ取った? 人間なのに凄いね!


「そうじゃなくって、あの木になってるのって黄金のリンゴだなって驚いて」


 リンゴ? 俺、リンゴ大好き! 甘くってシャリシャリしていて美味しいんだ。森の中にあるなら食べても泥棒じゃないよね? エミリア、ご飯が少なかったんだし食べたら? 俺も物が食べられたら良かったのにね。


 あの太っちょの方が体が体が大きいけれど、子供にちゃんと食べさせるのは群れの大人の義務なのにエミリアは少し痩せている。だから折角食べる物が見付かって喜んだ俺なのに、エミリアは食べようとはしなかった。持って帰って太っちょっとかと分けるのかな?


「このリンゴは食べられないの」


 酸っぱいの? 腐ってる? そっかー。腐ってたらお腹壊すもんね。


「そうじゃなくて、中身まで本物の金だから食べられないのよ。黄金のリンゴが生る木を手に入れたら一生お金に困らないって聞いたけれど、まさか結界で入れない森の中にあっただなんて……」


 なーんだ、食べられないのなら別に良いや。早くお仕事終わらせて帰ろうよ。エミリア、お仕事って頑張らなくちゃ駄目だし、他の事をしていたら駄目なんだよ? 


「うん、そうね。じゃあ、帰ったら報告書に書くとして……誰!?」


 あっ、さっきから俺達を見ている変な連中? 虫くらいに小さい人間だけれど子供かな? 背中に羽が生えてるなんて珍しいね。


 エミリアはリンゴの木から離れようとして立ち止まる。さっきから俺達を遠くで眺めながら”人間だ”とか”逃げなくちゃ”とか小さい声で話していた連中に気が付いたんだね。何かして来そうにないし、見付けて居場所を教えろって言われてもないから黙っていたけれどさ。


 その小さな子供達はエミリアが叫ぶと驚いて逃げ出した。慌てて逃げたからか隠れていたのに飛び出しちゃって間抜けなの。それにしても変な連中だったなあ。


「よ、妖精!? えっ、嘘っ!? 絶滅したって聞いたのに」


 よーせい? よーせいってなーに?


「ジャックは妖精を知らないの? 森の奥にのみ住んでる種族で昔はお金持ちが鳥かごで飼ったり……血が凄く美容に良いからって乱獲された影響で居なくなったって話だったのに……」


 あっ、珍しいんだ。だから太っちょは森の結界ってのを壊せって言ったのかな? お金になるんだよね?


「……いえ、絶対に違うわ。最初に薬草とかが目当てって言ったじゃない。教会はお金じゃなくて信仰と人助けの為に存在するもの」


 太っちょは欲張りっぽいからエミリアに思い付いた事を伝えたけれど首を横に振って否定される。ジョニーや俺が居た警察だって人助けの為に存在したけれど悪い事をした奴も居たのにさ。変なの!


「そんな事よりも早く行きましょう。この奥に居る主を倒せば封印が解けて大勢の人を助ける事が出来る……」





「……成る程。我を殺し森を手にする為に来たか、小さき人の子よ」


 エミリアが喋ってる最中に空の上から現れたのは翼を持つデッカいトカゲ。わあ! おっきい!


「ド、ドラゴン!」


「この森は力無き者達の最後の安住の地。我が年老い封印が緩んだ事で進入を許したらしいが……老いぼれだと侮るな! 強欲なる者の遣いよ! その命の最後を持って警告としてやろう!」


 大きいトカゲは大きな口を開いて襲い掛かって来る。エミリアは驚きながらも俺を構え、森に入る時に感じた嫌な何かが俺の中に流れ込んで来た。





「ははははは! これで連中も喜ぶだろう。何せ伝承によって宝の山だと分かっていても今までの聖女では入れなかったのだからな」


「……」


 あのトカゲは強かった。でも、エミリアはもっと強くて、吐き出した炎に包まれてたり尻尾を叩きつけられても大きな怪我はせずに倒したんだ。でも、手とか顔とかに少し怪我している。大丈夫だって言ったけれど絶対嘘だ。


 ……倒れる瞬間、トカゲは妖精って連中に謝って、森の中から泣き声が聞こえて来た。


 エミリアが俯いたまま黙って森から出て来たら太っちょが出迎えたけれど顔とかに怪我をしているのに心配もせずに笑ってる。誉めさえもしなかった。


 俺、此奴は矢っ張り嫌いだ!


 エミリアは戦うのが怖かったんだぞ! 俺を持つ手が震えていたんだ。


 エミリアは大きいトカゲが死んだ事で泣く妖精の声を聞いて悲しんでいたんだ。


 なのにお前は心配もしないし誉めもしない。言葉の一つすら掛けないなんて変だよ。お前に頼まれた仕事をしたんだぞ!


「え、えっと、大司教様……」


 ちょっと俺の言葉に何か思ったんだろう、エミリアは太っちょに話しかけようとして、その言葉は驚愕の叫びでかき消された。


「なっ!? どうして聖女に意識がある!? 聖杖を通して聖力を使ったなら……」


「え? それって一体……」


「い、いや、気にしなくて大丈夫だ。ご苦労であった。神殿に戻って休みなさい」


 ……変なの。エミリアの意識があるのがどうして不思議なんだよ。絶対何か隠してるな!


 うーん、怪しいから言う事を無視させなくっちゃ。だって俺の方がエミリアよりも順位が上だし、だったらジョニーが俺を守ってくれたみたいに俺もエミリアを守らないとね。







「……それは駄目なの。私は神様に選んで貰った聖女だもの。ちゃんと与えられた聖力を使い切るまでに一人でも多くの人を助けて神様に迎え入れて貰うの。そうしたらきっと家族と過ごせるから。……私ね、家族の顔も知らないの。ずっと聖女としての勉強ばかりだったから」


 なのにエミリアったら俺の言う事を聞かないって言い出すし、それに神様に命令された訳でもないのに変だよ。矢っ張り人間って変!


 その夜も少ないご飯を食べたエミリアは小さなベッドで眠る。どうしてか外から鍵を閉められてドアの向こうには誰か立っていて嫌な感じだ。



 そんな時……。






「やあ、ジャック。神である私と神殿を散歩しないかい? まあ、神殿とは名ばかりで、この世界の住人が崇めている神なんて実際は存在していないんだけれどね。だって世界を管理しているのは私なんだからさ」


 え? やだ。お前も嫌いだもん。




 

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