中
最初は理想を忘れた汚職警官の予定でしたが犬にして良かった
転生で結構多い、此奴社会人らしくないって感じの言動も犬ならセーフ
どうやら俺が知っている国とは全く別の所らしい。ジョニーが言っていた地名についてエミリアは全然知らなかったし、街を見ても俺が暮らしていた街とは建物が全然違う。俺、あの飛行機っていう巨大な鳥に乗って遠くに来たのかな?
それにしても犬だった俺が杖になるだなんて変な病気になっちゃったよ。ジョニーが知ったら心配しそう。……前に調子を崩した時にブスッと痛いのを刺したりする変な臭いの所に連れて行かれるのかな?
「え、えっとジャックは犬だったの? 凄い! 転生って本当にあったんだ! なら、私だって……」
てんせー? 転生って何だろう? それにエミリアったら少し悩んでいる風に見えるな。所で聖女とか聖杖って何か教えてよ。変な病気だったら詳しく知りたいしさ。
「知らないの? だったら教えてあげる。聖女ってのは神様に選んで貰った存在で、与えられた魔力って力を使って大勢の人を助けるの」
人を助ける? 俺と同じだな! 俺もジョニーと一緒に悪い奴を捕まえてたんだぞ!
「そのジョニーさんってジャックの家族なの?」
うん! ジョニーは俺の群れの仲間でボスさ。凄く頼りになるんだよ。汗と煙草の臭いは嫌いだけれど、俺はジョニーが大好きなんだ。
「……良いなぁ。あっ、そうだ。それで聖女についてなんだけれど……あっ」
突然エミリアのお腹が鳴る。お腹が減っているんだね。じゃあ、聖女とかについては今度で良いからご飯にしよう! ご飯ご飯! 俺、お肉が沢山食べたいな!
「そういえば今朝から儀式とかでご飯食べさせて貰ってなかったな。……所でジャックってどうやってご飯食べるの?」
え? そりゃあお皿に食べ物を乗せて床に置いてくれたらガツガツ食べるよ? エミリアってご飯を食べる犬を見た事がないの?
「うーん、そうじゃないんだけれど。じゃあ、取り敢えず行こうか」
エミリアってば変な感じだな。何か困った様子で杖になった俺を持ったまま水の中に入って進む。エミリアの膝上まで水があるから流れが遅いけれど歩きにくそう。エミリア、俺って水に落ちた人間を助ける訓練だって受けているから安心してよ。水は苦手だけれど助けてあげる。
「そ、そう? じゃあ期待してるわね」
任せといて! 何だか良く分からないけれど、エミリアって俺と一緒に行動するんでしょ? だったら今日から群れの仲間だよ。
「……そっか。私、ジャックって家族が出来たんだ。初めての家族が……」
でも俺の方が上だからね! 俺の言う事を聞かなくっちゃ駄目だぞ!
所で俺が初めての家族ってどうしてだろう? 俺にはジョニーが居たし、普通人間って親が居るんじゃないの? 変なの!
「聖杖を手に入れましたか。これによって今この瞬間から貴女は聖女です。神から与えられた使命を果たす為、努力を怠る事が無きように」
「はいっ、大司教様!」
俺が居たのは地下室だったらしいんだけれど、水を渡りきった先の長い階段を上ったらぽっちゃりした男が出て来た。うげっ! 香水くさーい。
「では、早速人々の為に働いて貰いますが……ご飯にしましょうか」
話の途中で再び鳴いたエミリアのお腹。恥ずかしそうにうつむくのを笑いながら眺める太っちょはエミリアと一緒に建物の奥に歩き出した。わーい! ご飯だ、ご飯だ! ああっ!?
大変だ! エミリアエミリア! 大変だよっ!
「え? ど、どうしたの?」
俺、どうやってご飯食べたら良いんだろ!? 口が無いと食べられないよ。
ご飯が食べられないなんて悲しい! ジョニー、どうにかしてよ!
……よし。ジョニーに会えたら誉めて貰った後でご褒美にご飯を沢山貰うんだい!
「天上に君臨せし我等が神よ。今日も糧をご用意下さり感謝致します」
エミリアはご飯を前にして喋りだしたんだけれど、ご飯ってこれだけ? パンにサラダに具が少し入っただけのスープ。俺でも足りないと思うのにエミリアは大丈夫なの?
「うん、大丈夫。聖女は教会の所属だけれど教会の教えでは食事は最低限にするべきなの。だからお肉だって少し。……実は一度で良いからお肉や甘い物を食べるのが嫌になるまで食べてみたいんだけれどね」
ふーん。俺はお肉をお腹一杯食べた事あるよ。骨付きで美味しかった。
「良いなあ。って、駄目駄目! 私は聖女なんだから全部我慢!」
なんで?
「え? だって……」
なんで聖女は色々我慢するの? 俺には全然分からないや。人間って変なの!
同じ群れの仲間らしい太っちょからはお肉の匂いがしたのにエミリアだけ我慢なのは群れの順位が低いから? でも食べ物は分け合うべきなのに。ハンバーガーとか! ジョニーはハンバーガーはくれないけれど他の物なら沢山くれたのにね。
あと、太っちょってお酒臭かった。ジョニー達は昼間からお酒臭いなんて無かったのにね……滅多に。
「それでは聖女エミリア。最初の任務を言い渡します」
食べたばっかりなのに慌ただしいなあ。お昼寝もさせて貰えずにエミリアは太っちょと太っちょみたいな連中に呼び出されていた。何奴も此奴もお肉とお酒の匂いが残ってる。人間には分からなくても犬の俺には分かるぞ。
「南西の森に出向き、聖女に与えられし力である聖力で森の結界を破壊、奥に住まう主を倒して来なさい。結界の奥には貴重な薬草が存在すると判明しています。大勢の命を救う役に立つでしょう。貴女の全てを信じていますよ、聖女エミリア」
「はい!」
……此奴、嘘吐きだ。さっきエミリアが俺が喋る事を言っても気のせいだって言って信じなかった癖に。それに妙な事を言ってたよな。俺、耳が良いから小声でも聞こえるんだ。
”妙な事を言うが……まあ、良い。一度でも杖を使わせれば後は同じだ。今まで通り……”とか意味が分からなかったぞ。大体美味しい物をエミリアに分けなかったりとか、本当にエミリアの仲間なのかな?
うーん、怪しいぞ! 取り敢えず俺は此奴嫌い!
「きっと何かの間違いよ。だって大司教様って偉い人なのよ。長い間の功績で今の地位に居るのだもの。ジャックが嘘を言うとは思わないけれど勘違いは有るわ」
え~? 俺、折角心配して教えてやったのにぃ! 仲間って信頼が必要なんだぞ。俺の方が順位が上なのに生意気な奴。ふ~んだ、だったら何か知っても教えてや~らない。
その目的の森まで向かう途中、何故か木製な上に馬に引かせる変な乗り物に乗って居たんだけれど揺れるし跳ねるし乗り心地が悪いな。自動車に乗れば良いのに、どうして乗らないんだろう?
俺はエミリアが俺の言葉を信じなかった事や移動する間の最悪な乗り心地に腹を立てていた。
「此処が封印された森……」
森かあ。居なくなった奴や死体を探しに何度も来たっけ。他の犬よりも俺の方が優秀で一番誉められたよね。えっへん!
……所で森の周囲に見えない何かが有るけれどガラスかな? 少し寒いし氷かも!
近くで匂いを嗅いだりしたいけれど自由に動けないのがもどかしい。エミリア! 早く早く! 近くに行こう!
「……うん、分かってる。ちゃんとお仕事を終わらせて大勢の人を助けたら神様が迎え入れてくれるから頑張らないと」
エミリアは真剣な声で俺を見えない何かにそっと当てる。冷たくないからガラスかなって思った時、エミリアから俺に何かが流れ込んだかと思うと俺達は見えない何かを通り抜けた。
び、びっくりした! 何だったんだろう、今の?
「これが聖女と聖杖の力よ、ジャック。結界の一部を無力化したの。じゃあ、行きましょう」
成る程……全然分かんない!
所であの偉そうな太っちょは来ないんだ。じゃあ、本当に彼奴はエミリアの仲間じゃないな!
それにしてもエミリアから流れ込んで来た何かだけれど、嫌な予感がするなあ。雨でも降るのかな? 俺、ずぶ濡れになるの嫌い!
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