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 俺が頑張れたのは彼奴が誉めてくれるからだった。だから俺は何にだって一生懸命になれたのに……。


「よーし! 今日からお前も俺達の仲間だな。正義の為に頑張るんだぞ」


 彼奴の名前はジョニー。少し汗と煙草が臭う髭面の男で、出会ったばかりの俺の頭をワシャワシャと撫でて来た。最初の印象は”少し嫌な奴”、だけれど俺は彼奴と一緒に居る事になったから面倒だったよ。


「良し! 良い子だ、ジャック! お前は賢いな!」


「……」


「良くやった! その辺の新米より優秀だぞ」


 俺の名前はジャックで、ジョニーは警察官。俺達は相棒って奴らしい。要するに俺とジョニーは仲間って事だよな? 彼奴は俺が頑張ったら直ぐに誉めてくれて、少しずつ仲良くなったんだ。


 ジョニーとの生活は楽しかったし、食べさせてくれる飯も美味かった。相変わらず汗と煙草の臭いがキツかったけれどな。


「……エレン」


 俺とジョニーが一緒に家で居る時、ジョニーは何時も飾ってある写真を眺めていた。誰かの名前を呟いて少し寂しそうに見えたから俺は近くに寄り添ったら無言で頭を撫でて来た。何時もは誉めてくれる時にするんだけれど、この時は少しだけ違って……。



 ジョニー。俺はさ、お前が誉めてくれたそれだけで良いんだ。仲間の為に何かするのが俺の生き甲斐なんだからさ。




「ジャック……追え!」


 この日、俺とジョニーは何時もの通りに悪い奴を追っていた。痕跡を追い、何度も誉めて貰った通りに見付けた。彼奴はジョニーが嫌いな奴、つまりは群れの敵。仲間の敵は俺の敵なんだからさ。



「うおっ!?」


 何度もジョニーと練習した通り、俺は悪者の腕に飛び付いた。痛みから銃を落とした其奴をジョニーが取り押さえて手錠を掛ける。やった! 今日も頑張ったぞ、俺!


「今回もお手柄だな、ジャック。良い子だ」


 ああ、嬉しいなあ。俺が頑張ればジョニーは直ぐに誉めてくれるんだから。それに最近は仲間の一人のシンシアとジョニーが仲良くやっているのを俺は知ってるよ。他の皆の前では前と同じなのに、俺を置いて出掛けた時はシンシアの匂いを付けて帰って来るし、彼女が家に遊びに来る事も多くなった。


 俺、シンシアも好き! それにジョニーが幸せそうにするのも好き!


「ほら、さっさと立て。仲間について教えて貰うからな!」


 捕まえた後も暴れる悪者をジョニーが連れて行こうとした時だった。物陰から飛び出して来た奴が銃をジョニーに向けて構えるけれどジョニーは気が付いていない。俺は咄嗟に吠えると同時に其奴に飛び掛かっていた。肩に爪を立てながら押し倒し、ジョニーが気が付く。そして俺は其奴の腕に噛みつこうとして……。




「ジャック! しっかりしろ、ジャック!」


 ああ、お腹が痛くて熱いよ。でも、ジョニーが無事で良かった。二人共捕まえたのにジョニーはどうしてか焦っているだけで誉めてくれない。俺、頑張ったのな……。


 でも、ジョニーが撃たれなくって良かった。撃たれた所が凄く痛かったもん。痛みが無くなって来て、少し眠くなった。


 起きたら誉めて貰える…の…かな? 何時…もみたい…に俺の…頭や背中…を撫でてさ。じゃあ、お休…み……。









「此方ジョニー! 至急来てくれ! 警察犬が撃たれた! 繰り返す! 警察犬が撃たれた!」










「やあやあ! 初めましてだね、ジャック」


 俺が目を覚ました時、壁も床も天井も真っ白な知らない場所で知らない男の前に座っていた。勝手に頭を撫でようとした手を避け、直ぐに男と距離を開ける。此奴何か変だ!


「ウゥゥゥゥゥッ!」


 俺は生半可な事じゃ唸ったりはしない。そんな風に育てられた。でも、目が覚めたかと思ったら知らない場所に居て変な奴が話し掛けて来たら別だ。匂いが告げる。目の前の奴は俺が知っているどんな生き物とも別だって。見た目は似ていてもジョニーやシンシアとは全くの別物の何かだって本能が告げる。


 ……ジョニー? ジョニーは何処? 俺、何処に連れて来られたの? ブスッと痛いのを刺されたり変な物を飲まされる変な臭いがする場所とは違うよね? 目の前の奴の服は別物だしさ。


「……ふ~ん。君は余程ジョニーって人間が好きなんだね。矢っ張り君達犬って生き物は興味深い。おっと、いけないいけない。君にお仕事の頼みだ」


 仕事? だったらジョニーは何処なの? 俺のボスはジョニーだぞ! 少なくてもお前みたいに変な何かとは違うんだ。


「変な何か、か。君からすれば神様……ああ、神様は分かるかな? 私の事なんだけれど、その神様からのお願いだ。これから一人の女の子と一緒に居てくれ。その仕事が終わったら君のお願いを叶えてあげよう」


 お願い? じゃあ、ジョニーが絶対にくれなかったハンバーガーって奴を食べてみたい。でも、お前からじゃないぞ。俺は誰でも彼でも餌を貰ったりしないからな!


「別に良いけれど、ハンバーガーを選んだ場合はジョニーには会えなくなるからね? それでも良いのかい?」


 やだ! ジョニーに会う方が良い。それよりもジョニーは何処? ジョニーも一緒に来るんだよね?


 さっきは何でか慌てていたジョニーだけれど、もう落ち着いただろうから誉めてくれるよね? 俺、今日は頑張ったから沢山誉めて貰うんだ。


「本当に犬って奴はさ。じゃあ、お仕事が終わったらジョニーに会いたいって願ってくれ。私は大切な事は話さないし勘違いする言い方はするけれど嘘も約束破りも滅多にしないんだからさ」


 あっ、此奴絶対に変な奴だ。俺、この神様って奴嫌いだなあ……。


 靴を噛んで穴でも開けてやろうと思った時、また眠くなる。うーん、これからお仕事なのに寝ちゃったらジョニーに怒られ…ちゃう……。





 ……うーん、うん? あれれ? また違う場所に居るや。俺が今居るのは周囲を流れる水に囲まれた岩の上(ちょっと怖い)。俺は実は水が嫌いだからジョニーに言われないと入らないし、お風呂だって嫌いなんだ。でも今は入ろうにも入れない。体が全然動かないんだ。


「?」


 これは困ったぞ。地面の臭いだって嗅げないし、悪い奴に飛び付けない。何よりボールを前足で転がしたりお気に入りのソファーに身体を擦り付ける事も出来ないや。どうしよう?


「わわっ!? 本当にあった。よ、良かったぁ……」


 誰だろう? 水のせいで分からなかったけれど背後から誰かが岩にあがって来たぞ。この声と匂いは……子供だ! 俺、子供好き! 一度沢山遊んでみたかったんだ! ……あれ? 子供と言えば……。


 君が俺が守らなくちゃ駄目な女の子なの?


「しゃ、喋った!? いや、頭の中に声が響いた!?」


 女の子は急に大きな声を出して驚いている。俺までビックリしたなあ。でも、俺は賢いから勝手に走り出したりしないぞ! 偶に会う俺達警察犬とは別の犬よりも偉いんだ。えっへん!


 あれれ? さっきの変な奴もだけれど、俺の言葉が通じているの? 此奴、もしかして凄く賢い?





「杖なのに喋れるだなんて凄い! ねぇ、今までの聖女様が使って来た聖杖も喋れたの? あっ、私はエミリア。今回の聖女なの」


 俺はジャック! ……所で聖杖ってなーに? 俺は警察犬だけれど?


「聖杖は聖女が魔法を使う為の物何だけれど、知らないの?」


 何だよ! 誰だって知らない事は沢山あるぞ。君だって俺を杖と間違っているじゃないか。俺はどう見ても犬なのに! お前、さては馬鹿だな!


「え? 犬……?」


 エミリアは戸惑いながら鏡を見せて来る。映ってたのはエミリアと俺……だろうけれど。


「ね? 杖でしょ?」


 そう。今の俺は杖だった。



 え? 俺、つえぇぇぇぇっ!?





 これが俺とエミリアの出会い。俺達が過ごす物語のプロローグ。そして、彼女の命が終わって俺の願いが叶う迄の三年間に及ぶお仕事の始まりだった……。



犬って良いですよね 猫も好きだけれど犬しか飼ってないし犬が好き!



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