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23 冷徹公爵の本音 1


 城に向かったローズ達であったが、王城内は王都で起きた爆発事件と橋の崩落で大騒ぎとなっていた。


 王都に常駐する騎士団は全て街へと向かい、外部に人を出さぬよう王都の入り口を閉鎖するようだ。貴族達も橋が崩落したせいで屋敷に戻れずと復旧するまでどうするかを話し込む者が多い。


 ある意味、貴族達が一番暢気と言えるだろうか。といっても、政治に関する要職に就いた者達を除いてだが。


 王城に到着したローズ達はまず医務室に怪我人を運ぶことに。王城専属の医師によれば負傷した御者人とマリーダは命に別状は無いようだ。


 御者人の方は放り出された衝撃で腕を骨折、マリーダは頭を打って気絶といった診察内容だった。頭を打ったマリーダの方が少し気になるが、直に目を覚ますだろうと医師が言っているのでそれを素直に信じることにする。


 医務室での診察が終わったあと、ローズ達はヴェルナルディとヴェルガに会えるよう王城の執事に約束を取り付ける。混乱のせいもあって、ヴェルナルディやヴェルガとすぐに会う事は難しいと考えていたが予想を裏切ってすぐに会える事となった。


 ローズとカールはヴェルナルディの執務室に通され、そこでヴェルガとも合流。ローズは二人に事情を聞く事になったのだが……。


「どうして事前に知らせてくれないのですか!」


 予想通り、事情を聞いたローズは荒れに荒れた。


 内容としてはローナ王妃殺害の件は伏せたまま、敵国の工作員がローズを対象として潜入工作を行っていたというものである。


 騎士としての矜持を持つローズからしてみれば荒れるのは当然だろう。守る側である騎士が実は守られていた、となれば侮辱と感じてしまうか。特にローズのような人物であれば猶更である。


「お前に知らせれば敵の拠点を片っ端から潰して回っていただろう? 今回の件、それではダメなのだ」


「うぐっ」


 王である父の言葉にローズは言い返せない。確かに事前情報を得ていたら公爵夫人としての勉強など放り出して王都内を駆けまわっていたに違いないと自分でも分かっているようだ。


「では、ガラン帝国に抗議は!?」


「それも無理だな。お前は襲撃者の人相を見ただろう? 我に上がってきている報告では工作員全てがガラン帝国人ではない、との事だ。あの国は狡猾だからな。我が国と戦争して負けた国の国民を使っているのだ」


 騎士団内部にある情報部隊等の調査や尋問から襲撃者の身分や出身地までもが既に明らかになっているようで。ヴェルナルディの言う通り、ガラン帝国は『帝国が関与した』という証拠を露わにしていない。


 以前、ゾーク達に語ったヴェルガの話ではガラン帝国内の内通者から黒幕は帝国であると判明しているが、それでも明確な証拠が無ければ抗議もできまい。


「このまま済ますおつもりですか!?」


「まさか。着々と準備は進めているさ。だが、今はお前が関与する時ではない。大人しくしておくように」


 握った拳を父の執務机に叩きつけるローズ。ドン、と強い音が鳴ってヴェルナルディの肩がピクリと跳ねた。娘のパワーに驚いたのかは不明だが、彼は目を瞑って息を吐き出しながら「待機」を命じる。


 これは父の言葉というよりも王としての判断と命令と言うべきだろう。


「そもそもの話、お前が狙われているのに危険な場所へ送り込むはずないだろう?」


 と、ヴェルガがため息を零しながら告げる。


「その通りだ。お前は確かに強くなったが、それでも限りがある。それにだ、今回の件はお前の夫が考えた案でもあるんだぞ」


「なんですって?」


 ヴェルガの言葉に続き、ヴェルナルディが真相を告げるとローズはギロリと鋭い視線を隣に立つカールへ向ける。向けられたカールはいつもの表情を浮かべているが、ローズの反応を見たヴェルナルディは内心で首を傾げた。


 というのも、ヴェルナルディは責任をカールに押し付けるつもりは毛頭ない。むしろ、彼がローズを娶りたいと事前に相談した際に聞いた「ある言葉」が切っ掛けとなっているのだが。


 その言葉を聞いたからこそ、ヴェルナルディは結婚を許可したし、父として「娘を頼む」と頭まで下げたのだ。


 ヴェルナルディの思い描いた筋書きではローズがこんな鋭い視線を向けて、明らかにブチギレているような状況にはならないと思っていたようなのだが……。


 そこで王たるヴェルナルディは気付いた。いや、思い出したというべきか。娘が初めて夜会に出席するという事を聞き、ドキドキしすぎて寝れなかった日の翌日に執務の休憩時間中訪ねてきたベルトマン公爵から聞いた話を。


『カールはその……。少し不器用なようですな』


 ベルトマンがカールの印象や評価を落とさぬよう気を使ったのか、あまり詳しい内容は語らなかったがどうにもカールは口下手であるようだ。愛を囁く事も女性との触れ合いも慣れていないとも。


 それを思い出した瞬間、ヴェルナルディの脳内に電流が走る。


『まさか、コイツは父親に宣言した言葉を娘に伝えていない!?』


 ヴェルナルディのひらめきは正解だった。カールは何一つ伝えていない。故に本来は「感動路線」に話を振ったつもりが、ギクシャクしっぱなしの夫婦間に余計な問題をぶち込んでしまったようだ。


 少々焦り始めるヴェルナルディ。だが、彼は悪くない。普通であれば結婚式当日か初めて暮らし始める日に告げるタイミングくらいあるだろう。そうしなかったのはカールの性格に問題があったからだ。


「と、とにかくだな! ローズは待機! 命令があるまで待機しなさい! はいッ! 今日はこれまでッ! 我は事後処理に忙しい! あー忙しい、忙しい!」


「父上!」


 パンパン、と手を叩きながらローズとカールを追い出しにかかるヴェルナルディ。きっと内心ではカールに「すまん」と謝っているに違いない。


「父上……」


 威厳もクソもない父親の背中にため息を零すヴェルガだった。



-----



 未だ危険があるかもしれない、との事で不本意ながらローズはカールと共に屋敷へ帰宅することに。


 屋敷に向かう最中、王城でレンタルした馬車の中でローズは足と腕を組んだままずっと黙ってカールを睨みつけていた。お前、ちゃんと全部話すんだろうなぁ? という無言の圧である。


 あるいは、今回の件で堪忍袋の緒が切れて本気で離縁を考えているのかもしれない。


 屋敷に到着すると執事長ブライアンから大いに心配されたが、ローズはマリーダの件だけを伝えてカールへ振り返った。


「話がある」


「はい。では、私の部屋へ」


 ローズとカールは揃って二階にあるカールの自室へ向かう。二人……というよりは、ローズから滲み出る険悪な雰囲気に使用人一同はハラハラしっぱなしだ。


 二人は部屋の中に入ると、まず口を開いたのはローズだった。


「どういうつもりか説明してもらおうか」


 ローズが聞きたいのは、今回の事件において自分に事情説明しなかったことだろう。


 先の王城でもそうであったが、ローズは騎士である。国民を守らねばならぬ存在が逆に守られるなど我慢できない、と静かに怒りを露わにする。返答次第では本気で離縁も考えているような厳しい表情。


「概要は王城で聞いた通りです。殿下が狙われていたのもあって、捜査に加えることは危険と陛下に進言しました」


 しかし、カールは相変わらず眉間に皺を寄せたいつもの表情。厳しく追及されているにも拘らず、冷静さを保つ雰囲気が余計にローズの怒りを刺激する。


「どうしてだ! 私は騎士なのだぞ!? 王国を守る為の剣であり、国民を守る為の盾なのだ! なのに、狙われているからと言って後ろで縮こまるなど騎士のする事ではないッ!」


 ローズの言っている事は半分正しくて半分不正解だろう。


 確かに彼女は騎士である。それも騎士団の中では五指に入るほどの強さもあって、彼女とまともに戦えるのは騎士団総長であるアランくらいだろう。戦争においても単身で無類の強さを見せてきた事から、世界中を探してもローズと対等と呼べる者の数は少ない。


 最強に近い強さを兼ね備えた騎士が守られるというのは確かに違和感がある話だ。


 しかし、同時に彼女は降嫁したとはいえ国の姫である。公爵夫人になってからも姫として敬われるのがルーベルト王国として正しいあり方だ。強者であり、姫である彼女を失う訳にはいかないという判断は国としても正しい。


 この場合、どちらの判断を下すかは王に委ねられる。そして、王であるヴェルナルディが家臣の進言を受けて判断したのならば異を唱えるのは少々よろしくない。


 総合的に見れば今回の判断は『正しい』のだ。


 だが、ローズが問題視しているのはカールが進言した件である。カールとて、ローズが成し遂げてきた数々の活躍を耳にして彼女の強さは知っているはずだ。


 襲撃者と戦った際も少し危ういシーンはあったものの、命を落とすほどのものじゃない。カールが助けに入らなくとも危機を脱する事は出来ただろう。


「私が弱いと思っているのかッ!? 魔法が使えぬから弱いと思っているのかッ!?」


 言っているうちに怒りがピークに達し、ローズは最近になって『時代遅れ』になる兆しを見せる騎士への侮辱と感じたのか。彼女は激昂しながらカールに向かって叫んだ。


「違います。そのような事は決して思っていません」


 対し、カールは表情を変えぬまま首を振る。


「じゃあ、何で父上に進言したッ! 答えてみろッ!」


 ローズの怒りは収まりそうにない。黙ったままのカールは彼女に背を向けて、後ろにあった棚を開けると酒瓶を一本取り出した。


 蓋を開けるとグラスに少しだけ酒を注ぎ、一気に煽る。別にローズの怒りに当てられて喉が渇いたわけじゃない。ほんの少し、言い出す勇気が欲しかっただけ。


 酒に頼るのもどうかと思うが、カールの気持ちも分らなくもない。これから彼は胸の内を素直に、正直に全て明かさねばならぬのだから。


「殿下は強いです。魔法を使える私よりも遥かに強いのは間違いない。戦争では味方の士気を上げ、確実に敵へと一撃を見舞う誇り高き王国の騎士です。誰もが殿下を英雄や強者と呼ぶ。誰もが殿下がいれば平和に暮らせると言うでしょう」


 酒を口にしたカールは背を向けたままローズに告げる。


 たった今言ったことは王国の騎士であれば誰もがそう評価するだろう。王国の上層部も国民も、誰もが思うこと。


 だが、カールに言わせれば肝心なことが抜けている。彼は再びローズに振り返って、あの日――王にローズとの結婚を許可して欲しいと言いに行った日と同じことを口にした。


「では、皆から期待される殿下の事を誰が守るのですか?」


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