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14 いざ出陣


 遂にやってきた夜会当日。開始は夜からであるが、公爵家に仕える使用人達は昼を過ぎた頃から大忙しとなっていた。


 特に忙しいのはマリーダを筆頭とするローズを支えるメイド達だ。今回の夜会はかなり特別な意味を持つ。なんたってあのローズが25歳にして初の社交界デビューとなるのだから。


 ローズの身支度を整えるメイド達全員が「失敗は許されない」と心しているのは確かだろう。


 まず始まったのはローズの髪の毛を整えること。綺麗で長い金髪の毛先を入念にチェックしつつ、少しだけ切って整えた。髪のチェックが終わった後は風呂場での体磨きを行い、手足の爪を手入れして頭からつま先まで完璧に仕上がった。


 この時点で時間は夕方に差し掛かる。掛かった時間が長い事から、マリーダ達の本気具合が窺えるだろう。


 それが終わったらようやくドレスを着て、着た状態でのフォルムチェック。最後に化粧と髪を整える作業に入るのだが……。


「ローズ様は本当にお美しいですね」


 化粧係のメイドがそう零すのも当然だ。ローズは元が良すぎる。第一王妃ローナの血を引く彼女は、有象無象な貴族令嬢達が行うような厚い化粧は必要無し。


 ほんの少しだけチークを塗って、アイラインもほどほどに。口紅は薄ピンク色のものを軽く引く。たったこれだけだ。しかし、これだけの工程でグッとローズの美しさが増す。


「髪はこのままで良いのか?」


「はい」


 長い金髪も敢えて纏めない。これはサリスからの指示であるが、髪全体を櫛で真っ直ぐ整え直すだけ。


 こちらも現在、貴族令嬢界隈で主流となっている髪型のセット方法から外れている。髪が長い者は大体後ろで纏めるか、ウェーブを掛けてふわっふわにするかの二択である。


 しかし、これで良い。敢えてロングストレートのままで良し、とサリスからの指示だ。準備が終わったローズはマリーダに促され、リビングで待つカールの元へ連れて行かれた。


「奥様の準備が整いました」


 リビングで緊張しながら待っていたカールは声を掛けられ、いつものように短く「ああ」とだけ言ってドアの方へと顔を向ける。


「ど、どうだろうか?」


 そこに立っていたのは現在の主流から外れた、新しいスタイルを確立するローズであった。


 濃い青色で染められたホルターネックタイプのドレスを着こなし、肩と背中を見せつけるように。視線を下に下げればスリットから覗かせる細く健康的な美脚。傷を隠す為に用意された肘まである黒い手袋もローズの持つ色気を増幅させる。


 彼女を一言で表現するならば『自立した大人の女性』だろうか。騎士として自立していながら、公爵家夫人となった彼女は大人となった女性が持つセクシーで妖艶な雰囲気を醸し出す。これはいつまでも家に頼りきりな現在の貴族令嬢は持ち合わせない独特な雰囲気だ。


 先にも語った通り、ローズのドレス姿は現在主流となっている貴族令嬢達のスタイルとは全く違う。慎ましさの中に可愛らしさを持たせようとする現在のスタイルとは正反対だ。


 だが、これで良い。男社会の中で育ったローズは『男のよう』というイメージを持たれがちだ。だからこそ『騎士でありながら夜会ではセクシーで色気たっぷり』という正反対のイメージを周囲に押し付ける。


 ローズが持つ素材の良さもあって下品さは全くない。むしろ、男を美貌で操る女王様のようである。これはカールが押し付けられたというイメージを払拭し、ローズの美しさにやられたカールが望んだと思わせる演出でもあるだろう。


「…………」


 その証拠にカールは口を開けたまま、顔を真っ赤にしてローズに見惚れてしまった。


 むしろ、今のローズを見た男共は全員同じようなリアクションをするに違いない。全てサリスの計算の内、度肝を抜かす鎧作戦は大成功と言えよう。


「ど、どうなんだ!?」


 しかし、それを着ているローズは少々不安なのか、声を荒げて再び問う。その声に我に返ったカールは立ち上がり、ローズに近付くと彼女を見ながら口を開いた。


「お、お美しいです。本当に……」


 今のカールにはこれが精いっぱい。むしろ、よく口に出せたと褒めるべきだ。それほどまでにカールはローズに見惚れてしまっている。


「そ、そうか」


 ストレートな賛辞に顔を背けながら照れるローズ。またこの態度がギャップとなってたまらない。


「殿下、こちらを」


 カールはこのタイミングで小さな箱をローズに見せた。箱を開けて中身を見せると、薄い青色の小さな宝石がはまったイヤリング。この宝石の色はカールの瞳の色と同じもの。


 彼はイヤリングを取り出して「失礼します」と言いながら彼女の耳に取り付ける。自分の瞳の色と同じ宝石がはまったイヤリングをローズにプレゼントしたのは、彼女は自分の物であるという主張だろうか。


「大変お似合いです」


「お、う、うむ……」


 慣れないイベントにローズもいっぱいいっぱいである。その後、執事長であるブライアンに出発時間だと言われて二人はベルトマン公爵家へと馬車で向かった。



-----



 ベルトマン公爵家は貴族街の一番奥に建っている。王国貴族の中でも歴史が古く、リアソニエ公爵家よりも前に誕生した家だ。それ故に王都にある貴族の屋敷の中でも一番大きい屋敷を持つ貴族であった。


 豪華なシャンデリアが天井に取り付けられたエントランスにローズとカールが向かうと、二人は静かに注目の的となった。


 案内係であるベルトマン公爵家の執事や給仕を行うメイド達でさえ、足を止めて二人に見入ってしまう。


 というのも、二人が並んで歩く姿はまさに美男美女の夫婦というべきものだった。どこぞの絵画から飛び出してきたような、似合いのカップルと言えるほどに。


 パーティー会場となる広間に通されてからも注目度は変わらない。いや、先ほどまでは使用人達だったからこそ静かだったが、二人が広間に入った瞬間にざわめきが鳴る。


 貴族令嬢から黄色い声を上げられるカールは勿論であるが、彼の横に立つローズもまた負けず劣らず美しい。むしろ、サリスの思惑通りに誰もが彼女を見て「あのローズ様か?」と疑ってしまうほどである。


「あ、あれがローズ様……?」


「う、美しい……」


 貴族の男子共は新しいドレススタイルに身を包んだローズに見惚れてしまう。肌を多く露出させながら煽情的であっても下品な雰囲気は全くない、大人の女性が持つ色香にパートナーと共に来た男性までもが目を奪われた。


「な、なによ、あのドレス!?」


「コルセットも無しに!」


 ローズを見下していた貴族令嬢共も、既存のスタイルをぶち壊すドレスに身を包んで現れたローズに困惑を隠せなかった。


 鍛錬で作り上げた健康的な肉体、持ち前の美貌、何よりもコルセット無しでも栄える細いウエスト。それを引き立てるドレスも相まって、既存のスタイルが時代遅れと感じさせるほどの美しさ。


 特に目を向けて羨むのはローズのスタイルの良さだろう。自分はコルセットを装着してガチガチに絞っているのに、ローズはそれをしていない。


 こっちは苦しい思いをしているのに、と恨み言を口にしながら睨みつけるようにローズを見た。そして、横に立つカールと「似合っている」と一瞬でも思ってしまった自分が許せないのだろう。


「どうせ中身は……!」


 既に白旗を揚げそうな一部の貴族令嬢達であったが、僅かなプライドを寄せ集めてグッと耐える。どうせ、ダンスも踊れず、マナーもなってない王女なのだからと。


「カール。今夜はよく来てくれた。それにローズ様もお越し下さり感謝致します」


「ベルトマン卿。本日はお招き頂きありがとうございます」


 主催者であるベルトマン公爵が声を掛け、まずはカールが挨拶。その後、ベルトマン公爵の目線がローズに移動したのを確認してから、ローズは黙ったまま小さく頭を下げた。


 これで百点満点。最初の挨拶を返すのは夫だけであり、横に立つ妻は黙って頭を下げるだけで良い。サリスの教え通りに礼をしたローズは夫人の挨拶として完璧だった。 


「……こう言っては失礼かと思いますが、見違えましたな」


「苦労したがな」


 周囲に聞こえぬよう小さな声で言うベルトマン。ローズは苦笑いを浮かべながら返すとベルトマンは大きく頷いた。


「まるで在りし日のローナ様を見ているようです。今のローズ様を見たら陛下はきっとお喜びになるでしょうな」


 亡くなった母のようだと言うベルトマンはとても良い笑顔を浮かべた。ローズも母のようと言われて、少し照れながらも嬉しそうに笑う。


 彼女の笑顔を見て、一瞬だけ見惚れてしまったベルトマンは横に立つ妻の視線を感じてすぐに我に返ると、咳払いを一つして間を取った。


「ローズ様。開始早々、ダンスとなります。三曲目からが勝負の時でございます」


「そうか。感謝する」


 先ほどの笑顔から一変、両者ニヤリと悪そうな笑みを浮かべながら別れると、次にカールが挨拶に向かったのは第二王女マリアだった。


「マリア殿下。本日も大変お美しい」


 カールはいつもの眉間に皺を寄せてそう言うが、ローズに言うほどの熱量は無く。あくまでも世辞として言っているのだろう。


「ええ。リアソニエ卿。本日は楽しみましょうね」


 マリアもカールへ頭を下げる。だが、次の瞬間にはローズに顔を向けて満面の笑みを浮かべた。


「お姉様、遂にきましたね!」


 マリアはサリスから受け継いだ整った顔にローズを激励するような表情を浮かべて。姉の手を掴み、ぎゅっと握りながら『今日の勝負』を自分の事のように「お姉様なら必ずやれます!」と気合を入れる。


「ああ。マリア、ありがとう」


 主催者、そしてマリアに挨拶を終えた二人は次々と挨拶を交わして行く。


 主にカールが直接足を向けるのは職場の同僚や家として付き合いのある者達が中心だったが、ローズは降嫁したとはいえ第一王女。彼女に挨拶をしに来る者も多く、ほとんどが騎士団に所属する貴族家の者達だった。


 ローズへ敵意を向ける者も挨拶に来るが、それはローズとカールの身分を見て形式的に行う者達ばかりである。


 中には明らかにローズを無視してカールを横から掻っ攫おうと考える令嬢もいたり、ローズへ侮辱の視線を込めながら失敗を誘おうと仕掛けてくる者も。だが、それらはカールが上手く躱してローズに被害を与えぬよう奮闘する。


 二人は一通り挨拶を終えて、執事達が運ぶワイングラスを受け取ると広間の隅に移動した。


「先ほどの者は露骨に私を睨んでいたな」


「ええ」


 カールが上手く躱しても、相手の視線を感じるのは騎士であるローズにとって朝飯前だろう。視線に敵意が含まれていれば猶更だ。


 受け取ったワインを静かに飲みながら喉を潤していると、広間の中に楽器を持った集団が現れた。


「そろそろですね」


「ふん。叩き潰してくれるわ」


 遂に勝負の時来たり。夜会という戦場でローズの戦いが始まろうとしていた。


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