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従女ミサの手記 (2)

私がこの屋敷で働き始めたのは、母の死後すぐでした。

屋敷に連れられた私は、旦那様であるジム・グラットン公爵から己の出生について伺いました。


平民の母と旦那様との間に産まれたのが私であること

卑しい生まれのためグラットン家の娘として迎い入れる気はないこと

義妹であるドリス様の専属従女として雇うとのこと




「本日よりお嬢様付きの従女となりましたミサと申します。何なりと申し付けください」


初めてお会いしたのは、ドリス様の自室でした。


「えぇ、父から聞いているわ。これからよろしくね。」


令嬢というには短く整えられた銀髪、少女とも少年とも見える中性的な顔立ち、

美しくも凛々しいお姿に目を奪われたことを記憶しています。


但し、最初にドリス様へ抱いたのは悪感情でした。

同じ父親を持つ姉と妹、命令を下す側の主と従う側の従女、

不自由なく生活していた少女と飢えとの戦いの連続だった少女。

その境界線に強い嫉妬心を感じたものです。

それはすぐに同情へと塗り変わるのですが。




本館には、第一夫人とその娘達が暮らしており、

お仕えする別館には、第二夫人であるリリー夫人と、一人娘のドリス様のお二人で生活されていました。

過去には長男であるクリス様もいらしたのですが、病弱であったため私がお仕えするより以前に亡くなったそうです。

リリー夫人が狂い始めたのもクリス様が亡くなった頃とお聞きしています。


クリス様を溺愛していたリリー夫人は、精神的な負担からお部屋に籠るようになりました。

お加減の良い日には食堂へ顔を出すことはあったのですが、ドリス様へクリス様の面影を重ねるようになり、

次第にクリス様の真似事を強制するようになったのです。


「クリス、髪を伸ばすのは紳士にふさわしくありません。切りなさい。」

「クリス、何故貴方がドレスを身に纏っているのですか。着替えなさい。」


リリー夫人の病状が悪化するに従い、クリス様の面影を重ねることはなくなりましたが、

ドリス様を認識することもなくなりました。

同じ食堂で同じ食事をしていても、ドリス様は存在しないものとして扱われていたのです。

ご自身の暮らす屋敷にも関わらず、『ドリス』の名を呼ぶものは誰もおりませんでした。




「お嬢さ...ドリス様」


表情の乏しいドリス様には珍しく、目を点にして驚かれています。

その頃には艶のある銀髪が肩まで伸びており、海の色のような青いドレスが

ドリス様の少女らしい可愛いさを引き立てていました。とても愛らしく感じたものです。


「不躾な真似をしてしまい申し訳ございません。お嬢様。」


普段の『お嬢様』呼びではなく、『ドリス様』と呼んだのはほんの出来心でした。

その名を呼ぶものが誰もいないのであれば、せめて私くらいは貴女の名を呼びたいと思ったのです。

『ドリス』を認識しているものがいることを、貴女に知っておいて欲しかったのです。


「待って、ミサ。」


ドリス様が俯きながら口元に手を当てていらっしゃいます。

言いたいことがあるけど言い出せない時の癖ですね。


「驚いたけど....とても嬉しかったの。嫌ではなければ、その...」

「承知いたしました、ドリス様」


ドリス様は蕩けるような笑顔で頷きました。


思えば、この時から私たちの小さな触れ合いが始まったのです。

姉妹というには拙い、私たちの。

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