4話 緒田の逆襲ー01
「うー、疲れた。よーにー、お茶ー。って、アレ?何してるの、二人とも。」
帰ってきたのは、渚<なぎさ>ちゃんだった。
今日も今日とて可愛らしい。
緒田の妹とは、とてもとても思えない。
「あ、おかえり、なぎ。お茶はちょっと待ってくれ、今ちょっと取り込んでて。」
緒田はあくまでも俺のズボンを離さないまま、答える。
「ふーん。まぁ、喧嘩ではないみたいだけど。……もし何だったら、私外に出てるよ?」
ほんの少し顔を赤らめつつ言う渚ちゃん。
そんな顔もまた美しいです。
じゃなくて、何でそこで顔を赤らめる?
つつ、と渚ちゃんの視線を追う。
何をそんなに凝視しているんだ?
緒田に引っ張られ続けた俺のズボンが、ほとんど脱げかけていた。
だけじゃなく、パンツも少しずれてきている。
「おい緒田、分かった、話を聞いてやるから、離せ。今すぐ。ほら早く。」
慌ててズボンを抑えながら、俺は言った。
「んー?どうした?急に?」
今までの悲壮さはどこへやら、緒田は急にニヤニヤしながら聞いてきた。
分かっている癖に。
こちらが弱っているとみるや、さらに追い討ちをかけようとしてくる。
コイツも大概性格悪いな。
「あー、ごめん、悪かった。すみません、話を聞かせて頂きます。」
「よし、じゃ、俺の部屋に行っててくれ。俺はお茶を淹れて来るから。」
誰が行くか。
何にしろ、ズボンを離したのがお前の運の尽きだ。
このまま帰ってやる。
と、それを見透かしていたように、緒田が続ける。
「あ、そうだ、なぎ。お前も一緒に話さないか?」
「ん?何か面白い話?」
「まぁまぁ。」
「ふーん、いいよ。どうせ暇だし。この三人で話すのって、久しぶりだよね。2年ぶりくらい?」
「そういえばそうだな。何たって、妙に色気づいちまった奴が一人居るからな。」
くく、と笑いながら緒田が答える。
「色気づく?」
「ん?はは、お前が可愛くなったって事だよ。」
と言いながら、緒田は俺の方へと、意味のある視線を送ってくる。
「変なお世辞言わないでよね。それに、そんなの関係ないじゃん。」
「あるんだよ。」
笑いながら、緒田は台所へと行ってしまった。
「もー、急に何を変な事言ってるんだろうね、よーにーは。」
お世辞じゃなく、本当に可愛くなったと思うよ、
ぐらい言えればよかったが、そんな事出来る訳もなく、
「まぁ、あいつは昔から変な奴だからな。」
と、肯定でも、否定でもない返事をする。
「あはは、本当にね。最近ますますおかしくなってきた気がするんだけど、学校ではどうなの?………あ、立ち話もなんだから、よーにーの部屋に行こっか、孝示<こうじ>君。」
「………そうだな。」
情けない事に俺は、部屋につくまでに、
渚ちゃんと一度も視線を合わせる事が出来なかった。