2話 緒田の頼みー02
「だいたいその、【分かってくれない】って言うのは何だ?まずそこからして、抽象的すぎてよく分からないんだよ、お前の話は。」
俺が少し怒り気味でそう言うと、幾分きまずそうに緒田は答えた。
「いや、だからな?…その、分かって、くれないんだよ……」
「なんでだよ!!さっきお前言ってたろ!?【決定的な瞬間を見た】から穂高<ほだか>ちゃんが犯人の筈が無いって!!その【決定的な瞬間】とやらを警察なり探偵なり、話せばいいだろ!?」
「……………いやー、それは……………。無理、かなぁ。」
「何でだよ!!」
「……………だってほら、分かってくれないし。……………それにほら、金も無いしさ?」
「だからその【分かってくれない】っていうのが俺には分かんねぇよ!!お前が見たそのままを言えばいいだろ!?……それに、金が無いって言うけどさ、警察への目撃証言って形にすれば、タダなんじゃないのか?」
「………………んー。まぁ、……………そうなんだけど、ねぇ。」
何だか煮え切らない返事をする緒田。
何なんだ?何で今日のコイツとの会話は、ずっと要領を得ないんだ?
普段はもうちょっと、きっぱりとモノを言う奴なのに。
途中からどこかおかしいとは思っていたけど、やっぱり何か、隠しているみたいだな。
「なぁ緒田、お前、警察にはもうその【決定的な瞬間】とやらの情報は伝えたんだよな?それで、【分かってくれない】から俺に相談してる、と。」
「あぁぅん、……………まぁ。」
「ならなんで、まだ穂高ちゃんは犯人のままなんだろうな?お前の目撃したのが、本当に何か決定的なものなら、もうとっくに取り消されても良い頃だと思うんだ、俺は。」
「それは、だから、………警察が、【分かってくれない】からだよ。」
「なぁ緒田、お前、何を見たんだ?俺に相談するつもりなら、そのくらい教えてくれてもいいんじゃないか?」
「……………いや、……………それは、……………駄目だよ。お前が相談に乗ってくれると約束するまでは。」
「何故?」
「……………それは、ほら、あれだよ、そんな重要な情報を、安易にばら撒いちゃ駄目だろ?……………ほら、市民の守秘義務とか、はは。」
最後の方は、喉がカラカラのようで、乾いた笑いが混じった。
「嘘だろ?」
出来るだけ低い声になるように意識して俺はそう言った。
「え、な、何が?」
動転した緒田の目が、上下左右に動き出す。
分かりやすいな。
やっぱり緒田は、嘘をつくのが苦手らしい。
「お前、実は何も見てないんだろ?何か材料がないと、俺が相談に乗らないと思って作った嘘なんだろ?」
「え?あ?いや?」
緒田は可哀想なほどに狼狽している。
長い付き合いだけれど、こいつのここまで焦った顔を見るのは、始めてかもしれない。
四苦八苦した挙句、緒田はついに嘘を認めた。
結局、何も見ていないらしい。ひどい話だ。
小動物のようになってしまった緒田に、俺はにこやかに一言を告げた。
「帰る。」