第79話 したいことがあるんだ。
さて、膝枕をされて耳掃除が行われるわけなのだが……千夏の手が、耳かきが震えているんだが。
「千夏、無理なら止めといたほうが良い……俺の耳も心配だ」
と言うと
「いや大丈夫。ゆっくりするから。ほらっちゃんと横になって! 」
と言い返された。仕方なく千夏の方に顔を向けて横になる。
「耳掃除って見にくいんだな。……が邪魔だな」
なにかぶつぶつと言っているが俺には聞こえなかった。とにかく俺は気にせず目をつぶって始まるのを待っていた。
ようやく始まると上手く出来ているようで気持ち良い感覚が俺にやってくる。人にされる耳掃除ってこんなに気持ち良いものなんだなあと実感する俺に
「上手く出来ているかな? 」
と千夏は聞いてきた。
「ああ、人に耳掃除されるのってこんなに気持ち良いもんだなって実感してるよ」
そう答えると
「ああ良かった。痛かったら言ってね。痛くないようにはするつもりだけど私も他の人の耳掃除をするの初めてだから」
そう言いながら続けてくれるのだった。
反対側も向き耳掃除をしてもらっていると気持ち良いせいか眠くなってきた。けれど俺は眠るつもりはない。なぜか? 美樹のことがあるからだ。千夏にも寝ているところをされてしまうなんてことになったら「同じ過ちを繰り返して俺馬鹿だろ」と落ち込むしか無くなってしまうからな。
そう思いながら眠気を我慢していると千夏が俺の顔を覗き込んできた。
「蒼汰くん寝てないね。耳掃除すると気持ちよくて寝ることもあるって千穂さん言ってたんだけど……」
って千穂さーーーーん。なに言っちゃってくれてますか? と思いながらも
「寝てない、寝てないからね。大丈夫! 」
と千夏に返事を返していた。
「はい、おわり。上手く出来たかな? 」
終わりの合図と言うかのように俺の頭を軽くぽんっと叩いた後、そう聞く千夏に
「うん、痛くなかったし上手かったと思うよ。ありがとう」
と返す俺であったが、千夏はちょっと不機嫌な顔をしていた。
「どうかした? 」
と千夏に聞くが
「なんでもないよ。耳かきは終わったししばらく膝枕のままでいようか? 」
と誤魔化すようにそう答える千夏。そして俺にわからぬように
「本当は寝てほしかったんだけどなあ……」
千夏は小さな声で呟くのだった。
膝枕をしたまま他愛もない会話をしていた俺達。そんな中いきなり千夏が
「あのさ、蒼汰くん。私どうしてもしたいことがあるんだ」
と慌てたように言ってきた。
「ん? したいことって? 」
俺はできることなら千夏の希望に沿うようにするつもりだがなんだろうと聞き返してみると
「私って蒼汰くんに気になるってことしかまだ伝えていなかったよね。でも最近なんだけど別の気持ちが湧いていることがすこしずつわかってきたように思えるんだ。でね、それをはっきりさせたいと思って。蒼汰くんとキスしたいんだ」
千夏は美樹と違い寝込みやいきなりではなくはっきりと告げてきた。けれど俺は思っていたことがあって。それについて尋ねてみることにした。
「千夏。ほんとに良いの? 今現在優柔不断でしかない俺になんてしても? 今するんじゃなく俺が美樹か千夏をきちんと選べたその時以降でいいんじゃないかって思うんだ。そうじゃないと千夏はキスなんて初めてだろ? 俺は美樹ともうキスをしているんだよ? そんなやつにファーストキスを渡してしまっていいの? 」
そう、今しなくてもいい。俺がきちんと選んた後であれば千夏は失わなくても良かったということになる可能性もあるんだって。
「うん、キスなんて私初めてだね。確かに選ばれないことがあるのもわかってる。それでも蒼汰くんとしたいって思ってる。そしてこのしたい気持ちがなにかキスをすればわかるんじゃないかなとも思っているんだ。まあ大体の予想はもうついているんだけど。好きな気持なんだろうってことはね。それにね、逆にしないほうが後々後悔するかなって思えるくらいなんだよ」
そういう千夏の顔はとてもとても真剣で俺には断るなんてできないなと感じてしまうのだった。本当に情けない俺だなって思いとともに。
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