第69話 ふたりで観覧車。
観覧車に乗るため並ぶ俺達。ちなみに先に乗るのは亜美姉ちゃんと圭佑。そこまで並んでいないのであっという間に順番が回ってくる。
「私達が先に乗るよ。美樹ちゃん楽しんできてね。蒼汰くんは……美樹ちゃんのためにがんばろう! 」
亜美姉ちゃん……気軽に言ってくれちゃって。まあ美樹には楽しんでほしいし頑張るしかないか。そう思っていると
「蒼汰さん無理しなくても良いんですよ? やっぱり止めましょうか? 」
と美樹は優しく言ってくれる。
「ううん。せっかく来たんだし、美樹も楽しみにしてるんでしょ。情けない姿見せるかもしれないけどちゃんと乗るよ」
俺は美樹に微笑んでそう話した。
俺達の順番となりふたり観覧車に乗り込んだ。まだそこまで上昇してはいないけれど観覧車は揺れるのだ。もうそれだけで俺の心は精一杯になっていた。ああ駄目駄目だな、俺。とりあえず席に座るのだが向かい合って座るのではなく美樹は俺の横に座ってきた。ただ、片側によって座ると傾くわけだけど……
「人が側にいるほうが落ち着きませんか? それに横になっていると外も見えませんしよかったら膝枕をしておきましょう」
美樹はそう言ってひざをぽんぽんと叩き膝枕をしてくれようとしていた。俺は怖さのあまり何も考えず膝枕のお世話になった。俺が横になると美樹は俺の手を取り恋人繋ぎをしてきた。
「手も繋げばもっと落ち着きますよ。きっと」
そう言って俺に微笑む美樹。
確かにひとりでいるよりも断然いい。それに横になっていることで外が見えないことも恐怖心を抑えるには少しは役に立っていた。
「幸せですね」
美樹がポツリとそう言った。
「こんなダサい俺と一緒でそう思ってくれてるのか」
俺がそう言うと
「そんなの関係ないですね。こんな姿も蒼汰さんですよ? 私はどんな蒼汰さんも好きですから。今日は本当にたくさんの蒼汰さんが見れて、そして、私が知らない蒼汰さんのこともたくさん聞けてこんなに充実した日は久しぶりかもしれません」
そう言って俺に微笑んでくれる美樹のことがとても綺麗に見えていた。
「ほんとあのふたり……いろいろと話してくれたもんなあ。こっちの身にもなってくれ。恥ずかしすぎたわ」
俺はちょっと照れてそう言ってしまった。
「私に聞かれるのは嫌でしたか? 」
美樹はちょっと不安そうにそう言うから、俺は
「いや、俺の話を聞くだけで美樹があれだけ嬉しそうにしているのを見たら嫌とは思えなかったよ」
俺は素直にそう伝えたのだった。
とりあえず俺は高いところにいることを考えないようにしていた。外も見ない……ただ、揺れだけはどうしようもなかったけれど。
「そういえば美樹は観覧車でしたいことあったの? 」
俺は美樹に聞いてみた。
「いえ特にはなにもないですよ。強いて言えば蒼汰さんと一緒に乗りたかった。それだけですね。あっあとですね。今日は蒼汰さんと初デート、初膝枕、初キスと初づくしだったので初観覧車もしたかったというのもありました。なので今日は本当に幸せいっぱいの日になりました。蒼汰さん、大変でしたのに一緒に乗っていただいてありがとうございました」
美樹は嬉しそうに俺にそう答えてくれた。
美樹から「目を瞑っているともっと楽かもですよ」と助言をもらったので、申し訳ないけれど目を瞑り心を落ち着けようとしていた。そんな俺を見て美樹は俺の頭を急に撫でだした。
「頭を撫でると落ち着きますよね。小さい頃お母様に良くしていただきました。私の心が疲れているとわかりましたと……本当にタイミングぴったりで」
美樹は千穂さんの事を思い出したのかそんな事を話してくれた。
「そうです。あとひとつおまじないをしておきますね」
美樹はそういうと俺が目を開けていないときを狙ったのか今日3回目となるキスをしてきた。
「ふふっ今日3回目です。でも怒っちゃ駄目です。めっですよ? 約束したのですから」
ほんと美樹は積極的だなと俺は思った。
「ドキドキしてくださるともしかすると怖さに勝てるかもしれませんよ? 」
美樹は少し誤魔化すかのようにそう言ってまた俺の頭を撫で続けるのだった。
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