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第65話 起きた蒼汰と不安な美樹。



 絶叫系はやはり俺にはきつかったのだろういつの間にか俺は寝ていたようで起きなきゃと目を開けてみると目の前に美樹の顔が見えていた。そうだ美樹に膝枕をされていたんだと思い出すもよく見るとなぜか美樹は不安顔で何かを悩んでいるように見えた。


「ごめん美樹。いつのまにか寝ちゃってたようだ。それにしてもどうした? そんな不安そうな顔をして」


 俺は気になって聞いてみるけれど、美樹は珍しく黙ったまま反応しなかった。おかしいなと思い起き上がって両手でほっぺたあたりを押さえ挟み込むように美樹の顔を捕まえる。そして美樹の顔を覗き込むように見つめ


「どうしたの? 寝ている間になにかあった? それとも寝ていて俺がなにかしてしまった? 」


 そう聞いてみるけれど美樹は無言のまま顔を押さえられているにも関わらず首を横に振ろうとしていた。


「そっか……でもなにかあったんだろ? もしかして俺に話せないことかい? 」


 再度尋ねてみると


「いえ、そうではありません。逆に蒼汰さんに話さないといけないことです」


 美樹はそう言った。よくはわからないがなにか話すに当たって美樹が困ることがあるのだろう。それでもそんな顔の美樹はみたくない。だから


「だったら話してみて。美樹のそんな顔見ていたくないよ。今すごく困った顔してる」


 俺は話してほしいと美樹に伝えた。すると観念したのか美樹はやっと話しをしてくれた。




「えっと……ですね。蒼汰さんが私の膝枕でいつのまにか寝てしまったんです。それを私は眺めて幸せを感じていたんです。ですけれど眺めていたら蒼汰さんのあるものに惹かれてしまって……」


「ん? あるものって? 」


 よくわからない俺はそう尋ねてみると、美樹はやっとあるものについて話してくれた。それは


「あの……蒼汰さんの唇です。いつのまにかそれに見入っていたようで気づいたときには私、蒼汰さんにキスをしていました」


「え? キス? 」


 そう聞いて思わず俺は唇を触ってしまう。


「はい、蒼汰さんに無断で……。それで話さないといけないことはわかっていたのですが嫌われないかと不安で……蒼汰さんごめんなさい」


 そういうことかと納得した。でも別に怒りはしない。美樹からだったら別に嫌だと思わないし、それにどちらかと言えば起きていなかったことがもったいなかったと感じてしまうわけで。


「なんだ、そんなことか。美樹のことが嫌いじゃないんだからキスされたからと言って嫌いにならないから安心していいよ。まあちょっと驚いたってのはあるけれどね」


 美樹にしては珍しく怖かったようだ。ここ最近は積極的になっていたけれどやっぱり好きな人とのキスは特別に大切なものなんだろう。だから勝手にしてしまったことで相手に嫌われないかと思ってしまったんだろうか。あと千夏のことも引っかかってるのかもしれないけれど。


「あのさ、はっきり言っとくけど美樹からキスをされてどう思うかと言えばそりゃ嬉しいに決まってるよ」


 そう言って俺は美樹を見ながら微笑んでみた。すると美樹は安心したようでさっきまで不安で泣きそうだったその顔にやっと笑みが戻ってきた。


「ただ、起きていないのが残念だったね」


 と冗談半分に俺は言うと美樹は急に真剣な顔をして俺に尋ねてきた。


「本当に起きてなくて残念でしたか? 」


「ああ、そ……そうだね」


「本当に怒りませんか? 嫌いになりませんか?  」


「ああ、怒らないし嫌いにならないから」


 鬼気迫る表情で俺を問いただす美樹。


「でしたら手を離していただいてもいいですか? 」


 美樹がそういうので俺は顔から手を離した。その途端美樹はいきなり俺に向かって飛び込んでくる。そして俺の唇に美樹の唇が当たる。


 美樹はまた俺にキスをしようと飛び込んできたようだった。ほんの数秒のキスだったけれど俺は美樹とキスをした。記憶のある今この時に。


「これで蒼汰さんが起きている時に出来ましたね。あっ怒らないでくださいね。嫌いにもならないでくださいね。ちゃんと確認しましたからね、私」


 そう言ってさっきまで泣きそうだった顔が嘘のようににこやかだった。


「ああ、確かに俺そう言ったもんな。まいったね、やられたよ」


 俺は苦笑するしか無かった。逆に美樹は幸せそうな笑みを浮かべていた。いたずらが成功した子供のようなそんな表情で。そんな美樹の顔を見て無意識の内にされたキスの時とは違い先程は得なかったドキドキ感を俺はしっかりと感じていたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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