第59話 ちょっとした家族の団らん。
美樹宅での夕食後俺は家路へとつく。まさか千穂さんの前でふたりからあーんされるとはと照れくさい出来事を思い出しては俺は頭を振っては忘れようとしていた。そうしないと家に付けば親父に顔を見られてはなにか言われるかもしれない。そう考え俺は頭からあーんを消すために他のことを考えながらゆっくりと帰宅した。
家に帰ると親父はいなかった。今日の夕食は自分でどうにかしてくれと頼んでいたので多分外食にでも行ってくれたのだろう。そのせいか俺は親父にすぐに会わないことからなのかちょっと気が楽になった感じがした。
俺は部屋に戻り21時まではのんびりできるとぼーっとして時間を過ごす。その時間になればいつものように美樹とスマホでのやり取りが始まるのだろうから。それにしても周りに人がいる中であのふたりの積極的な行動を受けると精神的に流石に疲れるんだなと思ってしまった。ふたりはどうなのだろうか。やる側と受ける側はやっぱり度合いが違うんだろうか。
そんなたわいもないことを考えながら過ごしているといつのまにか21時を回っていた。
するといつものように美樹からのメッセージがスマホに届く。
メッセージで会話することと言えばそう堅苦しいものはない。毎日の出来事や俺の事や美樹の事、千夏の事もよく話すな。まあ、今日はずっと一緒に居たわけで、お互い理解できる今日の出来事についてがメインの話になっていた。「夕食おいしかったですか? 」「あーんはいかがでしたか? 」「勉強ははかどりましたか? 」等々。
せっかく忘れかけていたのに思い出させてくれる美樹には参った。机の上に置いてある小さな鏡に俺の顔を写してみればせっかく治りかけた顔色がまた赤くなっていた。
22時で美樹とのメッセージのやり取りは終りとなる。ちゃんと約束しているからね。多分時間を決めてなければ美樹はずっと送ってきそうだから。
そういえばと俺は千夏にもメッセージを送っておいた。「今日はありがとう」って。するとしばらくして千夏からも「こちらこそ。またあした学校で」と軽い挨拶が返ってきていた。
しばらくして顔色も普通に戻った俺はお茶でも飲んでそろそろ寝るかなとダイニングへと向かった。するとダイニングにはテーブルでビールを片手に飲みながらぼーっとしている親父がいた。
「親父、おかえり。今日は悪かったね、夕食作れなくて」
「ああ、ただいま蒼汰。んなこと気にしなくていいぞ。いつも作ってくれているわけなんだし。それに今日は勉強会という名のデートだったわけだろ。んな野暮なこと言うわけないだろ」
挨拶を交わす中、親父はからかいの言葉を俺に言ってくる。ううっ言い返せない。そのとおりに近いことになっていたわけだし。
「まあ、しっかり勉強してきたよ。教えてくれる人もしっかりしていたしね」
だからデートという言葉はスルーの上勉強したことを強調して言葉を返す。
「はははっ若いって良いねえ」
親父はそんな俺を見て更に笑いながらそんな事を言ってくれる。くそっ。
そんな親子ふたりのたわいない会話の中
「俺も早く会ってみたいな。そのふたりに」
急に親父がそんな事を言いだした。
「親父どうした? 親父がそんな事を言うの珍しいな。俺の知り合いに会いたいとか」
「んーなんとなくそう思っただけだよ。蒼汰に思いをくれる人に会いたいと親が思っても不思議はないだろ? 」
「そう言われるとたしかに。それに親父が心配してくれているってのもわかるしね」
「そりゃ心配くらいするよ。親父なんだから。だからいつかは連れてきてくれよ、蒼汰。まあ俺の方がなかなか都合がつかないってのはあるけどね」
そう言って俺にむかって笑みを浮かべるのだった。
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