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第58話 あーんですか?



  俺は今ひとり美樹の部屋で待っていた。美樹と千夏は夕食の準備に行っている。朝のうちに下準備はできていたようでそこまで時間は掛からないと言っていたけれど。


 そういえば母親の話をした時に確かに心が重くなっていたように感じていたが、ふたりの優しさを感じたことが大きいのか今では心の違和感が取れてすっきりした感じがしていた。


 しばらくぼーっと時を過ごしながら物思いにふけているとドアからノックの音が聞こえてきた。お手伝いさんが俺を呼びに来たようで俺は部屋から出ていきその後についていく。歩きながら「美樹さまと遠藤さまは今食卓で準備をしているところですので私が参りました」とお手伝いさんはふたりではなく自分が迎えに来た理由を話してくれた。


 ダイニングに着くと食卓には美樹と千夏が作ったと思われる料理が並んでいた。それを見て俺は美樹と千夏ともにちゃんと料理ができるんだなと失礼ながらもそんな事を考えてしまった。


 料理は唐揚げなどの揚げ物、サラダ、あとは炒めものだろうか? 等と料理を俺が眺めていたところに先に席についていた千穂さんから


「ささ、蒼汰さん。美樹と千夏さんがあなたのために料理を作ってくださってますよ。座ってくださいな」


 席に座るよう声がかけられた。


「すいません。お待たせしました。えっと前回座らせてもらった席でいいですか? 」


「ええ、前回と同じ席で結構ですよ」


 俺は確認を取り席へと座る。すると美樹と千夏がもう準備が終わったのかやって来て


「蒼汰さん、お待たせしました」


「お待たせしたね。でも、蒼汰くんどうだい? 私と美樹もちゃんと料理はできるんだよ? 」


 ふたりがやってきて挨拶を交わす。

 そんな中、千夏は思いの外上手くいったのか上機嫌に料理が出来ることを俺にアピールしてきた。


「ええ、良い匂いがしてるね。とても美味しそうだ」


 俺は素直な感想を伝えるとふたりは嬉しそうに微笑みを浮かべてくれた。

 

「ほらほら、早くふたりとも座りなさいよ。あれ? 美優はまだかしら? 」


 そう言ってるとお手伝いさんが呼んできてくれたのか美優がやって来た。


「ごめんなさい。お待たせしました」


 美樹と千夏とともに美優もそう言って席に座った。さて、皆が揃ったところで今から夕食の開始だ。




「蒼汰さんどうですか? 美味しいですか? 」


「蒼汰くんどうだ? 蒼汰くんの口にあってるか? 」


 先程から何度も聞いているその言葉。


「ふたりともとても美味しいですよ」


 たしかに美味しい、美味しいんだがそう何度も聞かれると困るというかなんというか……

 美優は呆れた顔でふたりを見ていた。そりゃそうだろうな。でも千穂さんは美樹の様子を見て微笑ましいのだろうか嬉しそうな顔をしていた。俺は結構見慣れてきた美樹の様子だけど、こんなはしゃいだ美樹を千穂さんはあまり見ていないのかもしれない。普段はしっかりものらしい美樹だけれど俺の前ではこれが普通なのでいまいちわからないんだけどね。


 そんな和やかに進む夕食で美樹がこんな事を言いだした。


「蒼汰さん、お願いがあるんですが。私から蒼汰さんに食べさせてあげてもよろしいでしょうか? 」


 ん? どういうことだ?


「もしかして蒼汰くんに手料理をあーんしたいってことかしら? 」


 千穂さんがちょっと笑いながら美樹に尋ねた。 


「はい、そうです。私の手で私の手料理を蒼汰さんに食べていただきたいなって」


 そう言って頬を赤らめる美樹。いや、俺も流石に顔が赤くなっていると思う。でも恥ずかしいからってこりゃ断れるわけないな、美樹の気持ちが嬉しいのは確かなのだから。


 それにしても美樹は積極的だなって思う。母親がいようと俺にしたいことを伝えてくる。嬉しいことなんだけど人前はすごく恥ずかしいことなんだけどなぁ。そんな事を考えていると


「むむむ」


 千夏は悔しそうな顔をしていて「む」を続けて吐き出していた。いや、さすがに千夏はここでは駄目だよ。千穂さんの前だから。そう思っていたのだが


「千夏さん、あなたもしたいのならしても良いんですよ。本来母親なら娘の応援をするべきなんでしょうが、美樹もにこやかに眺めているようですし大切なお友達でもありますからね。どうぞ一緒にやっちゃってくださいな。それと千夏さん、この夕食時の行動だけで蒼汰さんに好意を持っているのはバレバレでしたよ」


 千穂さんからそう言ってあーんを促してきた。え? それでいいのか? 千穂さん。そして、その言葉を受けた千夏はバレたことが恥ずかしいのか真っ赤な顔をして下を向いてしまう。


「そうですね。千夏ちゃん、ふたりで蒼汰くんにあーんしましょうか? 」


 それに追撃をかける美樹。下を向きながらもその言葉に我慢できないのか素直にコクっと頷く千夏。

 そしていつのまにか俺が返事もしていないのにあーんをすることが決まっているそんな雰囲気になっていた。まあ、嫌ではないしいいんだけどね。




 そこから、俺は美樹と千夏からのあーん攻撃と美味しいですか攻撃をしばらく続けられことになるのだった。


 そんな3人を美優はいつものように呆れ千穂さんはにこやかに眺めているのだった。

お読みいただき有難うございます。

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