表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

猫夢

作者: 葉月圭斗

 こんな夢を見た。


 気づいたら、私は猫になっていた。

猫と言っても、普通の猫ではなく、背中に大きな翼が生えている、現実には存在しない幻獣の姿だ。

その羽をありったけに伸ばし、断崖絶壁の地面を力強く蹴り、今から海へ向けて飛び立つところだった。


 不安はある。

私は翼を持ったことも無ければ、自分の身体だけで空を飛んだことはない。

 しかし、夢の中の自分は、落ちることを恐れることなく、全速力。


 私の不安とは裏腹に、何の迷いもなく地面を離れ、宙へ。

目前に広がる空と海は、どこまでも続く地平線で綺麗に2分割されている。

 落ちているようにも、反対に、宙に舞い上がっていっているような気もする。


 気がついたら飛べていた。


 やってみれば簡単なことで、空を飛ぶと言うのは、存外気分の良いものだった。

行く宛は分からないが、海しか見えない、雲一つない空は、澄み渡り、私の気持ちを更に清まらせた。


 今だけは、何も考えなくていいのだ。

世界にも、海にも、空にも、その中に私は溶けて、消えていく。

そんな気がした。


 ふと、隣を見るとカモメとウミネコが手を繋いでいるかのように、仲良く横一直線に並んでは、一緒に飛んでいた。

奇妙な光景に、思わず、私は笑を零す。


 猫と鳥が仲良く空を飛ぶことなど、あってはならないだろう。

それとも、飛ぶのに慣れていない私のことを馬鹿にしているのかもしれない。


 そう思ったのも束の間……。やはり、何か違和感を覚える。

私だけ、高度が落ちてきているのだ。

それもそうかと、妙に納得する。


 猫は元々、飛べるように出来ていない。

私がやっていたのは、滑空だったのだろう。

カモメやウミネコたちと別れ、私はどんどん海に近づいていく。


 流石に、宙の上ではどうしようもない。

落ちていく自分を受け入れては、冷静である自分に違和感を覚える。

もしかしたら、もしかするのか?


 もう少しで水面に突入する……、という所で、私は駄目元で、水面を思い切り蹴ってみる。

音は限りなく鮮明で、一瞬、ピチュンと弾けると、蹴り飛ばした水面に、綺麗な波紋が広がる。

それを見送ることもなく、私は再び空へ投げ出されている。


 そうか、猫に足がついているのは、水面を蹴るためだったんだな……と、無理に納得する。

こうやって、落ちては、水面を蹴り、また飛び上がっては落ちる。

これが猫の飛び方なんだ。

そうなんだ。


 そうと分かれば面白くなってきた。

私は次に落ちた時、今度は力の限り、水面を蹴ってみようと思った。

どのくらいまでが自分の限界なのかを知りたくなったからだ。


 善は急げとばかりに、今度は全力で真下に滑空し始めた。

極端ではあるが、これが一番、限界の所まで飛べるやり方のような気がして、私は夢中だったのかもしれない。

はたまた、脳まで猫になっていたのかもしれない。


 勢いをつけて落ち過ぎた私は、水面を蹴るタイミングを外して、海の中へ真っ逆さまに落ちてしまった。

なるほど、翼というのは案外邪魔で、泳ぐことが上手く出来ない。


 猫の一番の死因は、溺死なのかもしらない、と、訳の分からないことを考えながら、深海に落ちていく。

浮き上がることはもう出来そうにない。

ないなら、せめて、腹ごしらえでもするか、と、近くを通る魚を睨みつける。

 しかし、ここは彼らの領域。

簡単に腹の中に収まってはくれないし、あまつさえ馬鹿にしたように去っていく。


 光もない世界が近づいてくるのを恐怖し、バタバタともがき苦しみながら、目を覚ました。


 悪夢だったようだ。

しっかりと覚えている夢は珍しい。

しかし、最近は空を飛ぶ夢ばかり見ているような気がする。


 その度に、空を飛ぶ夢を見た翌朝は、決まって、自分が空を飛べない哀れな生物だと思い知らされるのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ