小学生が考えた学校のマスコットキャラクターがおかしい件
「うーん、今日も相変わらず疲れたなぁ......」
家に帰って早々、僕はソファに寝転んだ。体をソファへ委ね、大きく伸びをしながらうめき声をあげる。
しかし、まだ休む訳にはいかない。今日はやるべき仕事が未だ残っているのだ。僕は体を勢いよく持ち上げた後、カバンから数枚の紙束を取り出した。僕は今から、生徒にやらせた「課題」のチェックを行わなければならないのだ。
今日は図工の時間、うちの学校のマスコットキャラクターを考えて描こうという課題を行った。その時渡したプリントがこれだ。
学校の校章に使われている「もみじ」をモチーフとしたキャラクターを書くというテーマは設けたものの、それ以外は一切自由である。
「さてと......」
いったいみんなはどんなイラストを描いたのだろう。5年生ともなれば、多少絵も上手くなっている事だろう。
算数や国語の採点と違い、こういう生徒の個性や想像力を見られる課題は見るのが楽しみだ。そんなわくわくした気持ちを胸に、僕は1枚目のプリントに視線を向けた。
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【説明文】
私は可愛いキャラクターが好きなので、もみじの妖精さんを書きました! 元気な男の子のキャラクターで、緑の葉っぱを赤く変える魔法が使えます!
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「なるほど、妖精か」
キャラクターの設定をキチンと考えてあるのが何気に好印象だ。葉が赤くなる自然現象を「魔法」と表現している点も想像力豊かで良い。僕はそのまま、視線を説明文下のイラストへと移した。
キャラクターをかいてみよう!
「おっ」
悪くない出来だ。色も綺麗で、キャラクターも可愛らしい。ただ。
「…………よく見たら足キモいな」
なんか細かいのめっちゃ生えてる。部屋に出て来たら嫌なタイプの虫みたい。
「でも、工夫があって良い絵だな」
全体的に見たらとても良い絵だ。うん。僕は一通り評価を付け、次のプリントへと進んだ。
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【説明文】
私はもみじと聞いて、1年前に家族で見た、闇夜の中で真っ赤にライトアップされキレイに輝いている紅葉を思い出しました。
なのでその時の記憶をもとに、キャラクターを考えました。
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「おおーなるほど」
百聞は一見に如かず。自分の思い出が基になっているなんて、良いキャラクターが描けていそうな期待が高まる。僕は視線をイラストの方へと向けた。
キャラクターをかいてみよう!
「怖っ!!」
心霊番組に出てくる、呪われた子供が描いた絵? 闇夜の紅葉を描いたのは分かるが黒と赤だけで絵を描くのはやめてほしい。
「いや、まじめに書いたなら仕方ないか......」
絵が下手だから評価を低くする、なんて事はない。努力して描いたならそれだけで高得点だ!
……僕はそう自分に言い聞かせ、次の絵を見るためプリントをめくった。
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【説明文】
血に飢え、闘争を好む悪魔の落とし子にして最悪の災厄。かつてはもみじと呼ばれていた彼であったが、いつからか畏怖と敬意を込めた異名で呼ばれるようになった。口癖は「─殺す─」
────その名を、求未血という────
◆
「なんだこの設定......」
絶妙にダサいのが気になるけど……。
しかし、血に飢えた悪魔の落とし子なんて、いったいどんなヤバいイラストを描いたのだろう……。恐る恐る、僕はイラストへと視線を向けた。
キャラクターをかいてみよう!
「なんか可愛いな」
もみじをめくったら裏に隠れてそう。このキャラクターが殺すって言っても多分怖くないと思う。
「うん、かわいい」
趣味に走らず真面目に設定を考えてくれれば良かったんだけど……。
次。
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【説明文】
「マスコットキャラクター」という言葉を聞くと、どうしても若い人向けだという印象を受けてしまいます。なので私は逆に、子供だけではなく、お年寄りの方に親しんでもらえるマスコットを考えました。
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「お~、視野が広い子だなぁ~」
確かに、マスコットと聞くとどうしてもゆるキャラみたいな、子供や若い子が喜ぶものをイメージしてしまうが、様々な年齢の方に親しみを持ってもらうのは、学校としてとても大切なことだ。
お年寄りに親しんでもらえるキャラクターとは、いったいどんなキャラクターなのだろう。
キャラクターをかいてみよう!
「もみじマーク!」
確かにお年寄りの方に親しみのある絵だけど。どう見ても交通安全のキャラクターにしか見えないし、なにより愛嬌がなさ過ぎる。B級映画に出てくる殺人鬼かと思った。
次!
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【説明文】
わたしはたくさんの人にキャラクターを覚えてもらうために、マスコットの絵描き歌を考えました!
◆
「お、絵描き歌か~」
こういう絵の上手さ以外の部分で創意工夫が感じられるアイデアは非常に好ましい。絵描き歌は頭に残るし、つい書いちゃうんだよなぁ……
いったいどんな絵描き歌を考えたのだろう。
キャラクターをかいてみよう!
「......うん?」
全体的に雑というか、絵描き歌で「にっこにこ」なんて言われても困るなぁ......。そこは例えば「カモメがお皿を落としたよ」みたいに一工夫欲しかった。あと色も塗ってないし。
「まぁ、アイデアは評価できるかな〜」
次。
◆
【説明文】
山かいて 山かいて 池ひとつ~ てんてんおめめ にっこり笑って
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キャラクターをかいてみよう!
「何の話だよ!」
なんで名古屋土産のまんじゅうの絵描き歌なんて描いたんだ。知らない人多いだろこれ。あと商品そのままだからコレ完全に盗作。
次、次!
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【説明文】
僕の家にはもみじが生えているので、葉の細かい形にまでこだわったもみじを書きました。
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「もみじじゃなくて、もみじモチーフのキャラクターを書いて欲しかったなぁ」
話をあまり聞いていなかったのだろうか。どうやら勘違いをしているらしい。仕方ないなぁ......
キャラクターをかいてみよう!
「違法なやつ!」
家に生えてちゃダメだろこれ。冗談だと信じよう……
次!
◆
【説明文】
紅葉を使ったマスコットキャラクターを考えるのが面倒だったので、代わりに新しい校章を考えました。
出来上がった校章を見て「これは世界に通用するぞ」という気持ちになった自信作です。
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「代わりにってなんだよ」
全く代わりになってないし、面倒って言っちゃったよ。
でも、こんなに自信があるなんてどんな校章を考えたのだろう。少しだけ気になる。
キャラクターをかいてみよう!
「国旗!」
あるよこれ! そりゃ世界に通用するわ。デザインの盗作はやめましょう!
次!
◆
【説明文】
マスコットキャラクターの代わりに、民衆を導く自由の女神を描きました。
◆
「?????」
代わりにって言えば何描いても良いみたいな風潮やめません? 先生泣くよ?
「というか、民衆を導く自由の女神ってなんだっけ……?」
キャラクターをかいてみよう!
「上手いけど!」
これ描いたの? マジで? その才能をキチンと課題を通して見せて欲しかった。
「……ん?」
「……求未血がいる!?」
なんでだよ。血と闘争を好むから? 次! 次!
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【説明文】
マスコットキャラクターの代わりに、先生が逮捕されたときの絵を描きました。
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「逮捕された時ってなんだよ」
逮捕されたことも逮捕される予定もないんですけど?
キャラクターをかいてみよう!
「ロリコン言うな」
先生がロリコンで逮捕って、これだと生徒に手を出したみたいじゃん。やめてくれ。
キャラクターをかいてみよう!
「処刑されるのかよ!」
罪と罰のバランスおかしくない? 先生かわいそう! あっ、これ僕だわ。
「……今日はもう、寝よう」
なんか疲れた。僕は採点を諦め、ベッドにダイブした。とりあえずは、次の図工までに採点すれば良いや。おやすみなさい。