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願わくば笑える人生で  作者: 今空 アルゴ
第一章
6/8

仏頂面なイラストレーター Ⅳ

暫時の後、彼女は店を後にした。

そして当然の如く、俺も彼女に合わせ店を後にする。

両開きの扉を押しける。

されば店の前——目の前、春夏冬 雅がそこに立つ。


「昨日ぶりですね、不法侵入者さん」


 木組みの手すりに腰を預け、その細くてか弱そうな足を交差させながら、彼女は首を少しばかり傾けて見せた。


「間違ってはないが……その、なんだ。不法侵入者と呼ぶのはやめて欲しい、と言った切実で無垢な俺の願いを聞き受けてはくれないか?」


「確然たる拒否を宣言します、不法侵入者さん」


「そんなに嫌かっ⁉」


 流石に拒否しすぎだろ⁉ 



 話題転換。



「まぁ、そんなことはどうでもいいのですが——」


 して、彼女は少し怪訝を含んだ表情に切り替えると、俺に向き真っ直ぐな視線を飛ばし、今、この場で最も問うべき言葉を投げかけてきた。


「まず、あなたは何者ですか?」


「何者、か……」


 言うまでもなく、その問いは簡単に言葉にして返せるものではない。

 ——だが


「……」


 空と目を合わせ、流れゆく雲に視線をずらし、


「場所を変えよう、春夏冬 雅。すべてを語るのはそれからだ」


 俺は初めて彼女の名前を口にする。

 確かな覚悟に少しばかりの不安を入り混ぜて。



        



「墓地……?」


 彼女の口から静かに言葉が零れた。

 霞町の北端——そこには丘があり、そして、丘には墓地がある。


「こっちだ」


 彼女の先を歩き、目的の場所まで足を進めていく。一寸の迷いなどなく。

 道に沿い、いくつもの墓を背に流し、少し歩いたところで俺は足を止めた。

 目と鼻の先、当然そこには墓がある。俺のよく知る、よく来た場所だ。

 刹那、記憶の奥底が少し熱くなるのを感じた。

 まだ幼い頃、ここに来ると俺は決まって泣き喚いていた。

 おとう、おとう、などと叫びながら。どうにもならないことをどうにかなれと、願い、叫びながら。

 だが、それが今では……。


「もう、三人も名前を叫ばなくちゃな……」


 その墓の前に腰を下ろし、刻まれた名前を手でなぞり。


 切なく笑う。


「……ご家族、ですよね?」


「ご名答。というか、わかって当然だよな」


「それは、まぁ……」


 彼女はちょこんと俺の隣に腰を下ろす。


「質問しても?」


「構わんよ」


 風になびかれ降りてきた髪を彼女は軽く耳にかけながら問う。


「再度聞きますが、あなたは何者ですか?」


「そうだな……」


 再び空を仰ぐ。なんとも淡い空がそこにはある。


「あんたは、死人が蘇ると聞いたら信じるか?」


「……?」


「そのままの意味だよ。深く考えなくていい」


「は、はぁ……」


 納得のいっていない表情を貼り付け、しばし彼女は悩み、


「それが果たして真実なのかどうか、それを置いておくのであれば、おそらく私は信じてしまうと思います」


 そう答える。


「なるほど、な……」


「それで? その質問の意味は一体どこに?」


「どこというか、ここにあると言うべきか……」


「くどいのは嫌いです」


 彼女の頬が少しばかり膨らむ。

 これは、まぁ。そこはかとなく、可愛い。


 ——が、そろそろ本題といこう。


 俺は静かに語りだす。


「ざっくり言い捨てるなら、一度は命を落とした存在。それが俺——木枯 雅人だ」


 墓に彫られた三番目の名前。そこを指でなぞりながら言う。


「父は俺がまだ幼い頃、不慮の事故で亡くなったと母から聞いている。そして、その母も俺の中学卒業を待たずして父の後を追った。正直なところ、その記憶さえも今では曖昧だが。……ただ——」


 そう。今もなお、ただ思うのは……。


「紫蘭——あいつには、もう少しだけ長く生きてほしかったと思うよ」


 指をずらし、四番目の名前をそっと、優しくなぞりながら。

 どうにもなく、どうしようもないことを願う。


「つまり、あなたの名前は木枯 雅人であり、一度は死を経験した人であり、紫蘭さんの——おそらくは、妹さんの死を今もなお悔んでいる……と」


「ん」


 頷く。


「ですが、私を尾行する理由はほかにあるわけですよね?」


「話が早くて助かるよ、本当……」


 俺は彼女の受け入れの速さと優れた理解力に感服を覚えつつ、


「そんじゃ、まずは確認といこうか」


 本題の深淵へとかじを切る。


毎回三話まとめて投稿していきたいと思います。

出だしなので投稿が早いですが、ここから遅くなるかと……。

週に一回は投稿できたらいいなあ((+_+))

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