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願わくば笑える人生で  作者: 今空 アルゴ
第一章
4/8

仏頂面なイラストレーター Ⅱ

 気が付けば朝は来ていた。

 霞町の朝。どこか懐かしく思えてくる。

 俺はベンチに横たわっていた体を起こし、そのまま腰掛ける。

 一あくび休符を打ち、ぼやける視界に鮮明さを与えれば、

 

 ——見覚えのある髪色が横切った。

 

 ピントを合わせると、そこには彼女——春夏冬 雅が映る。

 一瞬、声をかけようか、とも思う。

 が、そんな勇気、あいにく持ち合わせていない。

 そのまま彼女はどこかに急ぎ向かう様子で、ハイテンポの足音を奏で消えていく。

 反射的になのか。その後ろ姿を追うように、自然と腰が持ち上がる。

 ……彼女は——春夏冬 雅は、俺が担当する悪魔保持者。

 ソルナは教えてくれた。

 悪魔は、対象者の心の穴を埋めることで表に出てくると。

 心の穴を埋める——それすなわち、対象者の心を癒すこと。傷を癒すこと。真実を刻むこと。

 そのために俺が為すこととすれば……。


「……よし」


 尾行するとしよう。

 俺は固い決意を胸に彼女の後を追い始める。

 ストーカー、ではない、はずだ。これはあくまで調査の一環。そう、きっと……うん、多分。



 彼女が足を止めたのはそれから十分の後であった。

 彼女——春夏冬 雅は、おもむろにカバンからメモを取り出すと何かを綴り、その場にメモを残すと再び歩き始める。


「書置き……? なんでまた、こんな道のど真ん中に?」


 俺はメモを拾い上げる。

 

 ストーカーですか? 通報しますよ?

 

「……!」


 稲妻が迸った。

 漫画などで見る、衝撃を受けた時に使われる類の【あれ】である。

 メモにはその二文がきれいに並べられているだけで、他には何も書いていない。

 つまるところ余白が多いせいでその二文、二言が余計に刺さるのだ。

 しかしそんな中、数メートル先を行く彼女はまたしても足を止め、先ほどと同様、メモを残すと足早に去っていく。

 俺はそっと二枚目のメモに目を移す。


「ひ、拾えってか……?」


 もはや心の半分以上が恐怖に占領されている俺からしては、かなり鬼畜の諸行である。

 赤旗を上げる準備など当然済んでいた。

 ……だが。

 恐る恐る拾い上げる。

 

 気が急変しました。やはりストーキングしてください。


「……⁉」


 稲妻が交差した。

 驚きもあるのだが、それに勝り恐怖が心を染めていく。

 ストーキングしてください? 何故にそうなった⁉

分からない。というか怖い。

 俺はこれから彼女に利用されるのか?

 もしくは交番に誘導されてしまうのか?

 それとも……。

 ……いや、なんにせよ、恐ろしいことこの上ない!

 しかし現状、俺の中にはこの場から逃げ出すという勇気がすでに消え失せているのはまた確かであった。

 そのため、ストーキングは終わりを迎えない。迎えられない。


四話まで投稿予定です。

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